片付けから始まった 暮らしをイメージさせる「ホームステージング」#5 ホームステージングの効果は空室改善だけではない(1/2ページ)
杉之原 冨士子(すぎのはら ふじこ)
2021/11/04
イメージ/©️mkopka・123RF
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事の杉之原冨士子さんは、専業主婦から、引っ越しの梱包や開梱、収納、そして内覧のための片付けなど、住まいに関わるさまざまな業務を経験し、日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる日本ホームステージング協会を設立した。不動産の売却や賃貸、生活に関わる“ホームステージング”や“片付け”の必要性を、杉之原さんの実体験も交え、さまざまな角度から連載でお届けする。
◆◆◆
「もっと快適に過ごしたい」コロナ禍での変化
コロナ禍の影響で、多くの方が外出を控えたり、テレワークが当たり前になりましたね。長時間自宅で過ごすという、今までにない生活スタイルになったことがきっかけで、改めて家のなかを見直し「もっと快適に過ごしたい」と感じる人が多くなっているようです。
インテリアなどの販売が好調だという話を聞きますが、この巣ごもり需要が増えているから、ということなのだと思います。
今まで感じなかった家のなかの快適さについて、改めて問題意識が高まったという意味では、コロナ禍の期間が悪いことばかりではなかったのかもしれません。
実は、ホームステージングは空室改善というだけでなく、暮らしの価値を高めるためのものでもあります。家は暮らしの基盤となる場所です。そこで育まれる大切な時間をもっと快適な場所で過ごしてほしいと思っています。
家を片付けないと次の更新ができない入居者からのSOS
私がそんな思いを抱き始めたのは、引っ越しのときや片付けのお手伝いをしていた頃、たくさんの家のなかを見てきた経験がきっかけでした。
そのなかには、遺品整理やゴミ屋敷になってしまった家の片付けなどもありました。
「なぜ、ここまでの状況になってしまったのだろう」
「こうなる前に、誰か、何かできなかったのだろうか」
「ここでどんな生活をしていたのだろう」
想像するだけで心が締め付けられるようでした。そして、忘れられないエピソードがあります。
賃貸物件に独り暮らしをしている高齢女性の息子さんから電話がかかってきました。
「大家さんから家を片付けないと次の更新をしない」と言われてしまい、とにかく、どうしても片付けてほしいという悲痛な電話でした。
部屋は1階の2DKでした。アパートのドアを開けると、目の前には積み上がった荷物で隣の部屋が見えないほど部屋全部が物で溢れていて、玄関から中に入ることができませんでした。
「どこで寝ているんだろう?」それが最初に思い浮かんだことでした。
よく見ると、鳥の巣のように、ちょうど背中を丸めた女性がすっぽり入る丸いへこんだ部分がありました。「ここで寝てるんだ!」——衝撃でした。
荷物の山で電気のスイッチがどこにあるのか、お風呂のなかにも荷物が山になっていて使えず、身体は濡れティッシュで拭いている、ということでした。この方は経済的に余裕がないわけではありませんでしたが、このような暮らしが続いていたのです。
この部屋の片付けを少しずつ行いながら、根気よくコミュニケーションを取り、当たり前の暮らしができるようになるまで、数カ月が必要でした。当たり前の暮らしとは、夜になれば電気をつけ、喉が渇けば冷蔵庫から冷たい水が飲める。毎日お風呂で体を洗い、キッチンで料理を作る。
皆さんはこういった事例を、特殊な家だと思っているかもしれません。
しかし高齢になって、体力・気力がなくなり、コミュニティーもなく孤立するようになると、あっという間に家のなかにモノが溢れ、片付けたくても片付けられない状況になってしまう方が少なくありません。誰でも簡単にこうなってしまう可能性があるのです。もちろん、私自身も例外ではないのです。
片付けたくても片付けられない状況になる前に…
この記事を書いた人
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事
専業主婦を経て運送会社に就職。事務パートから引越営業職と同時にお客様の荷造り荷解きサービスも担当。2011年に独立し、お片づけ・梱包会社株式会社サマンサネットを設立。多くの現場経験からホームステージングの必要性を感じ2013年日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる一般社団法人日本ホームステージング協会を設立。 一般社団法人 日本ホームステージング協会 https://www.homestaging.or.jp/