片付けから始まった 暮らしをイメージさせる「ホームステージング」#4 〜賃貸物件がホームステージングで生まれ変わる③〜
杉之原 冨士子(すぎのはら ふじこ)
2021/09/28
画像/一般社団法人日本ホームステージング協会
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事の杉之原冨士子さんは、専業主婦から、引っ越しの梱包や開梱、収納、そして内覧のための片付けなど、住まいに関わるさまざまな業務を経験し、日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる日本ホームステージング協会を設立した。不動産の売却や賃貸、生活に関わる“ホームステージング”や“片付け”の必要性を、杉之原さんの実体験も交え、さまざまな角度から連載でお届けする。
◆◆◆
入居者が減り空室期間が長くなる原因とは?
以前、片付けの仕事をしていたときに、家の外を見れば片付いている家か片付いていない家か、おおよそ判断できました。
例えば、ビニール傘が外窓のところに何本も引っ掛けてあったり、すでに枯れてしまった植木鉢や使っていないような子どもの外遊び用おもちゃが出しっぱなしだったり……。
整理できている家は、外回りに出しているものは何もなく、きれいに掃除がしてあります。外回りに物が出しっぱなしの家は、家のなかも整理できていない状況が長く続いていることがよくありました。そして、その建物自体のメンテナンスがされていない状態が多かったのも事実です。さまざまな要因が絡んでいるということが考えられます。
人は、家のなかに入らなくても、家の外から「ここは、こんな家なんじゃないだろうか?」と想像してしまいます。同じように内見者は、家に入らなくても内見するまでの通り沿いから家の外回り、エントランス、部屋に入る前までじっくりと観察するはずです。
以前のコラムで、私は賃貸住宅に20年住んでいて、長く住んでいる理由はメンテナンスがいいことを挙げました。賃貸住宅に限らず、多くの人が暮らす場所はきれいに住みたいと思っているはずです。
エントランスのゴミ箱からチラシが散乱していたり、ホコリが溜まっていたり、草木が伸びていたり、枯れていたりすることは気持ちのいいものではないはずです。共有部分がメンテナンスされていないという事は、家の価値がどんどん下がっていくことなのです。入居者自身もいいと思っているはずはありません。入居者が減ってしまう、空室期間が長くなる原因にもなってしまいます。
ホームステージング=物件の価値向上
実は、ホームステージングの領域のなかには、エクステリアの植栽、伐採、ペインティング、共有部の掃除なども含まれます。
米国の中古住宅売買物件では、エクステリアのホームステージングは欠かすことができません。塀をペインティングしたり、伸びすぎた庭木を整えたり、草花の手入れすることで、物件を魅力的にホームステージングして早く高く売却できるようにします。
日本でもホームステージングすることが、家具や小物を設置することだけではなく、家の価値を上げる手段だということが広がってくるといいなと思っています。
それくらい共有部分をメンテナンスすることは重要なのです。その物件に住んでいること自体がステータスになり、「あの部屋が空いたら入居したい」というような「空き待ち予約」の物件が増えたらいいなと思っています。
ぜひ、家の価値を上げていくために、「ホームステージング」の考え方を導入していただきたいと思っています。
入居者の人生を彩る賃貸経営
あるオーナーさんは、毎年、入居者さん向けにさまざまなイベントを行っています。
例えば、バレンタインデーには子ども向けにチョコレートを配り、ハロウィンには駄菓子を配り、結婚が決まったカップルの入居にはエントランスに「HAPPY WEDDING」のウェルカムボードを飾り、クリスマスの時期になるとイルミネーションがきらめきます。
入居者がワクワクするようなエントランスの飾り
そしてこのアパートの外回りには、季節ごとにそれぞれの草花が建物を引き立ててくれます。ここに住む人は人生をこの家で過ごしていくのだから、楽しい時間でいてほしい。そんな物語を歩んでほしいというオーナーさんの思いが溢れた賃貸住宅なのです。
このオーナーさんが、「オーナーってほんとに素晴らしい職業だ」と言っていたのが忘れられません。自分の物件を大事にする。その思いが入居者さんに伝わるのは事実です。この物件では、何人もの赤ちゃんが誕生し、その子が大きくなり、手狭になったことが理由で引っ越しされる——というほど、長い期間住む人が多いそうです。
緑溢れる賃貸住宅
また、入居者さんとオーナーさんの関係も良好なのは言うまでもありません。長く住んでくれるという理想的な賃貸経営は、オーナーさんの物件に対する熱い愛情のたまものなのだと思います。
しかし、なかなかここまでやるのは大変なことかもしれません。もちろん管理会社にお任せしているオーナーさんも少なくないかと思います。
ですが、できるだけ物件に行ってみて、外回り、エントランス、共有部分などのメンテナンスを確認することは大事です。きれいにすることで、物件価値が必ず上がります。それが空室改善の一歩なのではないかと思うのです。
今年はぜひクリスマスの時期に、クリスマスにちなんだものひとつでも共有部分に置いてみてはいかがでしょうか? もし、イルミネーションがきらめいていたら、入居者の皆さんが帰ってきたときにワクワクするのではないでしょうか?
入居者さんは、「ここに住んでいてよかった」、内見者さんは、「ここに住んでみたい」と思う物件にするために、今年の冬、挑戦してみませんか?
【過去の記事】
〜ホームステージングが当たり前の時代がやってくる〜
〜賃貸物件がホームステージングで生まれ変わる〜
〜賃貸物件がホームステージングで生まれ変わる②〜
この記事を書いた人
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事
専業主婦を経て運送会社に就職。事務パートから引越営業職と同時にお客様の荷造り荷解きサービスも担当。2011年に独立し、お片づけ・梱包会社株式会社サマンサネットを設立。多くの現場経験からホームステージングの必要性を感じ2013年日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる一般社団法人日本ホームステージング協会を設立。 一般社団法人 日本ホームステージング協会 https://www.homestaging.or.jp/