2022年「基準地価」を見て、北海道新幹線の新千歳空港延伸について考える
朝倉 継道
2022/10/28
コロナ禍脱す――?
先日(9月20日)、国土交通省より「令和4年(2022)都道府県地価調査」の結果が公表されている。いわゆる基準地価だ。すでに報道されているとおり、以下のような数字が全国目線で見たところのトピックとなっている。
1.3つの全国平均が下落から上昇へ転じる
全国・全用途平均が3年ぶりに上昇へ
(前年マイナス0.4%から、本年プラス0.3%へ)
全国・住宅地平均は31年ぶりに上昇へ
(前年マイナス0.5%から、本年プラス0.1%へ)
全国・商業地平均は3年ぶりに上昇へ
(前年マイナス0.5%から、本年プラス0.5%へ)
2.大阪圏が回復
前年全てがマイナスだった大阪圏の3平均(全用途・住宅地・商業地)がプラスへ
全用途 マイナス0.3%から、プラス0.7%へ
住宅地 マイナス0.3%から、プラス0.4%へ
商業地 マイナス0.6%から、プラス1.5%へ
ちなみに、東京圏・名古屋圏はすでに前年より3平均プラスに転じていた。本年も同じくプラス。出遅れていた大阪が追いついた格好となる。
3.地方圏の下落率が大きく縮小。4市の寄与が大きい
地方圏の数字は下落が続いているが、下落幅は前年よりも大きく縮小された。
全用途 マイナス0.6%から、マイナス0.2%へ
住宅地 マイナス0.7%から、マイナス0.2%へ
商業地 マイナス0.7%から、マイナス0.1%へ
大きな要因として、これらに含まれるいわゆる地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)の地価上昇幅が著しいことが挙げられる。
地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)の前年~本年推移
全用途 プラス4.4%から、プラス6.7%へ
住宅地 プラス4.2%から、プラス6.6%へ
商業地 プラス4.6%から、プラス6.9%へ
なお、これら地方4市を除いた地域における数字は以下のとおりとなる。こちらも下落は続いているが、幅が縮小していることが見てとれる。
地方4市を除く、その他地方圏の前年~本年推移
全用途 マイナス0.8%から、マイナス0.4%へ
住宅地 マイナス0.8%から、マイナス0.5%へ
商業地 マイナス1.0%から、マイナス0.5%へ
以上をまとめよう。
・地価における「脱コロナ禍」が確実に進んでいる
・土地需要はいわゆる二極化に取り残される地域を除き、都市部を中心に総じて回復傾向
と、いったところだろう。
変動率上位を埋める札幌市周辺部
さらに、話題となっている地方発のトピックに触れたい。それは、北海道札幌市周辺部における著しい地価上昇率についてだ。
地価変動率TOP10(プラスの変動率が高い10基準地)において、住宅地では1位~10位までの全てを札幌市に隣接する町の基準地が独占している。
さらに、商業地でも6位以外の全て(9地点)を同様の基準地が占める結果となっている。
なお、このうち住宅地での1~3位、商業地での1位と2位を占める北広島市では、来年、プロ野球日本ハム・ファイターズの本拠地となるボールパークが開業する。このことが起爆剤となって同市での土地需要が高まっていることは、ここ数年来、全国的にもよく知られているところだ。
もっとも、北広島市はじめ、札幌に隣接する都市での地価が上昇している理由はそれだけではない。現在、北海道では道内全体の人口が減少する中、札幌への「人」「物」「財」の集中が進んでいる。
それに伴い、伸び続ける土地需要が周囲に溢れ出すかたちで隣接都市に及んでいることが、上記「ランキング独占」における主な要因となっている。
北海道の基幹軸となる札幌―千歳間
ところで、そんな北広島市だが、北海道以外の人は実はほとんどが場所をよく知らないのではないか。
なかには「ファイターズの新球場が広島県にできるらしい」と、アクロバティックに勘違いしている人もいるようだが、簡単にいうと北広島市は札幌市中心部から新千歳空港に向かう道路や線路の途中にある。
なお、この経路上にある町は、札幌市のほかは、北広島市、恵庭市、千歳市となる。ちなみに、さきほどの地価変動率プラスTOP10においては、住宅地で10地点のうち6つを北広島市と恵庭市の基準地が占め、商業地でも同じく6つを北広島市、恵庭市、千歳市の3市が占めている。
つまり、市場はおそらく北海道の“行く末”も読んでいると見たい。この3市を結ぶ線は、いまもそうだが、これからますます北海道にとって重要な基幹軸となるものだ。人口の減少とともに、北海道はこれから急速にウィルダネスな島に還っていく。だが、反面この基幹軸に関しては、今後は集中的に都市化していくことになるはずだ。
そこで、筆者は提案したい。2030年度末の延伸・開業を目指す北海道新幹線についてだ。北海道新幹線は、なぜ北回りでやっと札幌に到達したところで線路を止めてしまうのか。北広島、恵庭、千歳と続く北海道の「基幹軸」をそのまま走らせ、千歳市にある新千歳空港までを結ぶかたちに延ばすとよいのではないのか。
そうすれば、そこには国内で初めての空港直結の高速鉄道が生まれることになる。その路線は、世界に知られた200万都市の中心駅と国際空港をおそらく10分台から20分程度で結ぶことになる。現在要している時間の半分以下だ。冬は吹雪に閉ざされやすい新千歳空港に、5時間ほどで東京につながる強力な迂回路が与えられることになる。
なお、その際の延長距離といえば、あとほんの45km程度に過ぎない。日本の北の拠点となりうる街・札幌が、時間的にはほぼ庭の内側に大型の空港を持つことになる。
今後、グローバルな都市間競争をまともに戦いうる数少ないプレイヤーとして、日本が札幌に投資し、これを育てていくとするならば、あるいは札幌がそこに名乗りを上げたいのならば、新幹線新千歳空港駅は、都市機能上その重要なカギとなるはずだ。
新幹線新千歳空港駅の面白い効果と未来
ちなみに、新幹線新千歳空港駅が出来上がると、実は面白い効果がある地域に生じることになる。
地域とは、東北北部のことだ。新幹線と繋がった新千歳空港は、岩手県や秋田県、青森県の人々にとっては、時間距離的に東京の成田や羽田と比べうる国際空港となる。当然ながら、選択肢が増える恩恵をこの地域にもたらすことになる。
さらに、少し手さぐりな未来になるが付け加えよう。さきほどの札幌、北広島、恵庭、千歳を貫く基幹軸のすぐ南に、隣接して苫小牧市がある。北海道の港湾における取扱貨物量の約半分を握る、重要な港をもつ町だ。
そこで、この苫小牧港だが、ひょっとすると将来北極海航路の拠点になる可能性がある。そして、わが新千歳空港はこの港からはほんの20kmほどしか離れていない。
人ではなくモノを運ぶ、いわゆる貨物新幹線については、すぐに実現しそうでいて実は技術的なハードルが高いとも聞く。しかしながら、ヨーロッパと極東を結ぶ北極海航路による新たな物流が、北海道と東京を結ぶ高速鉄道に連結される風景というのも、想像すれば期待が高まるものといえるだろう。
以上、先日公表された2022年の基準地価を見ながら、北海道新幹線の新千歳空港延伸について考えてみた。
(文/朝倉継道)
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参考資料
「令和4年(2022)都道府県地価調査」のリンク先
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo04_hh_000001_00024.html
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。