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誰も住まなくなる「実家」を賃貸したい そのとき迫る課題・悩み・判断・注意点

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イメージ/©maleeescape・123RF

【2022年6月更新】

誰も住まなくなる。だがいまは売りたくない

「実家が空き家になるので、賃貸住宅として人に貸す」——言葉にすれば簡単そうだが、実は難しい判断に迫られる場面も多い。

「面倒なことなど、事前には無いように思えたんですが……」と、ボヤく人も多いこのプロジェクトについて、この記事では基本的な心構えや注意点を説明していきたい。

なお、話が多岐に渡らないようにするため、一定のケースをまず想定しておこう。

1.実家は土地付き一戸建て。住んでいた親は存命。高齢者施設に入ることになった
2.建物は空き家になるが、子どもであるあなたやあなたの家族は当面そこに住む予定はない

——そのため、上記実家を「誰かに貸したい」というモデルだ。不動産・法律関係のプロから、近年相談事例が多いとよく聞かれるものだ。

「親が大事にしてきた、家族の思い出も詰まった家を売る決心はつかない。少なくとも親が生きているうちは」
「実家を貸して得られる家賃で親の施設入所費用を補いたい。そのうえで、資産も保全できるこの方法を一旦選んでおきたい」

そんな想いを抱く人が、いま世間には多いということになる。

1.当面売りたくない実家を貸す「メリット」

上記に挙げたような理由から当面実家を売りたくない人が、これを貸すことにはいくつかのメリットがある。挙げていこう。

建物の健康維持

ひとつは、建物の“健康維持”だ。よくいわれることだが、人の住んでいない家は傷みが早い。加えて、敷地にモノを捨てられたり、不審者が寄り付いたり、放火されたりといった、空き家特有のリスクも抑えられる。だらしない借主が入居してしまい、その人の生活によって建物の価値が損なわれるケースももちろんゼロではないが、空き家のままにしておいて劣化を招くよりも可能性は低いだろう。

家賃収入

当たり前のことだが、実家を貸すことにより家賃収入が生じる。空き家のままでは決してこれは望めない。入ってくる金額にもよるが、さきほど挙げた親の施設関係の費用のほか、固定資産税や、建物が傷んだ際の補修費用、親が丹精込めた庭木があるならばその維持費といったものにもこれを充てていくことができる。

将来への備え

ある意味でのセーフティーネットだ。一旦誰かに貸しているとはいえ、そこには家族の持ち家がある。土地もある。今後も続くあなたやあなたの子どもたちの人生の中で、それが必要となるシーンが訪れる可能性が少しでもあるのならば、資産あるいは物理的な存在として「実家」がそこにあることは心強いものとなるだろう。

2.当面売りたくない実家を貸す「デメリット」

これらはデメリットというよりも、リスクや不安、課題といった方がいいだろう。実家を貸すみちを選ぶということは、やや先の見えにくい未来に向けて漕ぎ出すということでもある。

家は貸すと返って来ない?

「家は貸すと返って来なくなるおそれがある」——よくいわれる話だ。これは、一般的な普通借家契約で家を貸した場合に、現実化する可能性のあるリスクとなる。単純にいうと、貸主が「次の契約更新はいたしません。立ち退いてください」と頼んでも、借主が「住み続ける」といえば、借主の意思は法律上強力に保護される。これを覆すには、やはり法律が求める「正当事由」が必要となってくる。この正当事由を満たすために、高額な立退料の負担が生じる可能性もあることから、俗に「家を貸すと返って来なくなる」といわれたりもするわけだ。

不良入居者の入居

さきほども述べたとおり、住宅は無人の空き家にしておくよりも人が住んでいた方が劣化しにくい。しかしながら、家を過剰に汚し、傷つける生活のだらしない入居者が入ってしまえば話は別となる。

切り札「定期借家」の持つ悩み

以上2つ、普通借家契約のリスクと不良入居者のリスク。これらをかなりの程度まとめて解消できる手段が「定期借家契約」となる。普通借家と違い、定期借家では契約期間の満了とともに賃貸借契約は確実に終了する。借主はその際必ず物件を明け渡さなければならない。よって、居座られては困る不良入居者も、その時点でスッキリ「さよなら」だ。とはいえ、多くの借主にとって定期借家は不安を呼ぶものだ。「〇年後には必ず引っ越せ」ということで、ライフプランに制約が課されるため、通常はデメリットとなる。そのため、物件にもよるが定期借家は普通借家に比べ入居者募集で苦戦しがちとなる。それに伴い、家賃も安く抑えられがちとなる。

なかなか大変な「大家業」

空いた実家を家賃を貰い、ひとに貸す——これももちろん立派な大家業であり、賃貸住宅経営だ。つまり一個のサービス業となる。設備が壊れたならば迅速に修理、交換。入居者とご近所との間にもしもトラブルが発生したならばその対応と、大家=オーナー側にはさまざまな仕事が降りかかる可能性がある。物件が近くだと管理会社に頼らず頑張れても、遠隔地だとそうはいかない。業務委託するためのコストが発生する。

そもそも借り手はいるの?

まさにそもそも論だ。「実家を貸したい」と貸す側がいくら思っても、借り手がいなければ話は始まらない。新たな一戸建て賃貸物件の登場がいまかいまかと待たれているような立地であれば、入居者はすぐに決まるはずだが、それとは程遠い状態ならば苦戦は必至だ。長期にわたって物件は埋まらず、空き家状態。家賃を下げに下げてやっと入居者を獲得できたはいいが、見込んでいた収入はさっぱり満たせず——といったケースも少なくないだろう。

3.実家を貸したい人が最も悩む「リフォーム」の程度

長年親や家族が暮らしてきた実家の建物であれば、あちこち相応にくたびれているはずだ。肉親同士であれば気にならない汚れやキズも、赤の他人が見れば不潔感さえ感じるなど、大いにマイナスとなる。そこで、実家を貸したい多くの人が「リフォームをどこまですべきか」「どこまでお金をかけるべきか」に悩むこととなるわけだ。

だがこの判断、なかなか難しい。もちろんピカピカにフルリフォームすれば建物は賃貸物件として魅力を増すが、そのためのコストを回収するのが容易ではなくなる。一方、手をかけなければ、コストはかからないが物件の商品力はその分下がることになる。立地の良さなど、他のアドバンテージを睨みながらの難度の高い判断が要求される場面となる。

そのため、リフォームも絡めたうえで実家を貸すには…

「家賃はどのくらいを望むのか、望めそうなのか」
「どのくらいの期間、賃貸物件として運用することになるのか」
「他の出費はどれくらい予想されるのか」

等、諸条件を盛り込みつつ、賃貸経営の将来を綿密にシミュレーションすることが肝要となる。なおかつ、そこには現地の賃貸マーケットの状況がつよく影響してくる。それをよく知る不動産のプロに相談しながらでなければ、素人ではなかなか結論を導くのは難しい。

4.大事な付け加え——親の「判断能力」をしっかりと考慮に

以上、簡単そうにイメージする人も多い、「誰も住まなくなる実家を貸す」について、基本的な心構えを述べてきた。そのうえで、プロがこの話をする際、決まって付け加えるもうひとつの大事なことがある。 

それは、親の判断能力だ。なぜなら、今回この記事で説明してきたようなケースでは、家の貸主はまだ存命中の親となることが多いからだ。

ところが、その親御さんが認知症をわずらうなど、判断能力を失うと、あらゆる契約行為ができなくなる。入居者との建物賃貸借契約はもとより、管理会社や設備会社、リフォーム会社への業務の発注等々、あらゆる契約だ。

つまり、「親が高齢となり、実家に住めなくなった。施設へ入る」といった状態にある場合、家族にとっては、残される家をどうするかとともに、実はこちらも重要課題となる。家族信託などの対策が当然視野に入ってくることになるが、そのこともぜひ忘れないようにしてほしい。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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