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タワマンが建ち並ぶ「豊洲」で勃発 裁判沙汰にまでなった町会内紛劇

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東京湾岸に広がる「豊洲」/©︎OGW417Studio 

加入戸数3500戸、町会費残高3000万円超のマンモス町会

築地市場の豊洲移転を巡って、土壌汚染や小池百合子東京都知事の移転の一時休止で話題になった豊洲。一方で、タワマンが建ち並ぶ東京湾岸のベイサイドエリアの住みたい街としても人気があり、週末にはショッピングモールや屋外バーベキュー施設などに多くの人が訪れる。

そんな人気スポットの豊洲の町会で起こった内紛が訴訟合戦にまで発展。このご町内バトルが21年年末から22年年始に佳境を迎えようとしている。

豊洲町会は加入戸数が往時は約3500戸、町会の現金預金の残高は3000万円以上あったという日本最大級の自治会といえるだろう。2020年来、そんなマンモス町会の住民同士が町会運営のあり方をめぐって対立。町会長を被告として、町会の運営や規則、人事、会計監査などについて住民が訴えた訴訟は仮処分案件も含めて合計3本にもおよぶ。

タワマン、マンモスマンションの開発で豊洲町会は肥大化したが、そこで暮らす豊洲の住民たちの町会に対する関心は低く、これは昔から豊洲に住む旧住民、開発が進み新しく豊洲に越してきた新住民も、内部の事情を知る人は少ないが、対立はエスカレートしているようだ。

元は造船とエネルギー産業の集積地だったやんちゃな町

豊洲という場所は、大正時代に工業用地として埋め立てによってできたところ。豊洲と一口に言っても、豊洲1丁目から6丁目まである。1980年代後半からはじまったウォーターフロントの開発以前、豊洲1丁目は倉庫とIHI(旧商号・石川島播磨重工業)の寮や体育館、2、3丁目はIHIの工場、4丁目はIHIの社宅、日新製糖などの工場や倉庫、5丁目はいすゞ(旧東京いすゞ)、6丁目は東京電力火力発電所、東京ガス豊洲工場のほか、ガスふ頭、鉄鋼ふ頭、電力ふ頭、石炭ふ頭といったふ頭が並んでいた。

タワマンが建ち並ぶ現在の豊洲からは考えられないだろうが、つい40年ほど前の昭和の時代は豊洲4丁目交差点付近にあった9階建ての深川消防署豊洲出張所の屋上から、付近一体を一望できる工場地帯だった。そして、100年前からこの豊洲に人々が多く住んでいたのは4丁目だけだった。多くの場合、町会というと1丁目、2丁目と分かれていることが多いが、豊洲の町会は各丁目で分離することなく、1丁目から6丁目までのすべてが豊洲町会のエリアになっている。


タワマンの多い豊洲にあって昔ながらの雰囲気を残す豊洲4丁目/©︎OGW417Studio 

町会内の意外な対立の構図

これまで町会で活動している人々は、江戸三大祭りの富岡八幡宮(江東区門前仲町)の「水かけ祭り(深川祭)」など豊洲の神輿行事を取り仕切る睦会の関係者が目立っていた。とはいっても、マンションに住む新住民も神輿を担ぐのが大好きな人が意外なほど多く、新旧住民にさほどの対立はなかった。

豊洲のマンモス町会の起源は、豊洲4丁目にあったIHIの社宅といわれ、70年以上の歴史があり、裕福な町会だ。しかも、今後も豊洲の開発が見込まれることから、町会の主導権を握りたいと思う人が出てこないほうがおかしいと言えただろう。

というのも、高度成長再来のような都市膨張が続く豊洲の町会長の耳には、区役所などからの開発情報なども入るのだという。

一方、4丁目以外のタワマンやオフィスビル、商業施設に変貌しているエリアでは、豊洲町会に入りたがらない傾向もある。これは4丁目の濃い人間関係から、距離を置こうとしているのかもしれない。

豊洲の本格的なマンション開発の先駆けはマンション名に「豊洲」ではなく「東京」の名を冠した4丁目にある複数の巨大マンションで、ここの住民からは複数の江東区議が出るほどのパワーがある。

しかし、町会内の対立はやや「意外」な構図になっていく。

新しい町での内紛というと、旧住民と新住民が対立し、軋轢が生まれるというようなイメージがあるが、豊洲も最初の「改革」ではこの例に漏れず、19年の選挙では、新住民の現会長が選出され、現体制になった。傍目からはマンションに住む新住民側が結束して、町会長を担う旧住民側からトップを奪取したかのように見えた。しかし、時間が経つにつれその状況が変わってくる。内紛が表面化し、訴訟沙汰になり、徐々に“旧住民vs.新住民”という単純な対立構図ではなくなっていった。

町会の決議は、多くの場合、委任状によって行われる。大規模マンションや昔から住む住民も町会活動には無関心な人が多く、むしろ関心の高い人は少数派。つまり、執行部は無関心な住民の委任状の力をバックに、反対派を押し切って決議できるという構図になる。

もちろん、見方はそれぞれで、これを独断専行とするか、優れたリーダーシップなのかは見方が分かれるところだろう。

町に関心を持ち始めた「キャナリーゼ」たち

豊洲町会もこうした委任状による運営がなされてきたが、新住民らが実権を握ってからもこの構図に変化はなかった。しかし、これにストップをかける人たちがいた。

10年ほど前、運河のある豊洲に住み、豊洲のショッピングモールを闊歩する20~30代の女性たちは「キャナリーゼ」と呼ばれ、たびたび女性誌などで取り上げられた。この当時の彼女たちは、町会活動に無関心な人が多かったが、時が経ち自分の住む町に関心を向けはじめた。このキャナリーゼたちも町会運営に疑問を持ち、異議を唱え、旧住民とともに声を上げはじめたのである。


豊洲町会の文書

具体的には、現在の町会長と対峙する事に転じた元会計監査の担当らが、総会において会則の改定などの議案について、きちんとした扱いがなされていない等の異議を唱えた。しかし、現町長派に押し切られてしまう。

そこで反対派はこの議決を「無効」として、監査担当者の罷免の取り消しや従来の会則に沿った町会運営(選挙や会計監査の実施)を求め裁判所に仮処分等(本訴もあり)を求めた。裁判所ではほぼ申請の通り仮処分決定がなされ、現在は本訴が進んでいる。

この「原告」となったのが旧住民と町会の運営に疑問持つ新住民たちで、いわば新改革派住民たちである。そして、新改革派住民は「豊洲町会を考える会(以下、考える会)」を立ち上げ、現町会長と対峙、裁判でも勝ってきた。

一方、現町会長派もこれを不服として、町会長が仮処分決定に異議申立てを訴えが、この仮処分異議申立ては退けられ、訴訟においては考える会のワンサイドゲームに近くなってきた。

マンモス町会の分裂――その原因とはいったいなんだったのか?

この裁判の勝利に勢いを得た考える会は「裁判所の判断に沿った会長改選選挙を」とさらに要求する。こうしたなかで、現町会長派は、どんでん返しの手を打つ。

11月7日に開かれた豊洲町会の臨時総会に町会長側の弁護士を同席させたうえで、裁判で「連敗」したはずの現町会長派が、町会運営に無関心な人の委任状を集めた成果なのか、「町会長は役員の互選で決まり選挙はしない、役員数は不定数、監査の外部発注による会計監査機能の変更」といった町会会則などの変更を形式上は決議してしまった。

そこで11月27日、考える会は「豊洲地区自治会」(第二町会)の設立のための第3回の設立会議を開催。この豊洲地区自治会には豊洲町会から排除されている都営住宅の住民もメンバーの中心にいる。

来春発足予定の豊洲地区自治会に集まったメンバーは新住民ばかりでなく、旧住民や都営住宅に住む高齢世帯、豊洲の道端の花壇を毎日世話するボランティアなど新旧関係なく多彩な住民が参加している。そして、豊洲地区自治会では21年12月から豊洲地区自治会の会員集めに動き出している。

とはいえ、問題もある。

現在、豊洲町会にマンションが丸ごと入っている大型物件のなかには、個人単位で「豊洲地区自治会」(月額200円)に加入すると、マンションの管理費から豊洲町会に一戸あたり月額300円の町会費が払われているため、町会費の二重払いになってしまう。個別に豊洲町会を抜けようにも、マンションの管理組合の規定で抜けられないのだ。

もちろん、豊洲町会に積み上げてきた3000万円以上の町会費はそのままで新しい豊洲地区自治会に引き継ぎ、あるいは分配される可能性はいまのところない。また、「公明正大な選挙で自治会のトップを選ぶ」という点をどう会則に盛り込むかもポイントのひとつになりそうだ。

オフィス、タワマン、ショッピングモールが建ち並び、トレンドな町としてのイメージが強い豊洲で起こった町会の内紛の原因はいったいなんだったのか――。

それは非難を受けて、法廷に呼ばれた町会長に対する不満だけではあるまい。その町会に属する3500戸の住民たちの地元自治会への無関心が3000万円以上の町会費を抱えた大町会の迷走に拍車をかけてきたと言えるのではないか。

少子高齢化、人口減少が進む一方で、多様化するニーズに対応するには、住民参加が欠かせない。しかし、実際には無関心な人が多いのも事実。その典型例がこうした町会活動や、マンションの管理組合だろう。いま一度、自分の生活圏に関心を持ち見直してみてはどうか。


タワマン、オフィスビル、ショッピングセンター、いまだ開発が続く「豊洲」/©︎OGW417Studio 

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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