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これを知らないと、失敗・破綻が忍び寄る? 賃貸不動産投資『基本のキ』

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イメージ/©︎drozdirina・123RF

サラリーマンオーナーが増えたこの十数年

過去には、いわゆる地主層の相続税対策がきっかけとして目立っていた賃貸不動産物件への投資。そこに、若手のいわゆるサラリーマンオーナーが少しずつ参入し始めたのが、2005年を過ぎた辺りからだろう。

この分野を専門に扱う代表的な情報サイト「楽待」「健美家」のスタートが、折しもこの年前後となる。このうち健美家が昨年11月に公表した「第16回不動産投資に関する意識調査」の結果によると、回答した会員ユーザーの55.0%が会社員、5.6%が公務員となっている。対して、専業オーナーは15.9%だが、このなかには元サラリーマン大家だった独立組も、相当数含まれているはずだ。

この記事では、そんなサラリーマンオーナーにこれからなろうとする人に向けて、賃貸不動産物件投資の基本の「キ」をアドバイスしたい。いまは本業を持ちながら、金融機関から資金を借り入れ、アパートやマンション、一戸建て賃貸など、いわゆる収益物件を購入し、これを経営したいと思っている人が主な対象だ。

ちなみに、いま「経営」と書いた。話はここから始めよう。

1.理解必須——「賃貸事業」の基本的な構造

始めるのは事業。投資はその第一歩

賃貸不動産物件投資は、実際には投資という言葉に括りきれない。ネット証券会社のサイトに口座を開いて、株や外貨を買うといった場合の投資とは意味が違うということだ。

すると、その正体は何なのか? 答えは「事業」だ。賃貸不動産物件投資は、投資と経営を併せた“事業”そのものなのだ。よって、ここからは呼び方を変えよう。せっかくなので短く「賃貸事業」だ

もっとも、投資と経営のうち、経営の場面をほとんど持たない賃貸事業もないわけではない。例えば、運営がスムーズな状態においてのサブリースなどはそれにあたる。しかしながら、さきほど記したようなサラリーマンオーナーが手掛ける賃貸事業の多くはそうではない。通常は、文字どおりの事業となる。 

とはいえ事業とはいっても、賃貸事業では管理会社を筆頭としたパートナーにさまざまな仕事を任せることで、事業家(オーナー)が事業にかける時間や手間は大きく減らすことができる。ただし、それでも彼らへの指示や、そのための判断はオーナーの仕事だ。企業でいえばパートナーは部や課、オーナーは社長にあたっている。

つまり、賃貸事業は完全に事業でありビジネスだ。そのうえで、やり方によっては手間と時間をかなり圧縮できるため、兼業に適していることが大きな魅力となる。

レバレッジ投資+アウトソーシング+自身の労働

賃貸事業は、通常はレバレッジをかけた投資と、アウトソーシングされる業務、さらにオーナー自身の労働、この3つを組み合わせたものになる。

このうち、レバレッジをかけた投資とは借金のことだ。オーナーは金融機関からお金を借りることで、自己資金の何倍もの資金を調達し、それを投資に向けられる。これは賃貸事業のもつ際立つ特徴だ。担保価値の確立された不動産を投資対象とするがゆえのメリットにほかならない。

一方、アウトソーシングとは、さきほどもふれたが、他者に仕事を任せることだ。賃貸事業では業務の多くをアウトソーシングできる。また、さまざまな理由によって、アウトソーシングしなければならないものも少なくない。(専門の技術者が行う工事や、免許を持つ宅建業者でなければできない仕事など)

一方で、日常行う物件清掃など、アウトソーシングが無駄と思えば、オーナーが自らそれを手掛けられることも少なくない。つまり賃貸事業において、投資の部分以外についてはオーナーは都合に合わせてそれを誰がやるのか配分し、調整することができる。自身の時間を削ればその分アウトソーシングに要するコストを減らせる一方、コストをかけて他者にそれをやってもらえば、代わりに自身の時間が得られるかたちだ。

リターンの増加に積極関与できる投資=賃貸事業

ここで初めに戻り、賃貸事業をあえて「投資」と括ってみよう。すると、賃貸事業はこういった特徴をもつ投資であるということになる。

「投資の成果に対し、投資家が関与できる度合いが大きな投資」 

こう考えれば、賃貸事業と、株や外貨などいわゆる一般的な投資との違いがさらにはっきりするはずだ。すなわち、市場任せではなく、オーナーの努力や工夫によって収益が上がったり下がったり、結果に直接影響が及ぶダイナミックな投資こそが賃貸事業だ。 

例えば、管理にかかるコストを抑えるために、物件の清掃や植栽の手入れは、オーナーが時間をかけ勉強もし、自ら行う。それが実って、物件の美しい内・外観が評判を呼び、空室がどんどん埋まっていく——。

あるいは、管理・仲介会社や地元の工事会社など、人とネットワークを上手に動かして、仕事の配分をコントロールする。そのことで、無理なく効率よく収益を上げていく——。

こうしたことに面白さややりがいを感じられず、面倒なイメージしか持てない人は、賃貸事業を手掛けるオーナーとしての資質からは遠いことになるわけだ。同じ不動産でも、REITや不動産小口化商品を購入するといった、純粋な投資のみちを選んだ方がよいということになる。

2.腹に据えるべし——賃貸事業から生まれる収益の仕組み

キャピタルゲインとインカムゲイン

賃貸事業から生まれる収益には、大きく分けて2つある。ひとつはキャピタルゲインだ。保有している物件を売る際に(その物件での賃貸事業を終える際)物件価格が購入時よりも高くなっていて、利益が生じた場合の手残りを指す。

もうひとつはインカムゲインだ。賃貸事業そのものによって得られるお金のことだ。つまりは、家賃収入から経費等を除いた結果としての収益のことをいう。

このうち、バブル時代のような不動産の右肩上がりの価格上昇といった環境下にはない現在、キャピタルゲインは当然ねらいにくい。そのため、王道ともいえるインカムゲインを確実に追求するのが、いまの賃貸事業のセオリーだ。

利回りとキャッシュフロー

賃貸事業のインカムゲインを支える根本となるのが「キャッシュフロー」だ。破綻したオーナーには、この概念が頭にしっかりと収まっていなかった人が多い。 

とはいえ、キャッシュフローを理解するのはさほど難しいことではない。賃貸事業においては、家賃収入から諸経費、ローンの返済額と利息、税金を差し引いたうえで、最後に残った現金のことを指すと理解すればいい。非常に簡単だ。

一方で、賃貸収益物件情報を見ると、そこには必ず「利回り」という項目がある。これは通常「表面利回り」のことを言っていて、実はかなり大雑把な数字になっている。計算式を記せばこうなる。

(その物件の満室での年間想定家賃収入÷物件価格)×100

見てのとおり、経費も何もかも全部すっ飛ばした数字だ。なので、賃貸事業における本当の利回りといえば、それは、上記のキャッシュフローに当たる数字を「物件価格+購入時諸経費」で割った数字となるだろう。

ただし、表面利回りは、相場感とのバランスを測るなど物件を大づかみで俯瞰するための入り口データとしては便利なものだ。そのため、それなりに重宝されてはいる。

キャッシュフローから、リスクヘッジも資産形成も生まれる

キャッシュフローに話を戻そう。キャッシュフローこそ、賃貸事業のすべての成果を生み出すカギだ

例えば、毎年のキャッシュフローがゼロに近い賃貸事業は、融資の返済と利息を支払うまでで精一杯の状態に陥っている。最悪、破綻さえしなければ物件のみは手元に残るが、要は、長いローンの危ない橋を渡って高い買い物をしただけという、空しい結果待ちだ。

さらに、キャッシュフローの累計がマイナス続きともなれば、それはより深い病状を示すサインとなる。オーナーの本業収入や貯金が蝕まれているのだ。手を出さない方がよかった類のプロジェクトといえるだろう。

逆に、キャッシュフローが着実に積み上がっていくような経営が行われれば、それは3つの面での恩恵を生む。ひとつはリスクヘッジだ。 

市場の急な変化にともなう空室の増加、それに付随しての家賃の下落、あるいは、物件で起こりうるさまざまな事件・事故、加えて災害のほか、予定されていた修繕・非予定の修繕など、ありとあらゆることへの対応がキャッシュフローの蓄積が健全な経営であれば容易になる。

さらには、攻めの有利だ。賃貸事業は、物件を増やしていわゆるポートフォリオを組むことでより安定する性質を持つが、キャッシュフローは当然そのための原資となる。なおかつ、十分なキャッシュフローとそれを生み出している経営への外部からの信頼は、次なる融資をスムースに実現させるために必須のものだ。

3つ目は、資産形成だ。さきほども触れたが、キャッシュフローが着実に積み上がり続けている賃貸事業にあっては、当然、融資の返済も余裕のうちに進んでいる。その間、オーナーにとっては物件の純資産化(自己資産化)も、同じく余裕のうちに進んでいることになる。

もっともいまの時代、賃貸物件のような土地付き建物の資産価値は通算で目減りしやすい。土地価格は上がりにくく、一方建物は劣化するからだ。 

しかし、そうした減少分もまた、キャッシュフローが現金資産化したり、次なる投資によって新たに現物資産化(=物件に変わる)したりすることで、埋め合わせられるかたちとなる。すなわち繰り返すが、キャッシュフローこそは、賃貸事業の成果のすべてを生み出すカギだ。

キャッシュフローを緻密にシミュレーションせよ

以上から、賃貸事業においては、キャッシュフローを最大化することこそがもっとも重要なミッションであることがよく分かるだろう。逆にいえば、キャッシュフローを悪化させないための事業の設計・構築と、日々の努力が非常に大切なものとなる。

ポイントを挙げよう。まずは事業の設計・構築面だ。 

1.自己資金比率をなるべく高める(=融資の際の頭金を増やす)
2.なるべく低い金利で、なるべく長期の融資を受ける
 ——以上によりローン出費を抑える

3.空室の生じにくい物件を選ぶ
4.経費の生じにくい物件を選ぶ
 ——以上により、家賃収入の逸失と事業損失を抑える

次に「日々の努力」にあたる部分だ。

1.空室をなるべく生じさせず、生じても長引かせないための工夫、努力をする
2.金利の変動など金融情報をしっかりとキャッチし、借り換え等、必要な行動をとる

以上、理屈はきわめて単純だ。出るお金は抑え、入るお金は最大化させる。そのための環境をきちんと作り出しておく、作り出していくということになる。

とはいえ、こうしたポイントをバランスよく押さえていくのは実は結構むずかしい。例えば、事業の設計・構築面の1、2からすると、新築よりも購入価格が抑えられる中古物件は、ローンの総額が下がるため基本的にはおススメということなる。

だが、一方で中古は3、4の部分で不利だ。当然ながら新築よりも集客面が弱いほか、物件を買ってほどなく給水ポンプなどの基幹設備が壊れ、多額の交換費用が生じたといった不幸な話も、少数ながら聞かれるところだ。

つまり、そうした点を鑑みれば、オーナーに寄り添い、親身になってしっかりと物件を吟味してくれるパートナー(管理会社を含む不動産会社)を探すことは、特に初心者にとっては大変重要だ。

また、「日々の努力」にあたる部分については、これこそまさに前述したオーナー自身の関与、経営能力が試される部分となるわけだ。

なお、キャッシュフローは、企業の決算報告と同様、事業の結果を示すものであって、事前に確定した数字を知ることが出来るものではない。しかしながら、仮の数字を組んでのシミュレーションについては、いまのネット時代、それがかなり細かく行えるツールも公開されている。

よって、これから賃貸事業に乗り出したいと思う人は、こうしたものを大いに利用して少しでも感覚を養っておくのがよい。賃貸物件に投資し、経営するという、未経験者には漠然としたイメージしか湧かない世界の現場で生じるマネーの動きが、幾分か実感として見えてくるはずだ。

3.事業目的を定めよう

以上、いわゆるサラリーマンオーナーを想定した賃貸事業に関する基本の「キ」を選りすぐって述べてみた。

賃貸事業は、参入する際に勉強すべきことがとても多い世界だ。ひととおりを伝えようとすれば、物件選択を筆頭に、金融機関との交渉に関するあれこれや、税務に関する話、さらには物件売却についてのノウハウなど、通常は単行本1冊分程度にはなる。 

そのうえで、この記事では、賃貸事業のいわばスケルトンの部分を語ってみた。賃貸事業が明らかな「事業」であることと、その成否のカギとなるキャッシュフローについて、簡潔に説明してみたつもりだ。ぜひ、次のステップへの土台にしてほしい。

最後に、賃貸事業を始めるにあたってのおすすめなアクションを伝えよう。

それは、事業目的を決めることだ。これから自身が始める賃貸事業は、何のためにこれを行うのか、ハッキリと文字に書いて掲げよう。書くべき内容は2つある。しかも、それらはこの記事が読者に押し付けさせていただく。見てほしい。以下のとおりだ。

私の賃貸事業の目的

一 人々に、安全で快適な、住んでよかったと思える部屋(家)と環境を提供すること
二 一の達成をもって、私(私と家族)の幸福の礎となる資産を形成すること

一は、不動産投資に関するレクチャーでは大抵忘れられる傾向にあるが、これが基本だ。この目的がブレなければ、その賃貸事業のコンパスの針はつねに成功の方向を指し続けることになるはずだ。 

二のポイントは「資産を形成する」という部分にある。これは賃貸事業の目的としてもっとも適切なものだ。老後のため、子どものため、セミリタイヤするため等々、賃貸事業でよく掲げられる具体的な目的は、集約すれば資産形成の成功というひとつに収まるものだ。

なお、後者の心がけをしっかりと持っておけば、オーナーはよくある失敗も避けやすくなる。それは、生じたキャッシュフローを財布の中に湧いた札束と勘違いし、不要な買い物や遊興費等に投じてしまうことだ。述べたように、キャッシュフローはリスクヘッジも兼ねた資産形成のための積み重ねであって、リスクが顕在化せずに済んだ場合は、事業の安定のためさらなる投資の元手とするのが正しい使いみちとなる。

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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