心理的瑕疵とは——判例から見つけ方まで徹底解説
ウチコミ!タイムズ編集部
2014/12/16
イメージ/©︎keisuke kai・123RF
【2022年4月更新】
“心理的瑕疵”と聞いてもピンとこない方も少なくないと思います。しかし、不動産を購入したり借りたりするうえで、心理的瑕疵はとても重要な問題になってきます。ここでは、心理的瑕疵について紐解き、不動産に関わるときに参考になる事柄をまとめていきます。
心理的瑕疵物件とは事故物件のこと
まず、心理的瑕疵の定義についてお伝えします。心理的瑕疵とは、不動産取引において、借主や貸主に心理的な抵抗がある状態のこととされています。そもそも瑕疵とは傷や欠陥のことを指し、法律的な観点で言えば、本来備わっているはずの機能が損なわれていることと定義されています。
簡単にいえば、不動産における心理的瑕疵といえば、「事故物件」のことです。事故物件という言葉であれば、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
事故物件とは、元住人が孤独死や他殺、自殺などなんらかの理由によって死亡した場合を指すことが多いですが、そのほかにも存在し、明確な定義はないようです。こういった物件については貸主側からの告知義務が生じます。このことについては後半でも詳しくお伝えします。
次に不動産における瑕疵の種類を見ていきましょう。瑕疵には4つの種類があります。ここでは心理的瑕疵以外にも触れてみます。
「物理的瑕疵」
まずは物理的瑕疵から見ていきましょう。これは読んで字のごとくになりますが、不動産が抱えている物理的な欠陥のことです。
例)シロアリ被害、雨漏り、耐震強度の不足、土壌汚染、床の傾きなど。不動産取引において、物理的に借主に不都合が生じる場合を指します。
「心理的瑕疵」
心理的瑕疵とは、上記で説明したように、借主に心理的な不安を連想させるような欠陥になります。
例)募集している物件において、自殺・他殺などの事件があった場合や火災などの事故があった場合などを指します。俗に言う「事故物件」とは主にこうした物件のことを指します。
「環境的瑕疵」
こちらも読んで字のごとくになりますが、物件を取り巻く環境に欠陥または脅威がある場合を指します。
例)物件のそばに暴力団の事務所や刑務所、風俗店などの嫌悪施設がある場合です。ここでは騒音、異臭を放つ施設などもそれにあたります。
「法的瑕疵」
法的瑕疵とは、法律や条例などによって自由な利用が制限されることを指します。こちらは、重要事項説明義務違反として問題になることが多く、違法な物件となることもあります。
例)貸主の調査不足によっておこる誤認が多く、接道義務を満たしていない場合や建物の安全基準を満たしていない場合などがこれにあたります。
心理的瑕疵の基準とは? 受け手側の感情が最優先
心理的瑕疵には基準があります。それはたとえ一方的であっても、買主・借主側が「そのことが分かっていなかったら賃貸契約を結ばなかった」と言ったら、それが心理的瑕疵にあたるということです。
上記で説明した通り、心理的瑕疵とはあくまで受け手側の感情に左右されてしまいます。当然このような考え方には、「貸主は平気だけど借主が気にする」というケースのように曖昧な要素がありますが、たとえ一方的でも借主の意見が認められます。
心理的瑕疵物件発覚のきっかけは…大げさな近隣住民
入居しようとする物件に対して、もし、不動産会社や大家さんから心理的瑕疵物件という事実を隠されていた場合、それを知るきっかけはどんなことが考えられるでしょうか。例を挙げて見ていきましょう。
とある買主が、購入予定の物件を視察に行った際、近隣のお年寄りから声をかけられました。何やら気さくな様子でついつい話し込んでしまいます。しかしこのお年寄り、どうやら話を大げさに盛る癖があるようです。もちろん、買主はそんなことを知る由もありません。
お年寄りはこう話します。「この物件では、ここ数年の間、病死や変死が続いている」とのこと。また、過去に殺人事件があった疑いもあると言うのです。そんなことを聞いてまでその物件に住みたいと思うはずもなく、買主は購入することをやめました。
実はこの物件、売りに出す前、家族が自宅で亡くなっていたのです。売主は不動産会社に売却依頼をし、運よくこの買主が見つかりました。
売主は、家族が自宅で亡くなったことなどさして重要な問題ととらえず、不動産会社にも買主にも伝えていませんでした。ですから、買主側がそのことを近隣のお年寄りから聞き、怒りながらキャンセルをしたのでした。
いったいこの迷惑(?)なお年寄りは何者?ということで、不動産会社が売主に確認すると、「話を大げさにする近隣の住民」ということが分かりましたが、もちろん取り引きはキャンセルされた後……。もう手遅れという事態に陥ってしまいました。
買主の立場としては、たとえ盛られた話であっても、「死人がいたという既成事実」を教えてもらえなかったということで怒るのは当たり前です。その物件は契約前にキャンセルされましたが、売買契約が成立した後だったら大変なことになっていました。
トラブル回避に大切なことはしっかりとした説明をすること
このように、一見問題なさそうなことが問題となるのが心理的瑕疵なのです。こんなことが起こらないように、売主・貸主はどのように行動すればいいのでしょうか。
やはりそれは、売主・貸主が買主・借主、あるいは関わる不動産会社に「できる限りすべてのこと」を説明し、契約書に記載することが大切になってきます。そうすれば、「説明したという事実=契約書に記載があるということ=買主・借主が確認したこと=署名したこと=了解した事実」ということになり、大きなトラブルは回避される可能性が高くなります。
心理的瑕疵におけるガイドラインについて
国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」(以下、「ガイドライン」)を発表しましたので、その内容を少し紹介していいましょう。もちろん、このガイドラインは現時点の案ですので、以後変更があるかもしれませんので、ご注意ください。
裁判例
心理的瑕疵の不動産においての取り扱いについて、判例が多くありますので、簡単に説明したいと思います。
〇自殺があった物件に心理的瑕疵を認めた裁判例(横浜地裁 平成元年9月7日)
不動産取引において心理的瑕疵があるということは、対象となる建物が通常保有する性質に欠けるということですから、これは心理的瑕疵と言えます。
〇信義則上の告知義務を認めた裁判例(大阪高裁 平成26年9月18日)
一般的に、賃貸借契約にて、対象となる建物で1年数カ月前に自殺があったという事実は心理的瑕疵に値します。貸主がそのことを知っていたのなら、この事実を報告する義務があるのは当然ですね。
しかしながら、実際の不動産取引の現場では、心理的瑕疵が疑われる物件において、それを買主・借主に告知するべき事実かどうか明確に判断することが難しいケースが多く、宅建業者の対応も曖昧なものでした。
そして、今までは、このように曖昧になりがちなケースにおいて、行政の介入はありませんでした。しかし、今回、国土交通省はこのようなケースに宅建業者がどのように対応すればいいかを示ししたガイドラインを発表したのです。
ガイドラインの対象となるのは?
不動産取引のあった物件で起きた「人の死」に関する事柄がガイドラインの対象となり、建物が取り壊された場合の土地取引や近隣の建物などに関する死亡事例はガイドラインの対象外となります。また、居住用の不動産のみが対象となり、オフィスや店舗などは対象外とされています。
告知が必要な物件は?
それでは、どのような場合に告知が必要になるのか見ていきましょう。
〇自殺や他殺、事故死などの原因がはっきり分からない場合の死亡事例
こういった事例は、判例からみても紛争に発展しやすく、契約において重要な影響を及ぼす可能性があるため、告知義務があります。
〇不慮の事故、自然死、孤独死など、特殊清掃がなされた場合
不慮の事故や自然死などは予測可能であるため、告知の必要がないとされていますが、死体が長期間放置された場合に損害がひどく、特殊清掃が行われた物件である場合には告知が必要となります。
具体的にどのような内容を告知すべきか
発生時期や場所などを借主に報告する義務があります。特殊な理由がある場合を除いてはおおよそ3年間その義務があるとされています。その3年が長いのか短いのか、難しい問題かもしれません。
ガイドラインがあるにも関わらず、実際は教えてもらえない?
このようにガイドラインは確かにあり、重要事項説明時に教えてもらえる場合がほとんどかもしれませんが、実情として教えてもらえなかったというケースも存在します。そんなとき、どのように発見すればいいのでしょうか。探し方なども解説していきます。
〇「大島てる」のサイトを参考に
事故物件を自分で見つけるためには、大島てるさんのサイトを参考にすることもいいかもしれません。
「事故物件公示サイト 大島てる」はその名の通り、事故物件の詳細情報を公表しているサイトです。グーグルマップ上で簡単に事故物件を見つけられるので、インターネットで誰でも事故物件を見つけることができます。
詳細は、グーグルマップ上に示された炎のアイコンをクリックすると、「住所」「事故の発生した日付」「事故の内容」「写真」などを紹介してくれます。エリアに関しては、最初は東京23区だけでしたが、今では日本全国はもちろん、海外の情報も得ることもできます。
〇大家さんと直接つながることができるサイト「ウチコミ!」を活用する
賃貸物件を検索できるサイトとして知られる「ウチコミ!」では、直接大家さんとつながることができます。借りる前に、直接大家さんに心理的瑕疵物件であるかないかを問い合わせることができます。
このように、心理的瑕疵物件であるか否かを確実に判断するためには、やはり自分で調べることも大切になってくるでしょう。
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この記事を書いた人
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