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文/真板 貴幸

BOOK Review――この1冊 『賃貸の新しい夜明け』

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『賃貸の新しい夜明け』 沖野元・林浩一 著/週刊住宅新聞社 刊(QP books)/1500円+税

「賃貸経営とは何か?」 

中長期的にインカムゲイン(家賃収入)を得ること、もしくは出口戦略を設定し、キャピタルゲイン(売却益)を目的にするオーナーもいるだろう。このように賃貸経営をするオーナー人それぞれ、そのゴールは違う。

しかし大前提として、入居者がいなければ投資、経営として成り立たないのが賃貸経営だ。アパート・マンションを建てて「はい、終了」、あとは左うちわで悠々自適といった時代は確実に終わった。

世の中を見渡せば、その理由は簡単に理解できる。人口ボリュームの頂点にあった団塊世代は高度経済長の波とともに核家族化し、その子どもたちである団塊世代ジュニアが単身であった頃、学生と社会人はあふれんばかりで、誰もが部屋を探していた。

時が経ち、少子高齢、人口減少はとどまることを知らず、はたまた住宅ローンの完済年齢は健康寿命を超えるなど、住まいを取り巻く環境はすっかり様変わりした。当然、そのマーケットに対応するためには賃貸住宅を経営するにも努力と工夫、そして差別化が必要になってくる。

もはや、賃貸経営は不労所得ではないということだ。

土地、建物、そしてそこに住む人がいてこそ初めて成り立つ商売で、そういった意味ではほかのビジネスとは何ら変わらない。賃貸住宅を営むということは経営であり、ビジネスなのだ。

それでも不労所得という甘い誘惑に駆られ、安易な気持ちで不動産投資を行い、失敗する人は後を絶たない。人は欲に駆られると、そのリスクについては盲目になり、自身の行動を正当化するようになる。そして気づいたときには借金が残り、ニッチもサッチもいかなくなる。

新型コロナはある意味、今日を生きる私たちに「住まいとは何か」「働くこととは何か」「お金とは何か」を強烈に問いかけている。そしてこのような時代には、さらなる甘いワナが仕掛けられる。

「今回のような予測できない事態にも対応できるよう、副収入を確保しておくべきです」――もしあなたが、こんなフレーズで不動産投資を勧められたなら判子を押す前に、まずこの本を読むことをおすすめする。

『賃貸の新しい夜明け』だ。

世の中には不動産投資や賃貸経営にまつわるノウハウ本は数多くある。しかしこの本はいわゆるそういったノウハウ本ではない。

初版は2015年の8月。すでに5年前の本となるが、現役オーナーはもちろん、これから不動産投資、賃貸経営を始めたいと思っている人には特に読んでほしい。

なぜなら本書に貫かれているテーマには、「入居者にとっての良質な住環境」という、賃貸経営を行ううえでの最も大切なエッセンスが封じこまれているからだ。

「住まいと入居者」「オーナーと入居者」という関係性を説いたものは数多くある。しかし「入居者と入居者」という観点から深掘りした賃貸経営に関する書籍はほとんどないといっていい。そしてオーナーとして、どうすれば入居者のために良質な住環境を提供できるかの方法の一つとして「再契約型定期借家契約」が提案されている。

入居希望者は部屋探しのとき、立地も物件も気に入った場合、無条件ですぐに契約するだろうか。

おそらく大半の人は、隣にどんな人が住んでいるかを不動産会社に確認するはずだ。知らずに入居して、隣がいつも近所迷惑になるような行為をする人であったら、更新を待たずに出ていくことを考えるだろう。クレームを言うことで余計な揉めごとに巻き込まれたくないからだ。実際にそういった事件も多い。

そこで抑止力となるのが再契約型定期借家契約だ。

契約の際、居住中に何か問題を起こしたときは更新しない旨を伝えることで、入居者それぞれが集合住宅における共同体の一員としての意識を高め、お互いに気持ちよく住むことができる。万が一、トラブルを起こすような人がいれば更新されないので、住居が良質な入居者で満たされ、いつまでも安心して住むことができる。普通に住んでいれば更新できるので入居者にデメリットはない。

そしてこれはオーナーにとって、物件を守るうえでの防御策になる。悪質な入居者が1人でもいると、良質な入居者は逃げ、空室が増えてしまうという悪循環を防ぐことができるからだ。

どんなにいい物件でも、入居者がいなければすべては絵に描いた餅にすぎない。空室が増えれば収入は減り、良質な住環境を提供するための資金も枯渇、やがては「貧すれば鈍する」といった状態となる。

冒頭のフレーズに戻る。

「賃貸経営とは何か?」

その答えは、きっと本書にあるはずだ。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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