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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

居住支援のこれから 〜本格化する高齢者と外国人入居にまつわるエトセトラ〜(3/3ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/07/15

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住宅確保要配慮者と居住支援

「もともと日本人は単一民族でもなく、同質でもない。なのに、自分たちは同質だという幻想に漬かっている——そうした意識の下での「多文化共生」観は、同質と思う人たちが、異質と思う人たちに「してあげる」という、恩着せがましいものにもなりかねない。」(岡本雅享:島国観再考-内なる多文化社会論構築のために 福岡県立大学人間社会学部紀要2010第18巻第2号80項)

この指摘は、対外国人に限った話ではなく、現代日本の社会全体に蔓延っている排他的思考への警鐘である。

不動産業界でも住宅確保要配慮者(※2)への居住支援を“ボランティア”だと言いのけて憚らない事業者もいる。それはどう考えても間違いで、たとえ低額な賃料の物件であっても、仲介手数料などの報酬を受け取る以上、仕事であってボランティアではない。

一方、行政側はこの住宅確保要配慮者に対する入居を拒まない物件の供給と斡旋、物件所有者に対する啓蒙と理解、協力を得るよう業界側に要請してくるわけで、そういう通知を受け取った事業者としては、「大して金にならないのに、手間ばっかり掛かるし……」となってしまい、実際はフィーが発生しているにも拘らず“ボランティア”感覚で仕事をする羽目になる。

※2:法律では、低所得者、災害被災者、高齢者、障害者、子育て世帯をいい、国土交通省令では、日本国籍のない人・児童虐待や配偶者虐待を受けている人・生活困窮者自立支援法の支援を受けている人・犯罪被害者・更生保護法に規定する保護観察対象者、売春防止法に規定する保護観察に付されている人・更生保護法に規定する更生緊急保護を受けている人・北朝鮮拉致被害者・中国残留邦人で永住帰国下人とその配偶者・ハンセン病療養所入所者が含まれ、その他各都道府県・市町村の賃貸住宅供給促進計画によって定められた者も加えられる(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律及び同施行規則)。


イメージ/©︎maru123rf・123RF

“郷に入っては郷に従え”とは、中国の歴史書「五灯会元」に書かれた“入郷而従郷、入俗而随俗”句の和訳で、古くは鎌倉時代から主に子ども向けの教科書として書き起こされ、明治中期まで使用された「童子教」に収められた教訓だ。

最近では、異質とするものを受け入れる際に、受け入れ側のルールに従えという使い方が主流のようだが、そもそもこの句の主体は自分自身であり、古くから中国でも日本でも、「他所に行ったらそこの風俗や慣習には従うことが生きていくうえでは必要だよ」と教えているのだ。つまり、日本国内においても所変われば品変わるのごとく、古人は他人と自分との同質性、文化の一元性などは感じておらず、多種多様な文化の共存は当然として生きていたことが分かる。現代人よりも遥かに行動範囲が狭く、閉鎖的な社会に生きていた古人の方が、グローバル社会を生きているはずの我々よりも、である。 

居住支援の本質は、日本人の誰もが多文化に寛容で、且つ多様性に富んだ感性を備えたとき、要配慮や要考慮という言葉そのものが不要になることではないだろうか。 

〜追記〜
「ナカガワのじいちゃん」ですが、先日退院して無事ご自宅に戻られました。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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