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不動産業界にも影響を及ぼすコロナウイルス

森田雅也森田雅也

2020/04/14

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先日、4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、緊急事態宣言が7都市に発令されました。

この緊急事態宣言を受け、多くの企業や飲食店がテレワークに完全移行・営業時間の短縮、及び臨時休業を決めています。また、司法の要でもある裁判所においても期日の変更が一部を除いて決まりました。

このような事態は過去に例がなく、不動産投資業界にも甚大な被害を及ぼしています。これから、不動産投資家、及び賃貸人にとってどのようなことが起こりうるか、実際に起きているかをご説明します。

・投資物件の建設が完了しない

不動産投資において一番の軸ともなる投資物件ですが、建築中の建物において工期が遅延・中断しています。

この理由は、バスタブやトイレ、建築資材などを中国から輸入していることが多いため、輸入規制や工場の稼働停止の影響を直に受けているからです。

この問題に対応するために、国土交通省は完了検査に際し柔軟な対応をするよう、2月27日付で通知を出しました。通知の要点は以下の3点です。

1軽微な変更に該当する場合は、完了検査申請書の備考欄に、変更内容が記載されていることを確認の上、完了検査を速やかに実施すること。

2軽微な変更に該当しない場合は、原則として計画変更となるため、申請者に対しては時間的余裕をもって対応するよう周知すること。

3住宅の建築工事の場合、確認済証の交付を受けた内容から一部の設備等がないことをもって、「住宅」として工事が完了していないといった扱いをすることのないよう、柔軟に対応すること。

これにより、検査済証の迅速な発行を促すことができるようになりました。

・空き室問題
引っ越しシーズンが終わり、コロナウイルスによる影響が今後どれくらい続くか見通しがたたない現状においては、空き室が埋まる確率も平常時に比べ下がっています。

コロナウイルスによる影響がいつまで続くか分からない現状では、今住んでいる賃借人ができる限り退去しないよう対応することが、インカムゲインにおいては望ましいと思われます。

・賃料について
コロナウイルスの影響で収入が減少した人が多数います。中には、内定取消し、解雇、破産、倒産などの労働問題にまで発展しています。

このままでは家賃を支払うことができないテナントや賃借人が増加し、賃貸人の収入にも影響を与えることが目に見えています。

そこで、賃貸人として今後どのような選択肢があるか、行政の要請を踏まえ、ご説明いたします。

1テナントのオーナー

緊急事態宣言が発令され、街を見渡すと、閉められたシャッターに「緊急事態宣言発令に伴い、当面の間休業します」という張り紙がされているのをよく見かけるようになりました。

閉店しているテナントは休業中、一切の利益が出ないにもかかわらず、家賃を支払うことを余儀なくされます。これは、テナントの場合、大多数が固定賃料+変動賃料(歩合賃料)という仕組みになっていると思われますが、休業した場合において変動賃料が0だとしても、固定賃料を支払う必要があることを意味します。

これに伴い、国土交通省は3月31日にテナントの家賃支払いの猶予などを各事情に鑑み、柔軟に応じるよう要請しました。

もちろん、オーナー(賃貸人)もビジネスである以上、家賃収入が無くなるのは困ります。そもそもお店の休業に伴い、変動賃料は無くなっているので、その分の収入もすでに減少しています。

ただ、従前の家賃(固定賃料)を徴収し続けることにより、テナントの撤退や破産・倒産が考えられます。

仮にテナントが撤退や破産、倒産をしてしまったら、新たなテナントの入居が決まるまでは、当該物件からの収入は無くなってしまい本末転倒となってしまいます。

そこで、テナントのオーナーも一概に従前の賃料を徴収しつづけるよりは、一時支払いの猶予や、休業中の家賃分は、営業再開した際に分割し通常賃料に上乗せして支払ってもらうなどの対策をするほうがいい場合もあります。もちろん、テナントによっては通常営業していたりするので、個別の判断が必要になってきます。

2住居を目的としている賃貸借契約の賃貸人

コロナウイルスの影響により賃借人が職を失ったり、収入が減ったため家賃を支払えないという状況も予想されます。

こういった場合には、通常(コロナウイルス発生前)であれば、家賃が約3カ月程度支払われない場合に裁判を起こし、強制執行手続きにより強制退去させることができます。

そして、空き室になった部屋に新たな入居者を募集して収入を得ます。
この時に、なぜ賃料の3カ月分の不払いが要件になるかというと、裁判においての請求は「賃貸借契約解除に基づく建物明渡請求」という賃貸借契約の解除を原因として建物(貸していた部屋)の返還を求める訴訟になるからです。

判例は、賃貸借契約の解除において「信頼関係破壊の法理」という法理を適用しており、この法理が適用されるのが、およそ家賃3カ月分の不払いとなるからです。

ただ、この法理は個別具体的に判断されるものであり、1カ月や2カ月の家賃滞納においてこの法理を適用して解除を認めるものもあれば、3カ月程度では認められないといった裁判例もあります。

現状、東京地裁や横浜地裁など一部の裁判所では、裁判の期日が指定されず裁判が進まないことからも、この通常の手続きに則ったとしても賃借人に退去してもらうには通常よりも時間がかかります。

また、コロナウイルスで収入が減って家賃を支払うことができないという事情を、信頼関係破壊の消極的事実として裁判所が考慮・認定すれば、3カ月の家賃滞納でも解除を認めなくなる可能性もでてきます。そうなると、賃貸人はさらに長い期間、家賃収入を得ることができなくなってしまいます。

また、住居を目的とした賃貸借契約の場合には、ハウスクリーニングを入れたりする必要があるのですが、トイレやバスタブなどの納期が遅れている現状においては、新たな入居者を募集するまでの時間が、より一層長くなってしまいます。

そこで賃貸人としては、テナントのオーナーと同様に、家賃支払い期限の猶予を与えたり、敷金を一時返金して調整を図るなどして、空き室が増えることをできる限り避けるという対策をとるほうがよいかもしれません。

敷金は、改正民法により新たに明文で規定されるようになりました(民法622条の2第1項)。その性質は今まで慣習により認められてきたものと変わらず、賃借人の債務の担保として、賃貸人が事前に預かる金銭のことです。

本来、賃借人から賃貸人に対し、敷金を債務に充当するよう請求することはできません(622条の2第2項)。

しかし賃貸人からは、債務不履行時に敷金から充当することが認められています。このことから、賃料未払いが事前にわかっている場合にも、賃借人と相談して、敷金を賃料に充当することは許されると考えられます。

この他にも、厚生労働省は住居確保給付金制度の要件を緩和して、家賃補助の範囲を広げています。賃借人が住居確保給付金の受給対象者であれば家賃は従前のままでも十分生活できる可能性がありますので、賃借人に当該制度を利用してもらって、そこから家賃を支払ってもらうことも一つの対応です。

賃借人が、住居確保給付金の対象外であるとか、それでも家賃を全額支払うことが困難という場合には、最終的に賃料減額請求を認め、居住し続けてもらうというのも、家賃収入を少しでも得るためには考えられる一つの手段です。ただ、その場合でも口約束ではなく、覚書や新たな賃貸借契約書として、文書に残しておくほうが確実といえます。

その際に、今後無期限で賃料減額を認めるのか、緊急事態宣言が解除された月まで認めるのか、「半年に限り」など期間限定の減額にするのか、賃料支払期限を猶予して半年後から上乗せ賃料として支払うことにするのかなど、方法は多岐にわたるので、賃借人と話し合う際には弁護士に一度相談し、書面を作成してもらうなどしたほうがよいでしょう。

(文/森田雅也 画像/123RF)

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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