敷金の承継について

購入のための費用

賃貸マンションの購入・経営、いわゆる不動産投資について注意すべき点はたくさんあります。今回は賃貸アパートを前のオーナーから買い取った場合の敷金の返還義務はどうなるかについて説明していきたいと思います。

そもそも敷金とは、賃貸借契約に際し、賃貸借契約上の債務を担保する目的で、賃貸借契約が終了して明渡しが完了した後に、賃借人に賃料債務その他の債務不履行があればそれを差し引いた残額を賃借人に返還する約定のもとに、賃借人から賃貸人に交付され、預託される金銭をいいます。したがって、契約途中で賃貸建物を譲り受けた場合には、賃借人と賃貸借契約を締結したのは譲渡人である前オーナーであって、建物の譲受人である新オーナーは賃借人との間には賃貸借契約を締結した事実はありません。

そこで、契約途中にオーナーが交代した場合の敷金の返還義務が問題となりますが、前のオーナーから賃貸アパートを買い取った場合、通常新オーナーは、前のオーナーと借主との間の賃貸借契約をそのまま引き継ぐことに同意し、敷金返還債務も新オーナーが承継することが合意されています。つまり、契約内容と借主はそのままで、賃貸人だけ入れ替わったことになります。もっとも、上記のような合意がない場合でも、判例により「建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」(最判昭和44年7月17日)とされています。そして、新オーナーは、前の契約の内容に拘束されますので、契約を自分の希望する内容に変更することはできません。このように、前のオーナーから賃貸アパートを買い取った場合には、いろいろなリスクを負いますので注意が必要です。

事前に注意すべきポイントは?

では、アパートを買い取るにあたりどんなことを事前に確認しておけばよいでしょうか。

まず、旧オーナーと借主との間の契約書の内容をチェックして、特別な約束や負担がないか確認してください。また、旧オーナーからの敷金の引き継ぎも正確に行ってください。さらに、旧オーナーと新オーナーとの間でよくトラブルになるのは、レントロールの数値等の間違いと建物や建物内の設備の故障や破損です。新オーナーは、多くの場合賃貸物件の賃料収入を前提とした利回りをもとに売買代金を決定しますが、この利回りの計算のベースになるレントロールの数値等に間違いがあり、予定していた賃料の収入がないというケースがしばしばあります。また、旧オーナーが建物や建物内の設備の破損や故障を隠して建物を売却し、オーナーチェンジ後に新オーナーが借主から修理を求められ、多額の費用を負担させられるというケースもあります。いずれも、旧オーナーと新オーナーとの間でトラブルとなりますので、売買契約締結前にしっかり確認した方がよいでしょう。

この記事のコラムニスト

森田雅也
森田雅也(弁護士)
弁護士法人法律事務所オーセンス 弁護士(東京弁護士会所属)。
上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。
[著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。
[担当]契約書作成
森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。