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BOOK Review――この1冊 『現代経済学の直観的方法』

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『現代経済学の直観的方法』長沼伸一郎 著/講談社刊 2400円+税

グローバル化やデジタル化の進展などにより、社会は日々ダイナミックに変貌しており、変化のスピードはかつてないほどに早く、将来、社会はどこに着地するのだろうか――。

社会の先行きを考えるうえで欠かせないのが経済の知識だが、大人になって改めて経済について考えてみると、「インフレとデフレの構造的な違い」など、基礎的な知識が抜けていることに気づくことがある。

時代の岐路にある今こそ、経済を改めて学び、これからの日本経済や世界経済のありかた、ひいては社会の将来像を、自分の頭で考えてみたい。

本書は、そう願う読者におすすめしたい1冊だ。

著者は『物理数学の直感的方法』などの著書で知られる気鋭の物理学者。「経済に無知であることが科学者としての純粋者と信じ」、「そこだけがぽっかり教養の空白になってしまっている」科学者が多くいる現状から、「科学者の社会的な無力」をみてきたことが、本書を執筆する動機の一つであったという。

読了すれば、「経済というものが全くわからず予備知識もほとんどない(ただし読書レベルは高い)読者が、それ1冊を持っていれば、通勤通学などの間に1日あたり数十ページ分の読書をしていくだけで、1週間から10日程度で経済学の大筋をマスターできる」。理系・文系問わず、経済学の基礎をモノにしたいと願う読者の希望に応えるはずだ。

資本主義がたどってきた歴史的経緯や、貨幣や通貨が市場に流通するメカニズムなど、経済の基本を網羅的に抑えているのはもちろん、ブロックチェーンの仕組みや今後の展望といった今日的なトピックまでを幅広くカバー。終章では、将来の経済学はどうなるのかという答えの見えない課題に対し、著者自らが知性と思考力を駆使して分析。資本主義のひずみが露見し始め、どこか閉塞感の漂う社会に対し、何らかの明るいきざしを提示したいという、著者の情熱は伝わってくるような、熱き知的探求の軌跡をたどることができる。

全体を通じ、さすが物理学者というべき論理的なアプローチが新鮮で、面白い。しかも、文体が堅苦しくなく、口語のように軽やかなので、目の前で話を聞いているような感覚でスイスイと読み進められるのも魅力になっている。

テーマ自体はそれなりに難しいが、閑話休題的なエピソードも差し込まれており、気負わず読める。

例えば、イスラム社会の「喜捨(きしゃ)」による富の再分配について解説する文脈のなかでは、スーダンで過去、スーダン大卒男子の平均年収の800年分を喜捨で稼ぎ出した「プロの乞食」がいたことに触れられており、驚くと同時にちょっと笑ってしまう。こうした余談が散りばめられているので、読み物としても非常に面白い。

理系的な知識、価値観のみに立脚するのではなく、歴史や哲学など、経済学に関連するあらゆる学問領域に踏み込みながら議論が展開されるので読み応えがあり、経済を立体的に理解する助けにもなる。何より、抜群にわかりやすいのがいい。

「大人が読む経済学の教科書」として、文句なしの完成度。いつでも読み返せるよう、座右の1冊として大事にしたい。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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