杉並区で擁壁が崩落。家がバラバラに。擁壁がある土地のデメリットに注意
2025/10/23

杉並区で古い擁壁が崩れ、住宅が倒壊
9月30日夜のことだ。東京都杉並区で住宅1棟(木造2階建)が倒壊した。土台となっている土地を押さえていた高さ4~5メートルとされる擁壁が崩れた。家は路地を挟んだ隣のマンションの敷地に向かって落下し、地面に激突。バラバラに砕けてしまっている。
住人はこの家に2人いた。1名は外出中で、もう1名は事故直前に避難し無事だった。巻き込まれた通行人などもいなかった。そのため、幸いにして死傷者は出なかったものの、現場はまるで大地震にでも見舞われたかのような状態となった。住宅の残骸が、マンション側面に押し寄せたまま山のように積み上がっている映像をテレビ等で見て、ショックを受けた人も少なくなかっただろう。
この件については、杉並区が翌10月1日に、第1報としてウェブサイト上に状況を記している。それによると、いま触れたとおり死者・けが人こそ無かったものの、隣地の1世帯とマンションに住む4世帯、計5世帯の近隣住人が避難を強いられた。(うち4世帯は2日午後5時までに帰宅)
加えて、2日に区は第2報をリリース、16日にそれを更新した。崩れた擁壁に関するさらに詳しい情報が、下記のとおり公表されている。(抜粋・要約)
擁壁の概要
建設年:1968年(昭和43年)(築57年)
構造:鉄筋コンクリート造
倒壊の原因
「宅地内の土の圧力により擁壁に生じていた亀裂が進行したため、倒壊に至ったと考えられる」
これまでの区による指導等
「1984年に当該擁壁に亀裂があることを把握。その後、毎年の現地調査のほか、所有者へ文書や対面での指導を実施。亀裂のモルタル補修は複数回行われたものの、抜本的な安全対策がされない状況が継続」
「2024年10月の現地調査で、亀裂が広がっていることを確認。あらためて早期の改善を指導。近隣住民や通行人への注意喚起のため(区が)カラーコーンを設置」
「2025年9月24日、区建築課を訪れた所有者より、擁壁の補強工事を行う旨報告があった」
このとおり、事故は奇しくもこの土地の所有者が工事の実施を告げた1週間後の前夜に起こっている。なお、区による指導は、前所有者に対し8回、現所有者に対しては3回、文書や対面等で行われてきたということだ。
豪雨が引き金? 水が出ていたとの証言も
今回の事故について、報道によれば、近隣住人からは「擁壁のひび割れ部分から水が出てきていた」との証言も聞かれている。
この水が地下水なのか、水道水が漏れ出たようなものなのかは現状不明だが、併せて気になるのは9月11日に東京などを襲った記録的な大雨だ。
亀裂の生じていた擁壁が、内側の土の圧力にどうにか耐えていたところ、そこに染み込んだ大量の雨水が水圧も加えたためついに―――と、いった流れも想像されるが、その辺については今後専門家などがさらに詳しく調べていくことになるだろう。
そのうえで、擁壁だ。
「擁壁のある土地は買ってはいけない」「買わない方がいい」と、注意を促す声は少なくない。
実際、そうした土地を持っていて、売ろうとしている人もたくさんいるため、これらには語弊があることも事実だが、一方で、擁壁のある土地はたしかに特有のデメリットを抱えている。以下、主なものを並べていこう。
(なお、擁壁について、どんな種類のものがあるのかなど、参考となる資料が下記サイトにある。詳しくない方、詳しい方含め、一度目を通されるといいだろう)
1.損壊、倒壊や崩落の危険性
古い擁壁では特にいえることだろう。劣化による自然な事故も起こりうるが、地震などの災害や、工事がきっかけとなって生じるケースもある。
擁壁の上に建つ家、下に建つ家の住人の生命、身体、財産のほか、通行人などにも危険がおよびかねない重大なリスクをかかえるかたちとなる。もちろん、擁壁の所有者、あるいは占有者にあっては、被害が出た際の損害賠償責任も生じてくる。
なお、擁壁の寿命―――耐用年数としては、構造等の条件によって30年、40年など見方にさまざま違いはあるものの、最大の数字として50年程度を指摘する声は多い。
つまり、かつての高度成長期に全国で数多く造られたとされる擁壁が、現在、揃って不安な時期を迎えていることになる。
2.メンテナンスに高額な費用を要する可能性
擁壁を含んだ土地を所有し、メンテナンスが必要になった場合、思わぬ高額な出費を迫られることがある。
とりわけ、擁壁の状態が悪く、これを造り直すとなると、コストが数百万円以上に跳ね上がったりもする。よって、購入前の調査にあっては決して手を抜くことができない。
さらに、擁壁が危険な状態にあるのに費用を出せず、何もせずにいると、周りの目が厳しくなる。今回の杉並区の例のように、行政から度重なる指導を受けたり、近隣住人から苦情を寄せられたりもする。
(杉並区の例でも、区の公表によれば、近隣からの不安の声が過去に2度区へ寄せられていた)
3.法令による規制を受けやすい
よく話題にのぼる「がけ条例」等、擁壁を含む土地、それに接する土地、さらに擁壁自体に対しては、法令による厳しい規制がかかってくることが多い。
また、建設時の状況により、現在は法令上不適格とされる擁壁もあったりする。
そのため、家を建てる場合など、手続きが複雑になるため、専門家に依頼する手間やコストが生じたり、あるいは、望んだかたちでの建築・施工自体が出来なかったりもする。これらは、擁壁に絡んでたびたび生じがちなリスクだ。
加えて、擁壁のある土地は、周囲も含めて傾斜が著しい土地であることも多い。土砂災害に関するさらなる指定や、それによる制限が課されるケースも少なくない。
そのうえで、規制に応じ、意思決定すべき擁壁の所有者などが複数いる場合や、所有者等の所在が不明なケース、さらには、それが誰なのかさえ判らないといったかなり面倒なケースもある。
4.売却に苦労しやすい
以上のとおり、擁壁のある土地やそれに接する土地、そこに建つ建物等に関しては、大小のリスクや不利な条件が揃いがちとなる。そのため、売ろうとする際、買い手を見つけるのに苦労しやすい。つまり、概して売れにくい。
よって、売るためには価格を大きく下げざるをえなくなることも多い。資産価値面での不利も背負いやすくなるわけだ。
望まない擁壁が手に入ってしまう? 知らずに所有していた?
ところで、そんな擁壁だが、土地を買わなくともひょっこり手に入ってしまうことがある。あるいは、手に入らなくとも、予期せず擁壁の存在に悩まされることとなるケースがたまにある。
それは何か? 相続だ。
将来、親などの土地を相続する予定がある人は、その土地に擁壁が含まれていないか、他人の所有する隣地がそんな土地だったりしないか、さらには、それらに該当するとして、その擁壁はいまどんな状態か? しっかりと把握しておいたほうがいい。
そのうえで、リスクが感じられるならば、自治体や専門家に相談し、土地を手放すことも含め、対策が必要かを見極めたい。必要であれば、順次手配を進めていくなど、注意を怠らないことをおすすめしたい。
ちなみに、マンションでも、建物等が擁壁の上にあったり、多くの住人が知らぬまま、目立たぬ場所に擁壁が存在したりといったことがある。
敷地内にあれば、それは管理組合の所有となっているだろう。区分所有者全員に管理責任が生じてくる。
そんな擁壁が、危険な状態になっているとして、行政から管理組合に対処が求められ、多額の費用負担に住人が驚くといったケースも起きている。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室