片付けから始まった 暮らしをイメージさせる「ホームステージング」#1 〜ホームステージングが当たり前の時代がやってくる〜
杉之原 冨士子(すぎのはら ふじこ)
2021/06/23
画像/日本ホームステージング協会
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事の杉之原冨士子さんは、専業主婦から、引っ越しの梱包や開梱、収納、そして内覧のための片付けなど、住まいに関わるさまざまな業務を経験し、日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる日本ホームステージング協会を設立した。不動産の売却や賃貸、生活に関わる“ホームステージング”や“片付け”の必要性を、杉之原さんの実体験も交え、さまざまな角度から連載でお届けする。
「ホームステージング」という言葉をご存じですか?
まだまだ一般的には知られていないホームステージングという言葉ですが、現在、大手不動産会社のほとんどがホームステージングを導入しています。
不動産業界でのホームステージングとは、入居後の暮らしのイメージが膨らむよう物件に家具小物を設置することです。つまり無機質な空間に、感情が生まれる暖かい空間を演出し、ストーリー性を持たせることをホームステージングといいます。
入居者は、その部屋で幸せな暮らしができることを想像しながら部屋を決めています。暖かい暮らしをイメージする演出によって、入居者が早く決まるのは当たり前のことなのだと思います。
ホームステージングの始まり
ホームステージングは50年程前に、米国シアトルの不動産仲介業 バーブ・シュワルツ氏が「不動産物件に自宅から持ってきた家具小物を設置して早く高く売却できた」という成功体験を「ホームステージング」(家を演出する)として、全米に広めたことが始まりだといわれています。
米国では、中古住宅にホームステージングを行うことは当たり前であり、それを担う人を“ホームステージャー”といい、専門の職業にもなっています。
私たち一般社団法人日本ホームステージング協会は、この米国のホームステージングをそのまま日本に広めようとしたわけではありません。そもそも、米国とは部屋の広さも造りもライフスタイルも大きく違います。また、日本には少子高齢化、空き家問題などの社会問題もあります。そこで、そこに住む人の暮らしの悩みを踏まえて、日本の住宅事情に見合った日本独自のホームステージングを普及させることにしました。
日本独自のホームステージングの普及を目指している
片付けの仕事からホームステージングへ
10年程前、私は、引っ越しの際の整理収納や遺品整理などの片付けの仕事をしていました。ある日、お客様から「この家を売りたいんだけど、忙しくて片付ける時間がない。売れるように片付けてほしい」という依頼がきました。
著書『いつ死んでも後悔しないお片づけ』PHP研究所 刊 価格:1320円(税込)
売れるような片付け? そんな片付けは経験がありません。できるだけ部屋を広く明るく見えるように家具を少し移動したり、ものを片付けたり、掃除をしました。そして、そこにある素敵な飾りを残してインテリアを整えると、散乱していた部屋が見違えるほど美しく生まれ変わったのです。するとお客様も、「自分の部屋じゃないみたい」「このサービスは素晴らしい! きっと、このサービスを求めている人はたくさんいるわよ」と言ってくれました。後日、この部屋はびっくりするほど早く、希望価格で売却に成功したと聞きました。
こんなに素晴らしいサービスをもっと多くの人に提供しようと、どんなサービス名にしようかとネットで検索していたとき、目に飛び込んできたのが米国のサイトでした。そこには、不動産を売却するときに、家が早く高く売れるようにインテリアを整える「ホームステージング」という言葉が表記されていました。
そう、私たちが行ったのはまさしく、この「ホームステージング」だったのです。
それから私たちは、この素晴らしいホームステージングをもっと多くの人に知ってほしい、これを導入することで、中古住宅流通促進に貢献できるという想いから、ホームステージングの普及とホームステージャーの人材育成を目的に、2013年『一般社団法人日本ホームステージング協会』を立ち上げました。現在、加盟法人は63社、資格取得者約4000名になります。
不動産業界にホームステージングが当たり前の時代がやってくる
協会では毎年ホームステージングの実態調査を行っており、ホームステージング白書というかたちでまとめています。
昨年のホームステージング白書での賃貸の調査では、ホームステージングしてから成約までの期間で、最も多かったのが「1カ月以内」。次に「1週間以内」、その次に「2カ月以内」でした。ホームステージングにかける費用としては、3万円未満が約32%で一番多く、次に3万円~5万円未満で約21%、3番目は7万円~10万円未満で約14%になっています。
19年の調査では、ホームステージング費用は家賃の1カ月分、約6万円というのが目安でしたが、20年は3万円未満や5万円未満が多くなり、少し予算が下がりました。これは、できるだけ安くホームステージングを行い効果を上げたいということであり、また、コロナ禍ということで、VRホームステージング(※)が導入され始めたことも関係していると考えています。
※360度カメラで撮影した室内写真に、CG家具・小物をバーチャルコーディネートして物件をより魅力的に演出すること
いずれにしても、ホームステージングの効果について導入した不動産会社では、
・非常に効果があった 約64%
・多少は効果があった 約32%
合わせると、95%を超える方が効果を実感していると答えています。
前述の米国でホームステージングが全米に広がった要因は、インターネットで物件の検索ができるようになり、より素敵な部屋の写真が多く載っている物件に内見が集まったことがきっかけで、ホームステージングが浸透していったということです。
日本でも家を探すときには、スマートフォンで物件情報を検索し、部屋の写真が多く、さらにきれいな写真が載っている物件に絞って、その部屋を取り扱う不動産会社に連絡するという流れになっているようです。つまり、検索する時点で選ばれなければ、内見者は来ないのです。
選ばれる物件にするためには、他の物件との差別化が必須となります。今後は日本でも米国と同じように、ホームステージングが当たり前の時代になってくるのだろうと思っています。
次回(7月下旬公開予定)へ続くーー
この記事を書いた人
一般社団法人日本ホームステージング協会 代表理事
専業主婦を経て運送会社に就職。事務パートから引越営業職と同時にお客様の荷造り荷解きサービスも担当。2011年に独立し、お片づけ・梱包会社株式会社サマンサネットを設立。多くの現場経験からホームステージングの必要性を感じ2013年日本で唯一ホームステージングを体系的に学べる一般社団法人日本ホームステージング協会を設立。 一般社団法人 日本ホームステージング協会 https://www.homestaging.or.jp/