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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本]#4 新築分譲マンションを買うという意味を考えよう

牧野 知弘牧野 知弘

2018/06/20

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建物は有限、土地は永遠

不動産が値上がりしている。先日発表された公示地価によれば、東京銀座四丁目山野楽器前の地価は1㎡当たりで5550万円、坪当たりに換算すると1億8347万円に相当する。この額はすでに平成バブルと言われた平成初期の頃の水準を凌駕している。

いくら銀座の土地といえども、1坪をこんな高値で買って採算はあわない。だが、銀座の土地の持つ輝きに酔いしれて多くの投資マネーが集まるために、銀座の土地は気配値としても値上がりをするのだ。いわば銀座の土地のお値段は世の中の景気のバロメーターと言ってもよいかもしれない。

肝心なことは、土地はこの世から消えてなくなることはないということだ。つまり実際に所有し続ける意思があるのならば、銀座四丁目という土地の持つ効用は変わらずに享受できるのだ。

建物はどうだろうか。建物の命は有限だ。会計上でもこのことは明確に定義されている。建物は有限であるがゆえに「減価償却」され、最後にはほとんど価値のないものと判断される。もちろんこれは会計上の都合によって定めたルールなので、償却期限がすぎたからといって建物が使えなくなるわけではない。したがって建物寿命という概念とは基本的に異なるものだが、建物が「有限」の存在であることに変わりはない。

どんなに立派で美しい建物であっても、建物は年がたつにつれ、老朽化していく。その時代の最新鋭の設備を具備していたとしても設備自体の老朽化、技術の進歩などで設備として持つ価値は次第に減じられていく運命にある。

いっぽうで土地は永遠の存在だ。たとえ地震や津波で上部にある建物が流されたとしても津波がひいたあと、土地は再びその姿を現し、存在価値を主張し続けることができる。

不動産価値の源泉が土地にあることは歴史が証明していると言っても過言ではない。翻って、国内では現在、新築分譲マンションの価格もうなぎ上りの状態だ。昨年首都圏で供給された新築マンションの平均価格は5908万円(不動産経済研究所)、5年前と比べて33%もの値上がりだ。では新築マンションを買いさえすれば今後もマンション価格は中古価格を含め値上りしていくものなのだろうか。

数年前に都内湾岸エリアに分譲されたマンションを事例として取り上げる。

敷地面積 5800坪
建物面積 3万6500坪
総戸数 1100戸
平均住戸面積 23坪(約76平方メートル)
平均分譲価格 約7000万円(坪当たり単価304万円)

このマンションの価格構成はどのようになっているのか推測してみる。

まず周辺の土地の取引価格から推定して土地代は坪当たり350万円程度と見込まれる。敷地は5800坪だから土地全体で約200億円。建設費は当時の建設費で坪当たり約110万円程度とすると建物代で約400億円。この建物原価に諸費用(分譲利益を含む)分約30%を加算すると総額は約780億円になる。

建物全体の面積のうち共用部等を除く住戸部分の面積の割合を仮に70%とおくと住戸部分の面積は2万5500坪。これを戸当たり平均23坪で売り出すと全体戸数は約1100戸。

さてこの1100戸のマンションを戸当たり約7000万円で売却すれば売上は約780億円。ぴったり同じ金額になる。タワーマンションの価格構成はおおむねこんな構造になっているのだ。

マンションの資産価値、そのほとんどが建物代…

ところでこれを1戸あたりの資産価値として考えてみよう。敷地面積は5800坪と広大な敷地だが1100戸も分譲されているので1戸当たりの持ち分はわずか5.3坪程度となる。土地代の原価は坪当たり350万円だったので、1戸当たりの土地の持ち分評価額は1855万円(350万円×5.3坪)ということになる。残りが建物代とすれば販売価格の7000万円から差し引いた5145万円ということになる。土地建物の比率で考えると土地比率が26.5%、建物比率が73.5%ということになる。

マンションの資産価値はそのほとんどが建物代ということになるわけだ。不動産価値の源泉が土地にあるとするならば、購入総額のほとんどが建物代になるマンションに、はたして不動産価値はあるのだろうか。

今まではあたりまえのように「住宅を買わなくては」と多くの人が考えてきた。賃貸住宅に居住していても家賃は毎月捨てるだけ。同じくらいの金額の負担をするのであれば「持家」に払ったほうが将来資産になると多くの人が考えてきたからだ。

とりわけ近年都心部に続々建設されたタワーマンションは都心居住の象徴として人気が高い。またタワマンを買った多くの人が、銀座の土地の値上がりを横目に将来自分が手に入れたマンションが「値上がり」することを期待しているという。

本当だろうか。先ほどの事例で考えてみよう。このマンションの1戸当たりの面積は23坪(約76平方メートル)、分譲価格は7000万円だ。同じエリアに建つ別のマンションの賃貸案件を調べると、築8年の物件が同じ面積で月額賃料は約20万円になる。

話を簡単にするために持家として取得するお金を全額、期間25年の住宅ローンで調達するとする。安全性を考えて期間中を固定金利として、現行の金利1.69%とする。月額返済額は元利均等返済で28万6247円になる。年間返済額にして約343万円の負担だ。

一方で賃貸案件だと年間賃料は240万円、更新料などを徴求される場合もあるが、2年ごと1ヵ月分20万円を負担したとしても、年間負担額はならしで約250万円ということになる。
持家の場合、この負担に加えて管理費、修繕積立金で月額約3万円、年間で36万円。固定資産税等は年間20万円ほどがかかってくる。つまり年間での負担額は約400万円にもなるのだ。25年間金利が不変にしてさえ、このマンションがローンの支払いを終えて自分のものになるまでは総額で約8587万円を支払わなくてはならない。

賃貸住宅であれば、住んでいるマンションは自分の資産にはならないものの住むためのコストだと割り切れば25年間で6250万円にすぎない。もちろん最近では住宅ローン減税という新築優遇税制があるが、それとて住宅ローン残高の1%(最大控除額年40万円)かつ10年間の措置にすぎないので全体の支払額に貢献する割合はそれほどではない。

さて議論はここからだ。この事例でも25年間で賃貸住宅よりも約2337万円もの多くのお金をつぎ込んだとしても26年目からは自分の資産になるというのが「持家」をすすめる根拠となる。賃貸住宅であれば、26年目以降も賃貸住宅だ。

25年間という時間軸で想像する

大切なのはこの25年間という時間軸だ。25年後、本当に自分のものとなったこのマンションはどんな資産になっているのかに想いをめぐらす人はあまりいない。ローン完済後に自分の眼前に聳え立つのは、経年劣化が著しくなった築25年のマンションだ。今までは低廉に抑えられてきた修繕積立金も値上げが繰り返されているかもしれない。

一部のブランドエリアを除いては資産価値が上昇している可能性がほとんど期待できない中で、今後の大規模修繕費用を追加で負担する可能性が出てきているはずなのだ。1100戸にも及ぶ住民も25年もたてば時代の変化の波にさらされる。全員が同じように希望を持って取得した湾岸タワーマンションもすっかりコモディティ(汎用品)と化してはいないだろうか。

25年後の日本を考えた場合、一部のブランド立地のマンションを除き、多くのマンションはその資産価値を大幅に減少させている可能性が強いのである。

金利も含めて多額のお金をつぎ込んだマンションが取得価額並みの価値を保持することは難しく、それどころか建物比率が高いマンションという資産は建物の劣化により25年もたてばその価値が半値以下になっていても決して不思議ではない。

マンションを純粋に資産価値に重点をおいた「投資」としてとらえた場合、25年後に取得価額を維持できず、場合によっては半額くらいに元本が減じてしまう投資商品は、本来誰も買わないはずだ。

このように自分が「住む」だけの利用価値を考えるならば一部のエリアを除いてマンションという資産はあまり魅力的なものとは言い難いというのが結論だ。ましてや25年後、長年払い続けてきたローン支払いから解放されてからも建物維持修繕費やマンション内の空き住戸問題、管理費未納・滞納問題など、自分はちゃんとやっていても他人のせいで居住環境の維持が難しくなるような資産は本来所有することには慎重になったほうがよいのかもしれない。

マンションは賃貸資産として考えるのが自然

いっぽう賃貸住宅としてのマンションは借りる側にとってはまことに都合のよいものだ。短期間暮らすには利便性がよく、住戸の管理がしやすく、安全性の高いマンションは都会の棲家としては格好の住宅だ。賃貸であれば、自身の人生の変化、リストラにあう、事故でけがをする、病気になる、地震などの天変地異に遭遇する、様々なリスクが身にふりかかっても「住み替えて」しまえば大きな負担を背負い込む心配はない。

ましてや25年後、子供は(いたとしたら)独立して家には夫婦のみ。場合によっては妻と離婚しているかもしれない、病気になっているかもしれない、人生には想定しなかったような様々なリスクがあるものだ。その時々の状況に応じてその時点の自分の身の丈にあった住居に住み替えていくには賃貸住宅は価値が高いといえるかもしれない。


 
もちろん高齢になった場合、賃貸住宅に申し込んでも、大家が高齢を理由に断ってくるケースが多いのは事実だ。しかし、これも「今」という時代では事実であるというだけだ。人口の減少と国民の年齢構成が激しく高齢化する日本では、25年後には空き家は増え続け、「貸し先」に困った大家の多くが、外国人や高齢者にも廉価で賃貸することは当たり前の社会になっていることは容易に想像される。

ローン完済後に、老朽化した建物の維持管理に頭を悩ます必要もなく、家賃は住むための「必要コスト」とわりきれば考え方も劇的に変わってくるはずだ。

このように考えるとマンションは賃貸資産として考えるのが一番自然かもしれない。買って住むのではなく、借りて住む。または所有して人に貸して運用する。一定年限の中で確実に収益を上げ、建物の償却を享受すれば賃貸資産としては決してそんな悪い資産ではない。そのためにはやはり都心部で交通利便性の高いマンションが賃貸用としては優位になる。マンションは立地のよい賃貸用資産、という概念が実はこれからの「常識」となるのかもしれない。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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