「試される大地」はこれからが本番・北海道、震災の記憶遠ざかる浦安 —— 2022年公示地価
朝倉 継道
2022/03/29
写真/国土交通省リリース
3月22日、国土交通省が令和4年(2022)の地価を公示した。地価公示法に基づくいわゆる「公示地価」の発表となる。いくつかトピックを挙げていきたい。なお、公示地価とは、全国の標準地(今回は2万6000地点)における毎年1月1日時点の地価を国土交通省土地鑑定委員会が判定し、公表するものだ。国税庁による路線価、都道府県による基準地価と並び、わが国3大公的地価調査のひとつとなっている。昭和45年の開始以来、今回で53回目だ。
全体的にはコロナ禍から回復傾向
全国平均においての地価変動率は、今回、全用途・住宅地・商業地のいずれも昨年の下落から上昇に転じている。さらに、三大都市圏平均、地方圏平均についても状況は同じだ。以下に数字を示そう(左が前回=令和3年公示、右が今回)。
全国
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
全用途 | ▲0.5% | 0.6% |
住宅地 | ▲0.4% | 0.5% |
商業地 | ▲0.8% | 0.4% |
三大都市圏
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
全用途 | ▲0.7% | 0.7% |
住宅地 | ▲0.6% | 0.5% |
商業地 | ▲1.3% | 0.7% |
地方圏
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
全用途 | ▲0.3% | 0.5% |
住宅地 | ▲0.3% | 0.5% |
商業地 | ▲0.5% | 0.2% |
このとおり、新型コロナウイルスによる「コロナ禍」によって生じた前回の下落ショックからの回復傾向が、全体的にはうかがえるといったところだ。
地方圏での二極化
次に、全体的な傾向に隠れたある特徴的な動きを見ていきたい。それは、地方圏の数字の裏で生じている顕著な二極化だ(左が前回=令和3年公示、右が今回)。
地方圏のうち「地方四市」(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
全用途 | 2.9% | 5.8% |
住宅地 | 2.7% | 5.8% |
商業地 | 3.1% | 5.7% |
地方圏のうち「その他」
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
全用途 | ▲0.6% | ▲0.1% |
住宅地 | ▲0.6% | ▲0.1% |
商業地 | ▲0.9% | ▲0.5% |
このとおり、同じ地方圏にあっても、四市とその他の地域では差が著しい。各地方において拠点となる大都市へのさまざまな集中が進行中であることを如実に示す数字といっていいだろう。
なお、上記四市それぞれの数字(住宅地、商業地)を挙げると以下のとおりとなる。札幌の住宅地、福岡の商業地が、その好調さにおいて際立っている(左が前回=令和3年公示、右が今回)。
住宅地
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
札幌 | 4.3% | 9.3% |
仙台 | 2.0% | 4.4% |
広島 | 0.4% | 1.4% |
福岡 | 3.3% | 6.1% |
商業地
令和3年公示(前回) | 令和4年公示(今回) | |
札幌 | 2.9% | 5.8% |
仙台 | 2.8% | 4.2% |
広島 | ▲0.4% | 2.6% |
福岡 | 6.6% | 9.4% |
今後が試される札幌圏一極集中
さて、そんな四市も差し置き、今回の公示地価においてもっとも目立つ数字を示しているのが北海道の北広島市となる。札幌市に隣接する人口約5万8千人の町だ。住宅地では上昇率上位10位までのうち1~3位および5~7位、および9位もこの町が占めている。さらには商業地でも1位と2位を占めるといった圧倒ぶりだ。
要因としてもっとも大きいのがこの町に来年開業予定のボールパークとなる。大型開発が周辺地価を上昇させる典型的なケースといってよい。
もっとも、それだけでなく、上記住宅地でのTOP10においては北広島市が占める以外の順位もすべて札幌に隣接する町が埋めている。北海道全体としての人口減少が著しいなかでの札幌圏への激しい集中が示される結果となっている。
参考までに、国勢調査による人口集計結果を挙げておこう。北海道は九州と中国地方を合わせたよりもはるかに広いが、現在、その全体の人口に占める札幌市の人口は約38%にのぼっている。北海道民の3人に1人は必ず札幌市民となる計算だ。
北海道全体
令和2年調査 | 522万4614人(前回より15万7119人減) |
平成27年調査 | 538万1733人 |
札幌市
令和2年調査 | 197万3395人(前回より2万1千39人増) |
平成27年調査 | 195万2356人 |
なお、札幌といえば、現在新幹線の建設工事が2030年度末の開業を目指して進められている。そのとおりの時期となるのかは予断を許さないが、広大な面積にわたる過疎化のなかに人口もインフラも極度に集中した国内異形の都市を抱えることになる北海道の将来は、いろいろな意味で興味深いものとなるだろう。
震災の記憶は遠くへ? 浦安の好調
東京圏の住宅地で上昇率1位(7.7%)となっているのが、千葉県浦安市高洲3丁目の標準地だ。さらに6位(6.2%)にも浦安市今川1丁目の名前が見えている。
これらの地区は、11年前の東日本大震災の際、地盤の液状化被害が多く見られた浦安市海岸沿いの埋立地に当たっている。東京都心とのアクセスの良さなどから本来利便性は高かったものの、震災以降振るわなかった地価が、その分目立つかたちで上がってきているものと見られている。
結果、他の地点も併せて浦安市における住宅地の上昇率は今回3.3%となった。前回の0.6%から大きく数字を伸ばし、千葉県内トップとなっている。
こうした浦安の好調は、「もう海に近いところには住めない。ましてや埋め立て地など」と、声を上げる人があちこちに見られた震災時の記憶が、そろそろ遠ざかりつつある例のひとつともいえるだろう。
東京圏工業地の上位は千葉県が席巻
その浦安のある千葉県だが、東京圏の工業地の変動率上位10位までのうち、1~7位および9位を占めるという好調ぶりを見せている。なお、このうち1~5位までを市川市と船橋市の標準地が占めている。
理由は何か。答えについては、「特徴的な地価動向が見られた各地点の状況」として、国交省がコメントを添えているので以下に紹介しよう。カギとなっているのは、コロナ禍以降とりわけ動きの顕著な「物流」だ。
「消費地東京に近接する千葉県湾岸地域の工業地では、高速道路を使用せず都内にアクセスできる接近性の良好さから物流適地に対する需要が旺盛であり、東京都内との相対的割安感もあり引き合いが強く、物流適地に対する投資需要も旺盛であることから、地価の上昇が継続している」
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。