「回避性愛着スタイル」の人との関係づくり――離婚を回避したエヴァンゲリオン好きの夫婦
北 淑+Kanausha Picks
2022/03/12
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人との結びつきが「面倒くさい」と感じてしまう
前回は「回避型愛着スタイル」を持つカップルが選んだ、別居婚のお話を紹介しました。
少しおさらいすると「回避型愛着スタイル」とは、他人との親密な関係や継続的な責任を避けるということからその名が付けられました。
それは単に社交的でないという意味ではなく、あらゆる情緒的な結びつきが「面倒くさい」と感じてしまう人たちです。人前で本音を言ったり、困っていることを言いたがりません。そのため差し障りのない言葉で済ませて、人との関係に深い入りしないように、いつも気をつかっています。
その情緒的な結びつきが「面倒くさい」と感じる要因は諸説ありますが、幼児期に母親から引き離されたり、放って置かれたりしたこと。母親自身の愛着スタイル不安定であったりしたことが、原因ではないかというのが有力な説です。
「私はいつも子どもと一緒よ」というお母さんでも、赤ん坊を抱っこしながらも常にスマホを見ていたり、子どもが泣きだすと、その解決方法をネットで探してから、ようやく子どもも抱きかかえるなど、自覚はないけど問題のある子育てが行われていたりするケースが、最近はとても増えています。
ただ、人と情緒的な結びつきを避ける回避性愛着スタイルは、仕事においては、むしろ有利に働くことも多く、悠然と合理的に仕事を進めていくタイプとして評価されることも少なくありません。
『新世紀エヴァンゲリオン』が社会現象になった背景にあったもの
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バブル経済が終わった1995年にアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』がテレビで放映され、一世を風靡しました。また、2021年3月には『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開され、11日に行われた第45回日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞を受賞しました。
このアニメは近未来(放送当時は西暦2015年)に、人類の存在を脅かす謎の脅威「使徒」が襲ってきて、14歳の主人公、碇シンジが人型決戦兵器エヴァンゲリオンを操縦し、戦うというストーリーです。こうしたストーリーはもとより、主人公の心動き、それを取り巻く人たちとの関係性も丹念に描かれ、その人気は社会現象ともなりました。
その主人公の碇シンジは、家族の愛を知らずに育ち、他人との関係をうまく築けない、自分の殻に閉じこもった少年でした。やがて戦いを通じて成長し、勇敢にみんなを引っ張っていく主人公、それを成長させようとするヒロインに共感する人が多かったのではないかと思います。
エヴァンゲリオンの特徴は、これまでの明るく人懐っこい主人公とは真逆で、人との情緒的なつながりが苦手で、屈折した弱さをたびたび口にする、典型的な回避性愛着スタイルの特徴を持つ主人公だったことです。こうしたことが共感されたのか、ちょうどこの時代あたりから回避性愛着スタイルは、一つの生き方として認知、受け入れられはじめたように感じます。
価値観を十分知り尽くした上での結婚だったはずが…
今回は、そんな『新世紀エヴァンゲリオン』のファンだったことがきっかけで知り合い、結婚した建築士の夫とプログラマーの妻というカップルのお話をご紹介します。
2人は知り合って6年の遠距離恋愛を経て結婚しました。お互いの好みや価値観を十分、知り尽くしたうえでの結婚だと思っていたと言います。
しかし、結婚から半年が過ぎて、些細な言い争いや口論が絶えず、このままでは結婚生活が破綻してしまうと心配になった夫がカウンセリングに訪れました。
建築士の夫は仕事柄、住まいのインテリアにこだわりがありました。夫の暮らしの基準は、いつ友人が遊びに来てもいい暮らし。きれいに収納されたキッチンや温かみのあるリビング。トイレや洗面所にも気を配ります。
ところが、妻の本音はそんなことに興味がないだけでなく、できればプライベートな空間である自宅に他人に来てほしくないというものでした。
また、コロナ禍になり在宅ワークになってからは、妻はダイニングキッチンで仕事をするようになりました。そのためテーブルにはいつも携帯の充電器やマウス、LANケーブルが無造作に置かれ、書類は山積みと、さながら一昔前の乱雑な事務所のようになってしました。いざ食事となると、それら書類やPCは脇に追いやって食器を並べるといった状態でした。
もちろん、夫はそんな状態が我慢できません。何度も「ダイニングテーブルに仕事のものを置かないで」と妻に言っては、ため息をつく毎日でした。そもそも夫は、「女性は誰でも家庭的に美しく暮らしたがるもの」だと思っていたといいます。
一方の妻は、休日はほとんど家から一歩も出ずに、ジャンクフードを床に並べて8時間もゲームに没頭。そんな妻の姿に夫は驚愕します。
遠距離恋愛だったせいか、夫はそういった妻の生活スタイルを知らず、結婚して2人で暮らしはじめて、そのことを知りました。夫は結婚直後から言葉にできない何かが、大きく違っていることに気がついたというのです。
まずは相手の居場所を作ることからはじめる
回避性愛着スタイルの人のすべてに当てはまるわけではありませんが、この妻のように住まいに家庭的な温かみを嫌う人は少なくありません。
逆にモノを置かず徹底的に片づけるタイプの人もいますが、家庭的な雰囲気を嫌ったり、関心がなかったりという点では共通しているかも知れません。
また、回避性愛着スタイルの人は、とりわけ親族の付き合いや配偶者の友人との付き合いがおっくうで、そういった人に悪く思われていないか、いつまでも気にしてしまうところあります。
カウンセリングでは、夫に回避性愛着スタイルの特徴について話をすると、妻と合致する点が多いことに驚いたようです。その回避性愛着スタイルの典型な特徴は、以下のようになります。
1)人から非難や拒絶されることが恐怖のあまり、重要な対人接触や職業的活動をさける——営業や接客、電話応対が苦手、就職活動にも尻込みしがちです
2)相手から気に入られているという確認がなければ、人と関わりたくない——就職活動などでも、先方から「君に会いたいから」「一度事務所に来てみて」といわれると、やっと面接に行ける
3)恥をかいたり、嘲笑されることが、とてつもなくつらいために親しいなかでも遠慮がち——相手に好意があっても、自分から絶対に頼み事などを言い出せない
4)自分に自信がないため「劣っている」「長所なんて一つもない」と心底思っている
5)責任を背負いたくない——結婚や子どもを持つことの責任を大きくとらえて避けたがる
この夫婦のケースでは、このままでは離婚になる可能性があると思った夫は、2人の関係を回復する方法はなかとたずねます。
そこで次のような提案をしました。
・予算が許せば、周囲から見えないスペースに妻の仕事場を作ること
・そこは妻が落ち着くようなゴチャゴチャにした空間にして干渉しない
・その他の部屋のインテリアは、雑誌などを参考に、家庭的すぎず殺風景でもないホテルライクなイメージを目指して、お互いの好みを取り入れる
さらに回避性愛着スタイルは、行き当たりバッタリを嫌う傾向があるため、親族や夫の友人を会う頻度、つき合いの範囲を決めておき、可能であれば年間予定表などを作るといった対応策について話しました。
この夫婦では上記のような対応策をとりましたが、一般的な対策としては、次のようなものがあげられます。
1)口論や喧嘩をしないこと——口論や議論が大の苦手ですから、何かあったら、笑顔でやんわりお願いしましょう
2)行き当たりばったりに行動をしない——ちょっとした家族旅行でも、3か月以上前から計画を立てること。そして、それが楽しく過ごせたり、無難にこなせたなら、次の年も同じ頃に似たようなことを提案してみるとよい。「毎年**の頃に~をしている」という暮らしが大好きなのです
3)既成事実を積み重ねる——慣れたことを続けるのが好きなうえに、既成事実ができてしまうと、今度はそれを変えたくないというのが特徴です
また、責任からは本当逃げたいというのが本音ですから、結婚では、まずは通い婚から始めて一緒にいる時間を少しずつ増やす。子づくりでも、「これまでの延長」という意識を持たせてゴールインすることが良い関係づくりに欠かせません。
結果的にこの夫婦の場合は、提案した解決策によって、すぐには劇的に夫婦関係が変化したということはありませんでした。しかし、その半年後にお会いしたとき、夫はこう話をされました。
「これまで妻は外出して家に帰ってきても、『ただいま』と言ったことがなかったんです。だいたい『あっ居たの?』という感じでね。それが最近『た、ただいま』と言うのです。自分の家って思えるようになったってことかなって、ちょっと思っているんです。今はそれでいいかなって……」
エヴァンゲリオンの好きな方なら、お気づきかもしれません。
自分の居場所をみつけたれなかった主人公の碇シンジが、初めて自分から「ここにいたい」という意思を相手に伝えたときの言葉、それが——「た、だだいま」で、印象的なセリフとされていました。
一昔前なら、結婚後、半年の間に口論や喧嘩をするのは当たり前でしょう。しかし、時代が作り出したとも言えるこの現代病「回避型愛着スタイル」は、口論をし続けても何も解決しないどころか、ただ破綻に向かうだけなのです。
口論や喧嘩で互いが分かり合える関係となるのは、愛着という心の安全基地がベースあって、はじめて成り立つものなのです。夫婦や恋人といえども、このタイプの人ととは、そうした関係づくりが必要です。
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この記事を書いた人
公認心理師 博士(医学)
大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。