ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

日本人が一段と貧乏になった2023年?「建築着工統計」に思うところ

朝倉 継道朝倉 継道

2024/02/21

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

建築着工統計2023年分が公表

この1月末に、国土交通省から建築着工統計調査報告の令和5年計分(2023年1~12月計)が公表されている。同年(昨年)の新設住宅着工戸数は、総計81万9623戸となった。前年比4.6%の「減」だ。当記事では、この数字に関連して筆者の思うところを述べていきたい。

今世紀4番目に少ない戸数

まずは、いま示した新設住宅着工戸数の総計だ。81万9623戸という数字は、今世紀に入って以降、4番目に少ないものとなっている。順に挙げてみよう。

新設住宅着工戸数・年間の総計 2001年以降の少ない順
1位 2009年 788,410戸
2位 2010年 813,126戸
3位 2020年 815,340戸
4位 2023年 819,623戸(昨年)
5位 2011年 834,117戸

さて、何かに気付かれただろうか?

答えは、経済関連のニュースに日ごろ敏感な人にとってはおそらく単純なものだ。上記のうち、昨年(23年)を除く4つの年にあっては、2つの経済的な大事件が明らかに影響している。

ひとつは、リーマン・ショックとなる。08年9月に発生した。

その余波は、翌年(09年・上記の1位)のみならず、翌々年(10年・同2位)、その翌年(11年・同5位)と、長期にわたり住宅市場へ及んだものと推察される。

さらには、先般の「コロナ禍」となる。

上記ランキングにおいては、3位に挙がっている20年の数字におそらくそれが表れている。なお、コロナにかき回されたかたちになっているが、19年10月からの消費税増税(8%→10%)も、これにはひそかに影を落としている可能性が高い。

前年比下落割合のTOP5

ではもうひとつ、別のTOP5も掲げてみよう。

こちらは、上記と同じ新設住宅着工戸数における各年別の総計がベースだが、そのうえで、前年比下落の割合が激しかった年を順に並べたものだ。それぞれ推定される要因も添えていく。

1位 2009年 -27.9% … リーマン・ショック
2位 2007年 -17.8% … 改正建築基準法の施行(6月)
3位 2020年 -9.9% … コロナ禍および前年10月の消費税増税
4位 2014年 -9.0% … 消費税増税(4月・5%→8%)
5位 2001年 -4.6% … ITバブル崩壊(9月にはアメリカ同時多発テロも発生、さらに景気が冷え込んだ)
5位 2023年 -4.6% … 要因は以下で考察

このとおり、建設・不動産業界への直撃弾といえる2位・07年の改正建築基準法施行による影響を除いては、1位の09年、3位の20年、4位の14年、5位の(うちの1つ)01年、いずれも、経済的にネガティブなイベントがこれらに大きく影響を及ぼしていることが推察される。

なお、そろそろ世間に忘れられかけているので記しておくと、07年の改正建築基準法施行は、その前に起きた一連の耐震偽装事件を発端とするものだった。

さて、そこで疑問が一個残る。

もうひとつの5位である「昨年」の要因は何だったのだろうか?

前年比4.6%の下落によって、今世紀で4番目に少ない新設住宅着工戸数を記録することとなった昨年――23年における、その要因は何だったのか?

何か、大きなネガティブ・イベントが昨年は起こっていたのか?

その答えになるかもしれない数字を先日、厚生労働省がリリースしている。毎月勤労統計調査の令和5年(2023)分だ。

90年以降最低の水準となった実質賃金

繰り返す。この2月6日に、厚労省が「毎月勤労統計調査」の2023年分の結果を公表している。(速報版・確報で改訂される場合あり)

かいつまんで、数字を挙げていこう(対象事業所規模:従業員5人以上)。

まず、1人あたり実質賃金の前年比は-2.5%となっている。前年の-1.0%に続いて2年連続の減少だ。かつ、減少幅が広がる結果ともなっている。

一方、名目賃金(現金給与総額)は1.2%の増となった。しかしながら、前年の2.0%に比べてその伸びは減っている。

そのうえで、消費者物価指数は前年比3.8%の高い上昇率となっている。

都合、「実質賃金の大幅なマイナス」という上記の現実が、とどのつまりの答えとなっている。

すなわち、賃金・給与の増加が追いつかないレベルの物価上昇が、前年以上に深刻さを増した1年こそが、昨年だったということになる。

さらに、こんな数字もある。

20年を100とした実質賃金指数が、昨年は97.1に落ち込んでいる。前年の99.6からさらに下がり、なんと90年以降、最低の数字となっている。

ちなみに、その90年の同指数は111.8だ。リーマン・ショックの余波が吹き荒れた09年でも105.3となっている。

つまり、こういうことになるだろう。

株価は上昇し、企業業績も好調、額面の給料も上がったが、実質として多くの日本人が一段と貧乏になった年が、おそらく昨年――23年ということになる。

そのインパクトは、新設住宅着工戸数においては、過去にあった多くのネガティブ・イベントに迫るほどのものとなっているように、いまのところは見えている。

新設住宅着工戸数に生じる「断層」

以上、国交省から先般リリースされた、建築着工統計調査報告の23年分において報告された数字について、筆者の思うところを述べてみた。

なお、新設住宅着工戸数自体は、今後ますます減っていく(はずの)数字だ。そのベースには、当然ながら、少子高齢化・人口減少が進む日本社会という、われわれがよく知る現実があるからだ。

たとえば、有名シンクタンクのNRI(野村総合研究所)が昨年公表したレポートによると、同戸数については、30年度に74万戸、40年度には55万戸になる見通しとなっている。

そのうえで、実際に眺めてみると分かるのだが、新設住宅着工戸数には、過去からの推移においていくつかの“断層”が生じている。

断層とは、

「あるネガティブなイベントによって新設住宅着工戸数が急激に下がったのち、当該イベントの影響が無くなっても、数字が以前のレベルには決して戻らなくなる現象」

のことを指す(筆者の考察において)。

たとえば、挙げてみよう。

09年の“リーマン・ショック下落”(前年比-27.9%)によって、新設住宅着工戸数は前年の109万戸台から78万戸台へ一気に下がったが、以降、二度と100万戸を超える年は現れていない。

同様に、14年の“消費税増税下落”(〃-9.0%)にあっても、その前年の98万戸台の数字を超える戸数は、その後2度と見られることがない。

さらに、20年の“コロナ下落”(〃-9.9%)では、前年の約90万5千戸が、約81万5千戸に下がったが、以降、昨年まで(多分今年も)90万戸台は回復できずといった調子だ。

そこで、筆者が想うところ、この新設住宅着工戸数における“断層”には、市場をふるいにかける要素がどことなく感じられる。

すなわち、これらを期に、自らの住宅を建てられる人や買える人と、そうではない人、諦めてしまう人が、一気に選別される。

そのうえで、こうした動きを時折経ながら、今後もおそらく右肩下がりに数字を減らしていく新設住宅着工戸数において、昨年の数字がどんな意味をもつものであったかは、今後、しばらくしてから判明していくことになるだろう。

当記事で採り上げた各データは、以下でご覧いただける。

国土交通省 建築着工統計調査報告 令和5年(2023)計分
厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和5年(2023)分結果速報
NRI『2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少』

(文/朝倉継道)

【関連記事】
地価を引っ張る人流、インバウンド、半導体――。2023年「基準地価」
タワーマンションはなぜ憎まれるのか?


無料で使える空室対策♪ ウチコミ!無料会員登録はこちら

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

ページのトップへ

ウチコミ!