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テレワークによって仕事と子育てが両立できない女性たち①――課題に全力投球という価値観を変えさせたもの(1/2ページ)

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イメージ/©︎westphoto・123RF

働く女性の育児や出産後の休みを規定した男女雇用機会均等法がスタートして、すでに35年が経ちました。

法律が成立した当初は、女性が出産して職場に復帰するなんて、夢のまた夢という時代だったと思います。しかし、制度が定着していくなかで、産休、育休、短時間勤務と女性が子育てをしながら働くための制度が次々とつくられ、最近では妊活費用や婚活サイトの入会金に補助金をだす会社まで現れてきました。

そこに新型コロナによって在宅勤務が推奨され、家で子育てをしながら働く、テレワークを導入する会社が一気に増え、自宅にいながら仕事と子育てを両立するという待望の働き方が広がりました。もちろん、製造業やサービス業での在宅は難しいですが、事務や営業職が在宅で仕事ができる時代になったのは画期的です。

とはいっても、このことで女性が働く障壁が取り払われたと喜んでいる方は、どれくらいいるでしょうか。制度がいくらできても、働く環境が変わっても、むしろ両立が難しくなったと感じている女性も少なくないのではないかと思います。

アフターコロナがどうなるかに注目が集まっていますが、テレワークと子育てという、降って湧いたような壮大な労働実験から、働くということ、子どもを育てることを見つめ直した女性を取り上げます。

目の前の課題に全力投球――トップクラスのセールス女性

会社を辞める前に、一度、話を聞いてもらいたいとして、プライベート・カウンセリングを申し込んできたA子さん。

社長賞を2度も受賞する営業成績は常にトップクラスのセールスレディです。見た目は大人しく目立たないタイプですが、第一印象でその手腕がなかなかのもののように感じました。実際、カウンセリングで話していると、なんとも言えない安定感が伝わってきます。着こなしたブランドもののジャケットと、使い込んだシステム手帳に仕事への向き合い方が現れているように思えます。

しかし、彼女自身は「扱っている商材が女性をターゲットにした室内装飾品で、本物志向の女性のこだわりや好みを掴み、商談に持ち込むタイミングがたまたま良かっただけ」と謙遜します。

A子さんは37歳で結婚、39歳で出産して、今、4歳の男の子が一人います。3歳年下の夫も同じ業界で仕事をしていますが、新型コロナで在宅勤務が始まるまで夫よりも帰宅時間が遅くなることがしばしば、夫の協力なしではここまで業績を上げることはできなかったと振り返ります。

出産後わずか3カ月で復職したA子さんは、新ブランドの立ち上げと店舗拡充のまっただ中で、仕事を終えて帰宅すると、すでに子どもは寝ていることも少なくありませんでした。ただ、その分、休日は何もかも忘れて子どもと一緒に遊ぶ、といったパワフルな生活がコロナ禍前のA子さんの日常でした。

保育園の帰り道での子どもの一言

A子さんは、仕事が一番、家庭が二番と優先度を決めていたというよりも、どちらかというと、目の前にいる人の要求に全力で応えようとする心理が働きやすい人だと思います。

そんなA子さん、在宅勤務よって子どもと過ごす時間が増えると、これまでの価値観がガラリと変わったと話します。

「在宅勤務になったとき、保育園も休園になりました。最初は子どものことで気が散ったり、昼ご飯の準備もしなければならないって大変かなと思ったんです。でも、子どもがまだ寝ている早朝から仕事をはじめ、夕方に仕事を終わらせてから、子どもとゆっくり夕食を食べる時間ができました。間もなく保育園が開園され、夕方、子ども迎えにいくと、私に余裕があると分かるんでしょうか、以前よりも保育園のことをたくさん話してくれるようになりました。

ある日の帰り道、子どもが私の影を見て、夏はこんなに小さかったけど、今は、こんなに長いねと、両手を広げて説明してくれたんです。そして、僕は長い影のほうが好きだというんです。その言葉を聞いてハッとした瞬間、つないでいた小さな手の温かさに初めて気が付いた自分がいたんです」

と話すA子さん。そして、

「保育園のお迎えの時間に、夫とLINEでどちらかが迎えに行けそうか必死でやりとりしながら仕事をしてきました。でも、今は企画書を書くことに意味を見いだせてなくなって……」

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この記事を書いた人

公認心理師 博士(医学)

大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。

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