不動産投資のポイントは利回りでなく、税金を考慮したシミュレーション
小川 純
2021/06/14
イメージ/©︎Puwasit Inyavileart・123RF
不動産投資で失敗しないために
新型コロナに対するワクチン接種が始まったとはいえ、いまだ収束は見えない。そんななかでも投資に対する関心は依然高く、つみたてNISAはもとより、投資用不動産もグローバル・リンク・マネジメントの調べによれば、32%の人が「興味がある」と答えている。
とはいえ、不動産投資はつみたてNISAなどの金融投資と比べ投資額も大きくなるため、ローンを組んで行うケースが多くリスクの高い投資だ。そのため見込んだ通りのリターンが得られるかの見極めは重要なのだが、実はそれを行うのは難しい。
どんな投資でも目安になるのが「利回り」だ。ひとくちに利回りといっても、不動産投資では「表面利回り」と「実質利回り」の2つの違いが大きく、これをしっかりと理解しておく必要がある。
「表面利回り」は、単純に年間家賃収入を物件価格で割ったもの。
「実質利回り」は、年間家賃収入から年間経費(管理費、修繕積立金、固定資産税など)を差し引き、物件価格と購入時諸経費を足したもので割ったものになる。
例えば、物件価格が1500万円(税込)、家賃7万円の物件の表面利回りは、84万円(7万円×12カ月)÷1500万円=5.6%。
一方、実質利回りは、管理費・修繕積立金3万円・固定資産税5万円、購入経費(不動産仲介手数料、登録免許税、印紙税、登記費用、不動産取得税など)=105万円かかったとすると、
{84万円-36万円(3万円×12カ月)-5万円}÷(1500万円+105万円)=2.67%
になり、表面と実質利回りでおよそ3%の差が出る。加えて、不動産投資を考える場合は、こうした差だけでなく取得税や減価償却、出口になる物件の売却時に発生する譲渡税まで考える必要がある。しかし、詳細な条件を設定した不動産投資のシミュレーションソフトは少ない。こうした税金の詳細をカバーし、不動産投資によるキャッシュフロー(手残り金)をシミュレーションできるのが『REITISS(リーティス)』というソフトだ。
「リーティスの最大の特長は、最新の税制に対応して税引後のキャッシュフローも出せるというところです。ほとんどの不動産投資シミュレーションは税引前のもので、税引後を出しているものでも概算です。しかし、リーティスはかなり正確な税制の内容が入っているので、しっかりと税金まではじき出せます」
叶 税理士法人 代表 叶 温さん
こう話すのは、顧問先の99%が不動産・賃貸住宅オーナーという不動産を専門とした叶税理士法人代表の叶温さんだ。ソフト製作の意図についてこう話す。
「私は独立する以前の2008年ごろから不動産投資を始めたのですが、不動産投資では税金のインパクトが大きいと感じていました。そこで税金的なところまできちんと加味したシミュレーションソフトを探したのですが、これがない。それなら、これをシステムとして作れば自分が不動産を買うときに役に立ちますし、不動産投資をするお客さんも失敗しないようにできると思い、リーティスを作りました」
画像/リーティス入力画面
その後、税制が変わるごとに“バージョンアップ”を重ねてきた。
叶さんがいう「失敗しない」というのは、「物件を保有しているときのキャッシュフローはもちろん、出口である売却したあともキャッシュフローがあるか——購入から保有、売却まででお金がマイナスにならないということ」だという。
リーティスはサブスクリプションのクラウドシミュレーターで、Windows、Macの機種は問わない。
投資に必要な最低限の基礎知識
しかし、詳細なシミュレーションを行うため、入力も細かい。入力項目は「基本情報」「詳細情報Ⅰ・Ⅱ」「融資情報」「売却情報」に分けられる。
「基本情報」は、購入者が個人か法人かの属性、購入年月日、物件種別、物件価格、物件の構造、建ぺい率、容積率、家賃額、総戸数、青色申告の有無、土地面積、前面路線価、建物延床面積など。
「詳細情報Ⅰ・Ⅱ」は、固定資産税評価、管理費・修繕費、エレベーター維持費、保険料、仲介手数料、家賃下落率、空室率、設備償却など。
「融資情報」は、借入金額、借入金利、繰上返済予定など。
「売却情報」は、収益還元価格で設定するようになっている。
これらの入力については、一般的な目安などチュートリアルはついてはいるが、不動産投資の初心者には難しい部分もある。
「不動産投資が初めての人には分かりづらいところもあるかと思いますが、『失敗しない』ためには当然、収入から差し引かれる経費部分をきちんと把握していなければお金は残せません。これらの項目を入力できるぐらいは勉強をしないと不動産投資で儲けることなどできないと思います」(叶さん)
シミュレーションの結果は、
①満室表面利回り
②純収益利回り
③所有時税引前キャッシュフロー
④所有時税引後キャッシュフロー
⑤借入金比率
⑥債務回収比率
⑦自己資金の回収期間
⑧売却時の税引後キャッシュフロー
⑨投資業績
⑩投資利回り
の10項目を各10点、100点満点で評価。及第点は60点だ。また、それぞれについての論評、改善法についてのアドバイスも出る。
ただし、このソフトは、あくまでもキャッシュフローをシミュレーションするもので、家賃の設定については物件の設備、エリアの相場を自ら調査する必要がある。
赤字物件を黒字物件に変える
では、具体的にその内容を見ていこう。サンプル例の表1は、4階建てのマンション1棟。価格は2億9800万円の物件である。
■表1:物件内容(抜粋)「基本情報」をまとめたもの
表1にある内容で購入した場合の結果をリーティスでシミュレーションした総合評価は「14.5点」。各項目とコメントは表2のように出た。
■表2:総合評価 リーティスでシミュレーションした結果(見直し前)
はっきりいってしまえば、この物件をそのままの条件で購入したのでは、投資する価値のない物件ということになるわけだ。そこでこの結果から、次の5点を見直した。
①物件価格を4800万円値引き
②建物の内20%を建物付属設備と認識し10年で減価償却
③家賃下落率の1%を0.5%に改善する
④空室率の10%を5%に改善する
⑤借入金額を5580万円少なくする
⑥借入金利3%を1%に引き下げる
こうした見直しを行った結果は表3で、総合評価の合計得点が14.5点から62点に改善され、ひとまず及第点に。
■表3:総合評価 リーティスでシミュレーションした結果(見直し後)
また、キャッシュフローも購入後1年目は少ないものの、2年目からは大幅に改善し、30年後のキャッシュフローは1億7000万円以上の差が生じることになる(表4)。
■表4:キャッシュフローの違い
この結果を見ると「総合評価をよくするために物件の値引き、家賃下落率、空室率、金利などの数字を都合よくしただけ」と思われるかもしれない。しかし、こうした結果になるよう交渉したり、物件管理することが不動産投資で利益を出す条件になる。叶さんはこう話す。
「不動産業者や金融機関の出す条件がよいとは限りません。自分の目で見て、理解して自分が考える、あるいは目標とするキャッシュフローを残すにはどういう条件にすればよいかを見極めることが重要なのです」
不動産投資の醍醐味と面白さ
不動産投資をするにあたって重要なことは、何を目的、目標に不動産投資を行うかということ。前の例でいえば、最初の条件から6つの見直しを行ったことで、収益力のある物件になったが、見直しを行うべき点はほかにもある。そもそも最初の条件で購入したのでは、利益どころかマイナスで投資とはいえない。
とはいえ、投資(購入)条件の見直しができるのも不動産投資の面白さでもある。
物件価格や金利を引き下げるのは「交渉力」、下落率や空室率の改善は購入後の「管理能力」で変えることができる。この点が不動産投資と株式などの金融投資との大きな違いだ。株価は市場が決めるもので、自分(投資家)ひとりでは変えられない。しかし、不動産投資は物件の価格や融資、管理の条件は自力で変えることができる。
こうしてみると不動産投資は「投資」とはいっても、実際には「経営」にほかならない。つまり、不動産の購入は仕入れ、ローンは資金調達、金利はその資金調達にかかるコストであり、家賃下落率・空室率は業務管理、減価償却は財務管理になる。
「不動産投資では、この感覚を持たない人が多いんですね。“投資”というと、このことに目を向けずにお金を入れてしまう。これは『消費』と『投資』の違いでもあると思うのです。消費は、自分の懐から出ていくものなので、1円でも安くなるようにします。しかし、投資になると“儲かるかも”という前提があるので、“儲かるならいいや”という感覚になってしまい、何も考えずにお金を入れてしまうのではないでしょうか」(叶さん)
投資のなかでも大きな金額を動かす不動産投資だからこそ、いわれるままのどんぶり勘定ではなく、綿密なシミュレーションを行うべきだろう。
この記事を書いた人
編集者・ライター
週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。