住宅購入資金の贈与を受けたときの注意点は?
秋津智幸
2016/01/04
住宅購入資金の贈与には特例がある
住宅を購入するには頭金以外にもいろいろの諸費用がかかるので、十分な自己資金を用意する必要があります。当然のことですが、同じ予算であれば、物件価格に対して自己資金の割合が多いほど、住宅ローンの返済が減るため安心した資金計画がつくれます。
本来なら、できるだけ多くの自己資金を貯めたいところですが、現実には最低限の自己資金を集めるだけで精一杯、または最低限の資金すら集めるのがなかなかむずかしいという人もいることでしょう。
そんな人は、購入資金の一部を親から贈与してもらったり、借りるということも有効です。住宅購入にあたっては、親子(または祖父母と孫)間では、贈与税に優遇措置が設けられているので、息子や娘、孫のためになら援助しようという両親や祖父母がいるなら相談してみるのもひとつの手です。
通常は1年間に受けた贈与が110万円を超えると贈与税がかかりますが、住宅取得のための贈与については特例が設けられています。
贈与税の非課税の特例とは?
それが、(贈与税の)「非課税の特例」です。平成27年1月1日から平成31年6月30日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた受贈者(贈与を受けた人)が、贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅取得等資金を自宅の購入資金にあて、その家屋を同じく翌年の3月15日までに自宅として使用したとき、住宅取得等資金のうち一定金額について贈与税が非課税となります。
平成29年9月30日までに、贈与を受ける場合には、基礎控除前で最高700万円(一定の基準を満たしたエコ住宅、耐震住宅の場合は1200万円)まで非課税になります。その後平成31年6月30日までに段階的に非課税額が引き下げられることになっています。
なお、消費税が10%に上がるタイミングで再び非課税枠が引き上げられ、平成28年10月1日から平成29年9月30日までの間は、最大で2500万円(一定の基準を満たしたエコ住宅、耐震住宅の場合は3000万円)まで非課税になる予定となっています。
また、この特例を受けるには、年間所得2000万円以内など受贈者(贈与を上ける人)の要件と住宅の面積は50~240平方メートル以内であることなどの住宅の要件があるので、くれぐれも要件には注意してください。
この特例を超える分に関しても、贈与税の基礎控除110万円か、相続時精算課税制度(特別控除2500万円)かを選択できますが、細かい条件があるので、最寄りの税務署などで確認しましょう。
税務署への申告を忘れずに
この「非課税の特例」を受ける場合には、税務署への申告が必須となっています。申告は贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までとなっており、この申告を忘れてしまうと多額の税金がかかってしまうので注意しましょう。
次に、両親から資金を借りる場合は、親子間の貸し借りといえども、しっかりと金銭貸借契約など証拠となる書面を残し、その契約通りに返済し、完済までしなければなりません。親だからといってきちんとした返済をせず、返済の事実が確認できないような場合には、贈与を受けたものとみなされ、思わぬ税金がかかってしまうことがありいます。契約書を作成することはもちろん、できれば利息をつけて返済しましょう。
利息をつけない場合、利息に相当する金額を受け取ったものとみなされ、贈与税がかかってくる場合があります。念のために金利をつけたほうが安全といえます。
金利といっても銀行のように高くする必要はなく、年率0.1%程度でも問題ないといわれています。ただし、出世払いや催促なしのあるとき払いのようなきちんとした返済計画がない場合は貸付金ではなく、贈与として取り扱われてしまうので注意しましょう。
そのほかの注意点としては、贈与を受けたり、借りたりした金額がはっきりわかるように、全額を銀行口座へ振り込んでもらって証拠が残るようにしましょう。また、借りた場合には、返済の証拠が残るように、できれば、親子とも返済専用の口座をつくり、振り込みで返済したほうが安全です。
所有者名義についても注意が必要
また、物件の所有者名義についても注意が必要です。たとえば、妻が両親や祖父母から贈与を受けた場合は、妻がお金を出したことになるため、物件価格に対して妻が拠出した金額相当の(所有権の)持ち分割合を妻が持つようにしなければなりせん。
前述したように、贈与できる人は自分の親か祖父母に限られますので、妻が贈与を受けた場合はその分を妻名義としなければならないのです。これを何も考えずに妻の受贈分まで夫の持ち分としてしまうと、妻の親から夫への贈与としてみなされてしまい、特例が適用されなくなってしまい、多額の贈与税がかかってしまうことになります。逆に夫が自分の両親や祖父母から援助を受けた場合は、その分は夫の持ち分とする必要があるということになります。
贈与にしろ、借りるにしろ、両親等からの住宅資金の援助を受ける場合は、税金の特例を受けられなかったり、無駄な贈与税がかかってきたりすることのないように、事前に税務署に相談することをおすすめします。
この記事を書いた人
不動産サポートオフィス 代表コンサルタント
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、AFP、ファイナンシャルプランニング技能士2級。 神奈川県住宅供給公社にて、分譲マンション、一戸建・宅地分譲、高齢者住宅等の新規不動産販売部門に従事した後、同社賃貸部門にて賃貸物件の募集、管理業務に従事する。その後、不動産投資専門の仲介会社を経て、不動産コンサルタントとして独立。 現在は「不動産サポートオフィス」の代表コンサルタントとして、自宅の購入、不動産投資、住み替え、融資など多岐にわたる不動産に関する相談・コンサルティングを行なう。その他、不動産業者向けの研修や各種不動産セミナー講師、書籍、コラム等の執筆にも取り組んでいる。 主な著書に、「貯蓄のチカラ~30歳からのおカネの教科書」(朝日新聞出版)、「失敗ゼロにする不動産投資でお金を増やす!」「賃貸生活A to Z」(アスペクト)がある。