居住支援のこれから 〜本格化する高齢者と外国人入居にまつわるエトセトラ〜(2/3ページ)
南村 忠敬
2022/07/15
誰だって歳をとり、終焉を迎える
建物の賃貸管理物件では、何十年にも渡って入居者が入れ替わらない物件は希だ。しかし、借地を管理していると、借地人はその上に自分の家を持っていることが多いので、借地期間満了、更新契約を繰り返し、代替わりも珍しいことではない。従って、初回契約書には昭和や大正の年号が刻まれ、特に昭和20年代以降40年代に掛けてが多くなっているのは、戦後の住宅難やその後の高度成長期に、「土地を借りて家を建てる」選択肢もメジャーであったからだと推測する。
拙者の営む零細不動産会社にも借地の管理物件が複数存在し、借地人の高齢化が顕著だ。先代が他界され、相続人がそのまま住み続ける物件もあり、平均借地年数は50年を優に超えている(そもそも弊社では、借地の管理も別会社から引き継いでいるものが多い)。
借地の管理業務は、地代の徴収及び滞納地代の督促、借地権の売買、借地契約(土地賃貸借契約)の手続き、代理契約業務などや、ときには借地上建物の解体工事も請け負うが、建物賃貸借とは異なり、地代も半年払いか1年払いが殆どであるから、借地人に動きが無ければそうそう手間が掛かることはない。
半年ごとに借地人の住居に地代の請求書を届けて回る。大体5月中旬から下旬に掛けて一軒々ポスティングを続けているのは、土地の使用方法に変更は無いか、実際に借地人が住んでいるか、などの契約上の諸事確認を行う必要からだが、近年ではそれに加えて借地人の安否確認も重要な業務となった。それは取りも直さず、借地人の高齢化、単身化が進んでいるからだ。
5月下旬のこと。借地人の一人で、拙者が『ナカガワのじいちゃん』と呼んでいる御年95歳(おそらく)のお宅に請求書を持参したのだが、ドアの鍵も窓も施錠され、カーテンも引かれたまま、郵便受けには5日前の夕刊紙から今朝の朝刊までがギュウギュウに突っ込まれていた。「まずいな……」。
店に戻り、区役所の福祉課に連絡をと思ったが、あいにく日曜日でつながらないので、ダメもとで地域の“安心すこやかセンター”(※1)に電話を掛けると、転送された先はエリア内に在る特養(特別養護老人ホーム)の事務所につながった。対応いただいた方に事情を話すと、「お調べします」と折り返しお電話をいただいた。
結局、ナカガワのじいちゃんは、あんしんすこやかセンターの見守り対象者であるらしく、週に2回の訪問時に自宅で倒れているところを発見され、救急搬送されていたことが分かった。借地を管理しているからといって、親族でもないので入院先などは教えられないが、ご本人に何かあれば(何かって、亡くなったらってことか?)知らせますとのこと。コロナの状況もあって、入院先を知ったところで見舞にも行けないし、定期的に郵便受けの整理をして帰りを待つしかない。「今年の地代は貰えないかもな……」。
※1:あんしんすこやかセンターとは、「地域包括支援センター(介護保険法第115条の46により、市町村に置くことが出来る包括的支援事業を行う施設)」の神戸市における愛称のことで、高齢者の介護や見守りなどに関する行政の相談窓口。
一度に3社から入居申し込みが入った人気物件
弊社が所有するアパートに最近加わったのは、借地権付きの二世帯住宅をリノベーションした物件。1階と2階にそれぞれ2DKの間取りの少人数世帯向けに設えた。阪急電車の最寄り駅まで徒歩6分とまあまあの立地だったからか、入居者募集を掛けたところ、一週間で3件の申し込みをほぼ同時に受け付けたのだが、その内容にある共通点があった。3件とも外国人の家族が申込者だった。国籍はそれぞれネパール、ミャンマー、ベトナム。それぞれ日本語は何とか通じる程度の語学力は備わっており、在留資格にも違法性は無い。外国人入居の場合、家賃保証会社の加入条件に“母国の連絡先(身元引受先)”などが求められるケースも多いが、全て整っている皆さんだったので、選考には苦労した。入居して1年が経つが、ノンクレーム、ノントラブルで、ご近所の方からの苦情なども一切聞いていない。
政府はインバウンドを推奨しているが、実社会では少子高齢化に苦しむ日本の経済再生には外国人労働者に期待するという企業は増えている。日本にやってくる外国人に対して先ず必要となるのが住居であり、日本で生活する基盤となるわけだから、我々不動産業界の使命として、外国人に住居を斡旋することは至極当然の業務である。
島国特有の文化や民族性、地理的条件などが日本人の閉鎖性や排他性を育み、形成してきたとする“一般論”は、近代日本(明治維新後)の義務教育課程でも蔓延し、富国強兵、脱亜入欧、そして戦後の高度経済成長期における規格大量生産に適した人材養成のために、個人の独創性と個性そのものを封殺した当時の国家戦略によって造り出されたもの、浸透したものに過ぎない。『外国人』と聞くだけで異質と捉え、文化や生活習慣の違いが『日本人』と相いれない“見えない壁”と立ち塞がる感覚が特有のアイデンティティーだというなら、その“錯覚”こそが日本人のアイデンティティーだと言わざるを得ない。
イメージ/©︎choreograph・123RF
この記事を書いた人
第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事
大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。