BOOK Review――この1冊 『そして、バトンは渡された』 瀬尾まいこ 著(1/2ページ)
BOOK Review 担当編集
2019/07/05
『そして、バトンは渡された』 瀬尾まいこ著 文藝春秋刊 1600円(本体価格)+税
――困った。全然不幸ではないのだ。
冒頭で、主人公・森宮優子17歳がこう独白する。周囲から見たら、間違いなく不幸がてんこ盛り状態で生きてきたはずなのに……。
生まれたときは水戸優子だった。その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮を名乗っている。父親が3人、母親が2人いる。家族の形態は17年間で7回も変わった。「バトン」のようにして様々な継父母の元を渡り歩いた優子だが、親との関係に悩むこともグレることもなく、どこでも幸せだった。
本書は今年、第16回を迎えた「本屋大賞」受賞作である。本が売れない時代に、書店員がいちばん売りたい本を投票によって選ぶ賞だ。実際、これまで多くのベストセラーを世に送り出し、直木賞や芥川賞より売れた本も多い。過去の受賞作の多くが、映画化やテレビドラマ化されてきたのは、読後感がよく、メリハリのあるわかりやすい小説が受賞してきたからだろう。そして本書もまた、主人公の親子関係をベースに、友情、恋愛、進学などを細やかに描いた爽やかな青春小説だ。
だが、どこか違和感を覚えないだろうか。様々な継父母の元を渡り歩き、幸せだった?
昭和の小説なら、まず継母のいじめがあるだろう。継父の暴力だってあるかもしれない。そもそも現在、優子を育てている森宮さんは、継母の3番目の夫であり、その継母は優子を置いて出て行ってしまい、37歳の継父と17歳のJKが一つ屋根の下で暮らしている。少女漫画なら間違いなくラブストーリーの設定。それが何も起こらないどころか、娘を持つ父親の務めを満喫する継父とその暮らしを淡々と受け入れるJKという構図。これはもうファンタジーでしかない。世間では、実の親による幼児虐待死や性的虐待裁判が報道されているのに、こんな奇特な親子が存在するリアリティのなさ……。
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ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
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