改正民法における賃貸借 その1

部屋

2020年に民法制定以来の大改正が行われます。これに伴い、インカムゲイン型の不動産投資で軸となっている賃貸借契約にもいくつかの改正が行われます。
今回は、賃貸借の改正のうち、賃借人の原状回復義務と敷金についてお話します。

賃借人の原状回復義務

本改正により、賃借人が、賃貸借契約の終了時に原状回復義務を負う(改正民法621条)ことが明文化されました。この規定により、通常損耗・経年劣化を除く損傷及び、通常損耗・経年劣化以外の損傷のうち、賃借人の帰責性がないものは原状回復義務の内容に含まれないとされました。つまり、原状回復義務の対象は、賃借人に帰責性がある損傷に限られます。

このため、民法レベルでは賃借人の原状回復義務はかなり限定的に規定されています。
したがって、賃借人に部屋全体のハウスクリーニング代や畳の張替えなどの原状回復義務を負わせる場合は別途特約が必要となります。
また、特約の締結においても「賃借人が費用負担をすべき通常損耗の範囲が賃貸借契約に明記されているか、賃借人が口頭で説明し賃借人がそれを明確に認識して合意の内容としたと認められる等、明確に合意されていることが必要」という判例があります(最判平17・12・16)。
すべての特約が有効と認められているわけではなく、消費者契約法10条により特約無効と判断されている裁判例も多数存在していることに留意しなければなりません。

敷金の明文化

また、今まで判例や慣習として認められてきた『敷金』が民法に規定されました(改正民法第622条の2)。
この規定により、敷金とは、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」と明文化されました。
本規定は、従来の判例法理を明文化しているため実務にあまり大きな変更点はありません。

両者の関係

賃借人の原状回復義務の履行時は「賃貸借が終了したとき」と規定されているのに対し、敷金返還の時期は「賃貸物の返還を受けたとき」(改正民法622条の2第1項1号)となっているため、規定上は賃借人の原状回復義務が先履行となります。
また、実務は賃借人が業者に依頼し原状回復を行うことは稀であり、ほとんどの場合は、賃貸人が原状回復を行い、当該費用を敷金から控除し、余った場合には賃借人に返還しています。

これらのことから、賃貸人が原状回復を行う場合にあっては、賃借人は賃貸物の返還をしただけでは直ちに敷金の全額返還を請求できるわけではなく、賃貸物の原状回復費用を控除した残額の敷金を請求できるにすぎないことになります。

このときにおいて、通常損耗などを賃借人の負担にする特約が有効の場合は、特約に基づき敷金から原状回復費用を控除することができますが、特約が消費者契約法により無効と判断された場合においては、敷金から控除できる原状回復費用は賃借人に帰責性がある損傷部分についてのみに限定されていることに注意しなくてはなりません。

このように敷金や原状回復の特約などは、契約書の作成の初期段階から契約終了時の段階にまで関わり非常にトラブルの多い問題ですので、少しでも不安なことがあれば弁護士に相談し、未然にトラブルを防ぐのがいいでしょう。

この記事のコラムニスト

森田雅也
森田雅也(弁護士)
弁護士法人法律事務所オーセンス 弁護士(東京弁護士会所属)。
上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。
[著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。
[担当]契約書作成
森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。