人口減少時代に30年後も資産価値が落ちない住宅の4つの条件
市川 貴士
2017/03/07
住宅を購入するのが不安な時代になった
住宅は、一生のうちでいちばん高い買い物といわれます。現金一括で買うことはむずかしいので、30年とか35年といった長期の住宅ローンを組む人がほとんどと言っていいでしょう。
かつては、多くの人が、こんな暮らしがしたいという夢や希望を抱いて家を購入していました。ですが、いま多くの人が30年とか35年といった長期の住宅ローンを組んで住宅を購入することに不安を感じています。その不安は大きく2点に集約できるでしょう。
・将来にわたってローンの返済を続けられるか
・購入した住宅の価格が大きく下がってしまうのではないか
30年ローンを組んでも、ずっとその家に住み続けるのであれば、ローン返済が苦しくなったとしても、金融機関と相談して返済条件を変更してもらうなどの対策を取ることができます。(参考記事: 「リストラで住宅ローン返済ができなくなったらどうする? これだけは知っておくべき4つの対策」)。
また、終の住処にするのであれば、売却する必要もないので、価格が下がることもあまり気にしなくてもいいでしょう。
ですが、さまざまな理由から家の売却を余儀なくされることもあります。そのときに、住宅の価格が大きく下がってしまっていたら、売却代金でローンを完済できず、家を失った上にローンだけが残るといった事態に陥る可能性も考えられます。
まして、これから高齢化が進み、人口が減っていくわけですから、住宅の需要も減っていくはずです。実際、子育てに良い環境をと考えて郊外の一戸建てを購入したものの、子どもの独立を機に便利なマンションに引っ越したいと自宅を売りに出しても、値段がつかずに売るに売れないという人もいます。
住宅購入に不安を抱く人がいるのは当然といえば当然でしょう。
住宅は「資産価値」で選ぶべき
ですが、多くの人が抱えている不安は、住宅の「資産価値」に着目することで解消できるのではないかと私は考えています。
少々乱暴な言い方になりますが、30年後も資産価値が下がらない住宅、少なくとも、“下がりにくい”住宅を購入すればいいのです。
前回の記事(「マンションは「住み心地」で選んではいけない! その3つの理由とは?」)でもお伝えしたように、住宅は資産価値に着目して選ぶべきと言えるでしょう。
資産価値が高く、しかもその価値が下がりにくい住宅を選べば、万が一の場合でも、賃貸に出して家賃収入を得ることもできますし、売却してローンの残債をなくすことも無理なことではありません。
ただ、「30年後も資産価値が下がらない住宅を買えばいい」と、口で言うのは簡単です。ですが、これから人口が減少していく日本で、資産価値が下がらない、少なくとも下がりにくい住宅はあるのでしょうか?
(参考記事)
マンションは「住み心地」で選んではいけない! その3つの理由とは?
過去30年で首都圏のマンション価格はどう変動したか
まずは、この30年間で首都圏のマンションの価格が、どう変動したのかを見てみましょう。
私は、30年間、マンションデベロッパーに勤めており、その間、営業はもちろんマーケティングの仕事もしていました。私が30年前に実際に販売していた新築マンションは、西葛西駅から徒歩6分の立地で、当時の坪単価は125万円、20坪の3LDKで2500万円でした。
いま、西葛西の同じ場所で新築マンションを販売すると、坪単価は250万円以上にはなるでしょう。20坪の3LDKだと5000万円です。この30年間で同じ条件の新築マンションの価格は2倍になった、ということになります。
もちろん、この背景には30年間のインフレがあります。
30年前の大手企業の大卒初任給は11万円程度でしたが、現在では22万円程度と2倍になっています。アルバイトの日給を見ても、当時は5000円だったのが、現在では倍の1万円くらいになっています。
30年前と比べて給料が2倍になったことを考えると、西葛西はその流れに乗れた場所と言えるでしょう。
西葛西に限らず、都心エリアでは30年前と比較して物件価格が2倍以上に上がっているところが少なくありません。ですが、首都圏郊外に目を転じてみると、不動産価格は上がっておらず、むしろ下がっているところも多くあります。
ですから、西葛西の不動産価格が2倍になった理由は、単にインフレによるものだけでないことがおわかりいただけると思います。
しかも、これからの30年で給料が2倍になることは、まず考えられません。この低成長の時代に、不動産の資産価値を維持できる条件はどんなものなのか、改めて考えてみましょう。
<条件1>生活利便性が高い
私が30年前当時、坪単価125万円で販売していた西葛西の中古マンションは、現在いくらで売れているのでしょうか?
実は、当時の新築坪単価と同じ値段、つまり坪単価125万円程度で売れています。建物の価値自体は下がっていますが、土地の価格が上がっているためです。
都心から1時間半以上かかるエリアのマンションは、新築時の4分の1以下の価格になってしまっているところも多くありますから、西葛西の中古マンションの資産価値はむしろ高まっていると言えるでしょう。
西葛西はこの30年で便利になりました。30年前は、駅前には空き地が多くあり、工場も多くありました。その一方で、スーパーなどは少なく、住環境や生活の利便性は決して良いと言えるものではありませんでした。
ですが、住む人が増えたことで、住環境が整い、その分だけ住みやすくなったと言えるでしょう。
生活様式が変わり、共働きの世帯が増えましたが、郊外は共働きには不便です。そのため、以前よりも都心回帰が顕著になり、東京はいまも人口が増えています。
もちろん都内であればいいというわけではありません。東京も今後人口が減ると予測されていますから、エリアによるバラツキはより顕著になると思います。
30年前は、都心に住む利便性といえば、「職場が近い」ということくらいしかありませんでした。しかし、山手線の内側や湾岸エリアに再開発プロジェクトが増え、都心に住む利便性は圧倒的に変わり、生活もしやすくなりました。
30年前、私は日本橋箱崎町にワンルームを借りて住んでいましたが、買い物や食事にはとにかく不便でした。倉庫街で日曜日などは店も閉まっていたのです。しかし、現在では多くのオフィスが移転してきて、店舗も増えて便利になりました。
高齢化社会では、これまで以上に生活利便性が求められるはずです。東京のみならず地方でも、商業地や行政サービスを一定範囲に集めたコンパクトシティに対する評価が一層高くなるでしょう。
<条件2>希少価値がある
この希少価値こそが、経済が成熟した時代の不動産の資産価値を表す指標といえるでしょう。モノの値段は需要と供給のバランスで決まりますが、それは不動産の価格も同じです。
たとえば、以前はスターバックスコーヒーがある駅や街は人気がある、と言われましたが、その店舗数が増えたことで、希少価値は失われてしまいました。つまり、スターバックスがあることは優位性ではなくなってしまったのです。
コーヒーつながりでいえば、ブルーボトルコーヒーが清澄白河に出店したことで注目を浴びました。ですが、ブルーボトルコーヒー以外にも、魅力的なカフェが多くあるのをご存知でしょうか。
こうしたオンリーワンといえるような特徴のあるエリアは人気が出ます。生活様式が変化したことで、利便性に加えて、街の品格や雰囲気も重視されるようになっているからです。
ほかにも、麻布十番などは地下鉄の駅ができたことで街が変わり、若者が集まってきています。神楽坂はオシャレなお店と静かな住環境もあって価格が上がっています。
人気エリアの不動産価格はすでに高騰している可能性が高いのですが、現在の金利水準で固定金利型のローンを組めば、やや高めの価格であっても購入する価値はあると思います。今後より高値になることでしょう。
<条件3>再開発エリアの周辺
たとえば、東京駅周辺の再開発と東京駅の圧倒的な優位性は、今後、ますます加速すると思います。東京駅から西や南のエリアはすでに高級なエリアでありますが、東のエリアはまだチャンスがあるはずです。
中央区、台東区、墨田区、江東区、荒川区のなかでも、5年前と比較して変化が起きている街をヒントにその近くを狙いましょう。
都心にかぎらず、再開発エリアは不動産価格が高いので、その周辺を狙うべきでしょう。10年後、20年後にはますます便利な街になっていると考えれば、周辺のエリアもその恩恵を受けて不動産価格が上昇することが見込めます。
なお、新築マンションは、その価格が上昇したことで、売れなくなっていますから、今年あたり水面下での値引きが大きく行なわれるはずです。不動産業者に「買う気があるお客さん」と認識されれば、大きく値引き交渉することも可能でしょう。
(参考記事)
信頼できる不動産営業マンを一発で見抜く、たったひとつの質問
<条件4>投資目的で購入した所有者が少ない(マンションの場合)
現在は湾岸エリアに人気が集まっていますが、すでに価格が高いため、住宅ローンの借り入れ額も膨らんでしまい、リスクが大きいと言えます。
お台場や豊洲はタワーマンションが建ちすぎました。これから大規模修繕に向けて、生き残れるマンションとうまく進まないマンションに分かれるのではないでしょうか。
特に投資目的で購入した人の多い高層マンションは、大規模修繕に伴う一時金の徴収に苦労することが考えられます。投資目的の所有者は、一時金の徴収を嫌がるからです。
管理組合を構成するのは区分所有者です。区分所有者のモラルが高くないとタワーマンションの長期修繕は頓挫することも十分に予想できます。
となると、通常の規模感のマンションで、投資目的ではない所有者が多く居住しているマンションを買うほうが資産価値を保つには有利と言えるはずです。
たとえ東京であっても、どこを買っても物件価格は上昇するという時代は30年前に終わりました。
低金利の時代が長く続き、投資目的で不動産を購入する人が増えています。ですが、アパートやワンルームマンションを持つことだけが不動産投資ではありません。自宅を購入するときに、投資の感覚を持って物件を選ぶ人はまだまだ少ないと思いますが、これからは投資の感覚を持つことが最も大切になってくることでしょう。
万が一の場合は、貸すことを優先して考える
住宅の資産価値は、その住宅からどの程度のお金を生み出すことができるかに直結しています。具体的には、「売る」「貸す」「担保にして融資を受ける」の3つに集約されるはずです。
このうち、優先すべきなのは「貸す」、つまり「賃貸に出して収益が安定的に上げられるか」ということです。
自宅として購入するのだから貸すことは考えていないという人がほとんどだとは思います。ですが、何らかの理由でその住宅に住み続けられなくなる可能性は誰にでもあります。その場合は、売ることよりも貸すことを優先に考えてください。
不動産は資産です。貸せば収入が入ります。しかし、手放してしまえば、それでおしまいです。良い不動産を手にすることができたなら、それを売ってしまうのは本当にもったいないことです。
もちろん。将来の売却も意識しなければなりませんが、売ることは簡単ではありません。ですから、まずはその不動産を借りる人がいるか、そして、家賃でローンの返済や管理費、税金が賄えるかを優先に考えてください。
ローン返済と管理費等の支出が家賃収入で賄える住宅を選べば、ローンを組むリスクを大きく軽減することができます。仮に家賃収入が維持費を大きく上回れば、生活面の支えにすることも可能です。
どれくらいの家賃が取れそうかは、近隣の賃貸物件を扱う不動産業者に聞いてみるのがいいでしょう。
「この物件を貸すとしたら、家賃はいくら取れますか? 実際に賃貸に出すときは、おたくに仲介をお願いしますね」と言えば、丁寧に答えてもらえるでしょう。
住宅は大きな買い物です。負債になることを恐れるよりも、資産になることを期待して住宅探しをすることをおすすめします。
(参考記事)
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この記事を書いた人
株式会社国際不動産エージェント 代表取締役社長
宅地建物取引士。公認不動産コンサルティングマスター。 1961年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。 84年、株式会社リクルート入社後、株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)へ転籍。25年間の在籍中、不動産営業・マーケティング・商品企画に従事。その後、海外不動産の販売に従事し独立。世界各国の不動産の視察、販売を行なうほか、セミナー講師としても活躍。 30年のデベロッパー経験を活かし、独自の不動産マーケティング理論を組み合わせた分析を得意とする。14ヵ国38都市の不動産を視察し、現在も毎月海外視察を継続中。わかりやすい解説と不動産マーケットを知り尽くした深い視点からの語りが好評。