人口減少時代のマンション購入、その5大リスクと対応策は? 「買ってはいけない」はどこまで正しい?
横山晴美
2017/07/25
「マンションは購入すべきでない」は本当か?
(c) naka – Fotolia
以前から、「持ち家と賃貸、どっちが得か?」という購入派・賃貸派の論争はありました。しかし、最近では、損得での比較だけでなく、家を購入するという行為そのもののリスクを懸念する声もあるようです。
本当に家を購入することはリスクの高い、危険なことなのでしょうか。
まずは、そうした声が高まってきた背景には、どのような理由があるのかというところから考えてみたいと思います。
マンションをはじめとする住宅購入そのものを、リスクと考える人が増えている背景には、少子高齢化による人口減少や、先行き不透明な経済環境への不安があるようです。
確かに、少子化で若い世代が減っていけば、住宅の需要は低くなります。同時に持ち家率の高い高齢者が介護施設に入居したり、相続が発生したりすることにより、空き家も増加していくことでしょう。
「住宅需要の低下」と「空家の増加」、このふたつが進んでいけば、住宅の価値が加速度的に下がるのではないかと懸念されるのは当然のことと考えられます。いわば、持ち家の価値そのものに懐疑的な人が増えているのではないでしょうか。
(おすすめ記事)
空き家率30%時代になっても、「賃貸」より「持ち家」が有利な4つの理由
マンションを購入する5つのリスクとは?
もちろん、家を購入することはゼロリスクではありません。家という非常に高額なものを、30年とか35年といった長期のローンを組んで購入するわけですから、必ず、一定のリスクが伴います。
ですが、正しく怖がることが大切です。つまり、住宅購入のリスクを理解すると同時に、そのリスクを回避する方法にはどのようなものがあるのかを知った上で判断することが必要と言えるでしょう。
そこで持ち家、つまり住宅購入のリスクにはどのようなものがあるのか、5つの視点から検証すると同時に、その回避策についても考えたいと思います。なお、持ち家にはマンションと戸建てがありますが、ここではマンション購入の是非について見ていきます。
<リスク1> 資産価値が下がってしまう
まず考えられるのが、資産価値が下がるリスクです。
元々、新築物件は入居とともに価値が2割程度下がると言われていますが、理由はそれだけではありません。
冒頭で述べた「住宅需要の低下」と「空家の増加」によって、不動産業界全体としての物件価値の下落、また過疎化や空洞化による街全体の価値の下落が考えられます。
●対策:エリア、立地の見極めが重要
人口減少はすでに始まっていますが、すべての土地・物件の価値が下がるということも考えにくいでしょう。おそらく今後は、「買っていいマンション」と「買わないほうがいいマンション」の二極化が進んで行くと思われます。
ここで注意していただきたいのは、たとえば「東京と地方」といった大まかな分類ではなく、もっと小さなエリアごとに、詳細に価値を判断することが求められるであろうということです。
たとえば、東京都豊島区は全国自治体の将来人口推計において、23区で唯一「消滅可能性都市」とされました。これだけ聞くと「豊島区には住まないほうがいいのでは?」と考えてしまいそうです。しかし、豊島区にはリッチなイメージの目白や、学生に人気の大塚・駒込など、魅力的なエリアも多いです。
この例からいっても、全体のなかから人気のスポットを探していく、ということが重要になるでしょう。
もちろん、そうしたエリアの見極めは非常にむずかしいですし、現在、人気のあるスポットはすでに不動産価格が高いと考えられます。
そこで重視したいのは利便性です。人気の高いエリアから外れていても、駅から近いとか、ターミナル駅に出やすいといった利便性を重視することをおすすめします。特に、駅からの距離を重視する人は多いと考えられるので重要な要素になりそうです。
資産価値が高い物件というのは、誰もが魅力を感じる物件です。資産価値を維持するためには、独自のこだわりで物件を選ぶよりも、万人が魅力を感じて住みたいと思うであろう物件を選ぶのが大切と言えるでしょう。
(おすすめ記事)
人口減少時代に30年後も資産価値が落ちない住宅の4つの条件
<リスク2> 住宅ローンが返せず破綻してしまう
(c) Y's harmony – Fotolia
国の財政状況が悪化するなか、社会保障の負担は年々厳しくなっています。年金や健康保険といった社会保険料は上昇傾向にあり、多少給与が上がっても手取り額は減ってしまう状況です。
雇用環境、経済環境が大きく変わり、給料が増えたとしても、いつ解雇や倒産といった憂き目にあうかわかりません。退職金も、昔ほどアテにできなくなっています。
このようななか、何千万円という住宅ローンを完済できるのか不安になってしまうのも当然といえば当然でしょうし、そもそもそんな多額の借金をしたくないという人もいるのではないでしょうか。
住宅ローンの返済を滞納したからといって、すぐに家を失ってしまうわけではありません。ただ、最悪の場合には家を手放さなければならなくなった上に、借金だけが残ってしまう可能性もゼロではありません。
対策:住宅ローン破産を回避するには
住宅ローンの返済は多くの人が不安に感じる部分です。
住宅ローンの借入れで何よりも大事なのは、絶対に背伸びをしないことです。マイホームを買うとなると、少しでもいい物件がほしくなるのは当然ですし、つい「なんとかなるだろう」と借入額を増やしてしまうことも起こりがちです。
金融機関が貸してくれるのだから大丈夫だろうという考えは禁物です。ここでは詳しくは触れませんが、返済負担率を考えて無理なく返済できる金額だけしか借りてはいけません。
そして、急に現金が必要になるような不測の事態に備えて、手元に現金を残しておくことが大切です。借入額を減らすために頭金を入れるのはいいことですが、手元のお金をすべて頭金や諸費用に使ってしまうのは避けるべきでしょう。
それでも、返済が苦しくなったときは早めに金融機関に相談しましょう。返済額や返済期間の見直しに応じてもらえる場合もありますし、マイホームを賃貸に出して家賃収入でローンを返済していくという方法もあります。
それでも返済が続けられなくなった場合には、できるだけ早めに売却の判断をすることです。判断が早ければ損害を最小限に抑えることができます。
何もせずに滞納を続けてしまうと、最悪の場合には家を競売にかけられてしまい、住む場所を失った上にローンだけが残ってしまうことにもなりかねません。
であれば、金融機関と話し合って任意売却という手段を選んだほうが、競売よりも高い価格で家を売却することができるでしょう。
どんなに慎重に住宅ローン計画を練ったとしても、誰にでも想定外の事態は起こり得ます。そうなったとき早めに対処できるよう、ローン返済が苦しくなった場合の対応策についてあらかじめ知っておきましょう。
(おすすめ記事)
リストラで住宅ローン返済ができなくなったらどうする? これだけは知っておくべき4つの対策
<リスク3> 欠陥マンション問題
欠陥マンション問題といえば、2015年に横浜市のマンションで、基礎工事のデータが改ざんされたニュースは記憶に新しいところです。この事件は住民がマンションの手すりのずれを発見したことで傾きが判明しました。
また、2005年の耐震強度偽装問題、いわゆる「姉歯事件」を思い出す人も多いでしょう。
人生最大の買い物ですから、こうした欠陥マンションを購入してしまうリスクについて敏感になるのは当然のことでしょう。
対策:保険や中古マンションを選ぶことでリスクを軽減することはできる
残念ながら、一般の消費者がマンション購入前に、こういった問題を見つけるのはむずしいものです。しかし、姉歯事件の後、消費者保護の視点から、購入した物件に欠陥(瑕疵)があった場合の保険である「瑕疵担保責任保険」が制定されました。
保険という商品の特性上、瑕疵担保責任保険についても補償範囲が限られおり、すべてのケースに対応できるわけではありませんが、消費者としては一定の安心を得ることができます。
以前は、新築マンションといえば、建物が完成する前にモデルルームだけを見て購入する「青田買い」が主流でした。しかし、横浜市の傾斜マンション問題を受け、竣工前にマンションを購入することを敬遠する動きも一部で広がっています。
そういった人たちは、完成から数年以内の築浅中古マンションに注目しているようです。抜本的な解決策ではありませんが、瑕疵担保責任の活用や、完成から数年が経過した建物で安全性を確認するといったことで、リスクを軽減することは可能です。
(おすすめ記事)
横浜の「傾斜マンション」問題、報道されなかった事実
<リスク4> 自然災害、火災のリスク
地震や津波、火事などでマンションが被害を受けてしまう、自然災害や火災のリスクがあります。
マンションの場合、倒壊にまで至るケースは少ないでしょうが、ダメージを負ったときに多額の修繕費がかかることは変わりません。
マンションは修繕積立金を積み立てていますが、これはエレベーターの点検や外壁の塗り替えなどメンテナンスや大規模修繕工事の費用に備える意味合いが強く、災害時の修繕までは想定していないケースが多いと言えます。
対策:保険や防災対策の必要性をマンション全体で共有する
一戸建てであれば、火災保険や地震保険である程度カバーできますが、マンションの場合は少し複雑になります。
というのもマンションは居住する部屋を専用部分と、エントランスや廊下など住人たち全体で保有する共用部分に分けられるからです。専有部分は部屋の購入者が任意で保険に加入できますが、共用部分はマンション管理組合で加入することとなります。
災害リスクに備えるためにも、火災・地震保険についてマンションの住民全体で必要性を認識しておくことが必要です。
その他、防潮板の設置や消化器、スプリンクラーなど消化設備の定期的な点検、避難訓練の実施など理事会などを中心に、住民全体で防災活動に取り組むことが望ましいと言えるでしょう。
(おすすめ記事)
住宅ローンが減免!? 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」とは?
<リスク5> 住民の高齢化、建て替えできない
高齢化が進んでいくなか、地域だけでなく、マンション住民の高齢化も想定されます。住民が高齢化して管理組合が機能しなくなる、築年数が経過して住民が減っていく、といった懸念があります。
人が減ると修繕費の積み立ても減るため、建物のメンテナンスが疎かになる、最悪の場合は老朽化したマンションの建て替えができない、ということも想定されます。
対策:住み替えも視野に入れておく
残念ながら、そこまで状況が進んでしまってからでは問題の解決はむずかしいでしょう。ですから、そうなる前に売却して、より環境のいいマンションへ移り住むほうが建設的と言えるでしょう。
地域に根ざす一戸建てと違い、マンションにはある程度の身軽さもあります。沈みゆく船に残らないよう、購入後も常に自分のマンションの価値に目を光らせていましょう。
それでもマンション購入はおすすめできる
ここまで、マンション購入に関わる5つのリスクをご紹介しました。こうしてみると、マンションはリスクだらけのように見えるかもしれません。
しかし、賃貸にもリスクはあります。たとえば、年老いたときに、経済的な事情から賃料を払い続けることができなくなるリスク、保証人がおらず賃貸契約が結べないリスクなどが考えられます。
賃料は物件や経済環境によって変動しますが、持ち家であれば将来にかかる住宅費のおおよその見通しが立てられますので、老後の家計収支も見通しがつけやすくなるでしょう。
仮に、経済環境が変わってインフレになった場合、賃貸に住んでいれば家賃が大きく値上がりすることも考えられます。一方、住宅ローンを全期間固定型で組んでいれば、金利は変動しないので、相対的に借金の負担は小さくなります。
現在の低金利を活かして、全期間固定型で無理のないローンを組んでおけば、インフレに対するリスクヘッジにもなり得ると言えるでしょう。
また、購入したマンションは資産です。もちろん、購入する物件は選ばなければなりませんが、売却してまとまったお金に換えることもできますし、賃貸に出して家賃収入を得ることも可能です。
マンション購入にはリスクが伴うことは間違いありません。ですが、どんなリスクがあるのかを把握しておけば、対策を講じることも可能です。
そして、自分の家があるという安心感は、何ものにも代えがたいものです。
マンション購入に前向きな気持ちをお持ちであれば、リスクに備えることは大切ですが、必要以上に怖がることなく、ご自身のライフプランに合わせて購入を決められることをおすすめします。
(おすすめ記事)
2019年問題でこれから家が安くなる!? それでもいま住宅を買うべき4つの理由
「物件の募集図面」を見れば不動産会社の裏側が手に取るようにわかる!
マンションは「住み心地」で選んではいけない! その3つの理由とは?
この記事を書いた人
ライフプラン応援事務所代表
ファイナンシャルプランナー(AFP)、住宅ローンアドバイザー。企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。 「自分の家計は自分で守る」をモットーに、丁寧でわかりやすい面談が好評。 また、給付金や控除など、消費者のための制度を調べるのが得意で、「ここが使いにくい」「誰のための制度なのか」などとケチをつけるのが好き。