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今とその先の“安⼼”のために何をすべきか?

3人に1人が高齢者の時代 逼迫する身元保証問題

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取材・⽂/佐藤 美⽉ イメージ/©︎chai89・123RF

総務省が出した2021年の統計によると、我が国の総⼈⼝に占める65歳以上の⾼齢者⼈⼝は29.1%と過去最⾼を記録したことが分かった。この割合は今後も上昇を続け、20年後には35.3%に及ぶと⾒込まれている。この超⾼齢社会で急務なのが、⾝寄りのいない⾼齢者に対する⽀援である。⼊院や介護施設、賃貸住宅への⼊居など、⾼齢者の⽣活を⽀える必要不可⽋な局⾯に際し、これまでは家族が⾝元保証⼈の役割を担ってきた。⾮婚や出⽣率などがこのまま推移すれば、⾝寄りのない⾼齢者は、40年には⾼齢者全体の4分の1に相当する1000万⼈以上に達すると推計されている。そうした⾼齢者の悩みに応える都⺠シルバーサポートセンター専務理事の⼤⻄統さんに、そのサポートの実態を聞いた。

◆◆◆

⾏政任せでは不可能⼊居者の住み替えも

——都⺠シルバーサポートセンターの活動内容はどういったものでしょうか。

⽇々の⽣活に根差した⾒守りや介護、⽣活資⾦の捻出、相続のための遺⾔や相続税対策、資産承継、認知症発症、財産管理、終の棲家など、⾼齢者の⽅が直⾯するお悩みは多岐にわたります。弁護⼠や司法書⼠といった専⾨家への相談が必要になる場合も多く、問題が複雑に絡み合い、どこに相談したらいいのか分からず途⽅に暮れる⽅も少なくありません。当団体では、そうした⾼齢者のさまざまなお悩みを、各専⾨家と連携し1つの窓⼝で対応することが可能です。こうした活動は、ご相談者の状態によってはスピード感のある対応を求められることも多く、各分野とワンストップで連携を取ることが必要になるため、⾏政の対応には限界があるのです。

10年ほど前に⽴ち上がった⼀般社団法⼈から始まり、より⼠業や関連団体・企業と連携し多くの⾼齢者のお悩みを解決したいという思いから、東京都の認可を受け、昨年の4⽉1⽇にNPO法⼈として活動を開始しました。お陰様で多くの⼠業の方や関連企業様からの会員費や寄付⾦により、持続可能な団体運営ができており、今では毎⽉10件ほどのご相談をいただいております。現在そうした公的な機関では、対応が難しい問題のスキマを埋めるべく、少しずつ⾏政との連携も強め、より多くの⾼齢者の相談窓⼝となるよう活動しています。


出典/都民シルバーサポートセンター「ご相談事例」を基に編集部にて作成

——賃貸住宅オーナーとしてサポートを活⽤する場合は、どのようなケースが考えられますか。

オーナー様にとっては、相続⽀援や認知症発症への対策、所有物件における⾼齢⼊居者に対する住み替え⽀援が⾝近なところにあるのではないでしょうか。厚⽣労働省の20年時点の発表では、⾼齢者の4⼈に1⼈が認知症またはその予備軍と推計されています。すでに認知症を発症されている場合でも、当団体と連携している⾼齢者対応に⻑けた⼠業に依頼し、その⼠業が後⾒⼈となって財産管理や⾝上監護をすることが可能です。あるいは、認知症の発症前にとれる対策として、家族信託の提案をすることもあります。

相続において、遺⾔を作成することも対策の⼀つです。遺⾔作成をしないことにより、親族間でトラブルになるケースをよくみかけます。例えば、⼦どもがいない夫婦の場合です。

夫か妻のどちらかが亡くなった際、配偶者と親が相続⼈となり遺産分割をしますが、親はすでに他界していることがほとんどです。そうなると、配偶者と兄弟姉妹が相続⼈になります。兄弟姉妹も他界していた場合、その兄弟姉妹の⼦ども、つまり甥や姪が相続⼈になるのです。

こうしたケースでは、遺産分割協議をしても意⾒を円滑にまとめることは難しくなってきます。そこで、あらかじめ遺⾔としてお互いの配偶者に全財産を相続する旨を遺しておくことで、遺産分割や親族トラブルを起こさずに相続することが可能になります。特に不動産を所有している⽅は、遺⾔を作成しないまま相続を迎えると、相続⼈の間で意⾒がまとまらないために相続登記ができず、空き家になってしまっていることも多いのです。遺⾔は、そうした空き家への予防にもなります。

また、賃貸経営にかかわる部分では、⾼齢⼊居者の介護施設への住み替え⽀援があります。私がお付き合いのある管理会社の⽅から、⼊居者の⾼齢化によるオーナー様の悩みが深刻であるという話は聞いていました。賃貸に住む⾼齢者には、⽣活困窮に陥っている⽅も多くいらっしゃいます。

当団体では、⽣活困窮者の受け⼊れ可能な施設との提携が強い介護施設紹介会社とも連携しています。住み替えを検討するご相談者と⼀度⾯談をしたうえで、その⽅の予算や体調に合わせ、どこの介護施設がいいのか総合的に判断、コーディネートすることが可能です。実際に何軒か施設を⾒ていただいて、気に⼊ったところに住み替えをしていただきます。また、住み替えに伴うご家族との情報共有や、⾝寄りがいない⽅の⾝元保証などもサポートしています。


NPO法人 都民シルバーサポートセンター専務理事 大西 統さん

これらの多岐にわたる⽀援の主な流れとしては、電話やインターネットでご連絡いただいた後、相談内容に応じてご相談者と⾯談を⾏うというかたちがほとんどです。この⾯談で⼠業の⽅に同席していただく場合もありますが、すべて無料で⾯談を⾏っています。サポートが必要な場合はそこから実際の対応に⼊ります。当団体名に「都⺠」とありますが、実際には東京都寄りの1都3県でサポートを⾏っています。

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今後も深刻な問題 ⾼齢者の⾝元保証

——⾼齢者が直⾯する、とくに深刻な問題とはどういったものでしょうか。

⾼齢者を取り巻く現状のなかでもとくに根深いと感じているのが、単⾝で⾝寄りのない⽅からのご相談です。総務省が公表した20年の国勢調査で、65歳以上の⽅の5⼈に1⼈が一⼈暮らしをされているという実態が浮き彫りになりました。⼊院や⾼齢者施設、賃貸住宅への⼊居など、⽣活におけるさまざまな局⾯において、緊急連絡先を担う⾝元保証⼈が必要になります。⾝元保証⼈は、緊急時の対応から死亡時の⾝元引き受けや債務保証を担う重要な存在です。これまでは家族がそれを担うことが⼀般的でした。しかし、少⼦化や核家族化が進⾏するなか、⼦や兄弟姉妹、親戚を頼ることのできない⾼齢者が増加しており、⾝元保証⼈を確保できないことで賃貸住宅への⼊居や⼊院を断られるなどといった事態が相次いでいます。こうした⽅に向けて、当団体では⾝元保証の対応を⾏っています。⾝元保証に加え⽣活サポートをお任せいただくことで、毎⽉の定期訪問により、ヘルパー的な役割や、ご相談者のお体の様⼦を⾒ながら、主治医やケアマネジャーと連携をとるという役割も果たしています。


出典/日本総合研究所「超高齢社会における身元保証の現状と課題」を基に編集部にて作成

また、⾝寄りがいないことで、⾃⾝が亡くなったときの不安を抱えている⽅のご相談も多く寄せられます。相続⼈がいないため、財産をどうするのか、⽕葬や葬儀、埋葬は誰が⾏うのか、飼っているペットはどうなるのか……。こうした死後対応についても、サポートを⾏っています。

私が担当した例だと、単⾝の男性で全く⾝寄りがなく(相続⼈がいない)、さらに猫を飼っているという⽅からのご相談がありました。がんによる余命宣告を受けたことで、⾃分の死後についての不安をケアマネジャーに打ち明け、当団体に相談することになったのです。相続⼈がいない場合、何もしなければ、残された遺産は国に帰属することになります。

その男性は遺産を動物愛護団体に寄付したいということでしたので、遺⾔によって心配されていたペットを含めた死後対応や希望する寄付を叶えることができました。遺⾔執⾏者を当団体に指定していただくことで、我々が代理⼈としてご相談者の遺⾔内容を実現させることができます。

まもなくして、その⽅が亡くなったという連絡を受け、すぐに現地に⾏って死亡確認をし、葬儀屋の⼿配、⽕葬と納⾻を⾏い、飼っていた猫もその当⽇にNPO法⼈の団体に預かっていただきました。納⾻先のお寺の住職とは⽣前に打ち合わせをしていたため、スムーズに納⾻ができ、三回忌まで法要した後、最終的に永代供養をして墓じまいをしたのが21年9⽉末のことです。

こうした単⾝で⾝寄りがいないことによる⾝元保証や死後対応の問題は、これからますます増えていくでしょう。今後、主にそうした⽅々へのサポートを厚く⾏っていきたいと考えています。

終わりの準備でなく受け継ぐための⽀援

——亡くなってからその数年先まで⽀援は続くのですね。

我々は“今とその先のありがとうへ”という⾔葉を理念として掲げています。今ご健在でサポートさせていただいている⽅だけでなく、亡くなった後もサポートをし、その安⼼から聞こえてくる“ありがとう”を⼤切にしているのです。

当団体のスタッフは、もともとケアマネジャーやヘルパーをしていた⽅など、福祉に携わっていた⽅が多く在籍しています。⾼齢者の⽅との会話や、体調の変化から発せられるシグナルを受け取るには、そうした経験を⻑年積んだベテランが持つ⼒が必要になります。福祉の世界で⾼齢者の⽅の深いお悩みを肌で感じた経験があるからこそ、理念を⼤切にする熱い思いをもって活動しているという点は、当団体の特徴の⼀つかもしれません。

——終活は踏み出すのに少しハードルが⾼いイメージですが、始めてみるきっかけになりそうですね。

この先は、例えば、ゴミ捨てや家の⽚付けといったような、地域密着型で⾼齢者の⽅々の⽣活に根差したサポートをしていきたいと考えています。いまだ「終活」という⾔葉は後ろ向きなイメージとなっていることから、⽇々の⽣活のなかに我々のサポートがあり、その延⻑線上に終活があるようなイメージだといいのかもしれませんね。

10年ほど前、終活とともに“エンディングノート”という⾔葉の認知が⼀気に広がりましたが、“エンディング”という⾔葉も少し後ろ向きなイメージを思い起こさせるかもしれません。当団体では、“⼤切な想いを次世代につなぐ”、そして、それをサポートするという意味を持った「継ぐサポノート」という名前で提供しています。

そのノートの中⾝は、相続に関することや認知症を発症した際の財産管理についてはもちろんのこと、⾃⾝の住所や連絡先などの基本情報に始まり、趣味や好きなもの、パソコンや携帯電話の処分について、⾎液型などの⾝体に関する情報、延命治療や余命宣告、臓器提供についての意思、ペットの情報、葬儀やお墓についての要望、もしものときに連絡してほしい先や資産についての情報などが記しておけるようになっています。

終活というと、相続や財産についてばかりを取り上げがちですが、“後に遺していく⼈へ思いをつないでいく”ということが⼤切なんです。葬儀の予算ひとつとってみても、しっかりと思いが受け継がれていれば、後に遺された⼈たちが悩むことは少ないでしょう。


都民シルバーサポートセンターのホームページ。高齢者の想いを次世代につなぐサポートを行っている

⾼齢化が進んでいく状況のなか、オーナー様にとってもさまざまな側⾯で不安や孤独を感じることがあると思いますが、⼿を差し伸べてくれる⼈はたくさんいるということを伝えたいです。それは我々のような団体だけでなく、家族の存在が⾮常に⼤きいと思います。

「継ぐサポノート」により家族が集まり、この先について話し合うきっかけになればとても嬉しいです。⼀⼈で悩まず、⾃分の⾔葉で思いを伝えていっていただきたいと切に願います。

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この記事を書いた人

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