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ぼったくり? 田舎の「固定資産税」―― 売れない空き家問題に隠れたもう1つの問題

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「査定価格=売却価格」ではないという現実

2021年4月に民法と不動産登記法が改正され、相続登記が義務化される法案が公布された。実際の義務化の目途は、24年春とされる。法律はできたが、空き家問題の根本的な解決になるかは不透明で、実際に処分するにはさまざまな問題が潜んでいる。


解決が難しい所有者不明の土地問題 写真は法務省ホームページ 撮影/編集部

甲信越出身の還暦が視野に入るAさんは、この数年で、生まれ育った家、母方の祖母の家、病弱な叔母が住んでいる家も叔母が亡くなったら相続してほしいと言われ、「最悪」なことに兄弟2人でこの3つの空き家を相続しなくてはならない可能性がある。

そこでAさんは、都内から遠い祖母が住んでいた家と土地を売却することにした。売却にあたって周辺を調べたところ、周辺は高齢者が多く、若い人と出会うことはほとんどない。人口が減っていることもあるのか、コロナ前は人が集まっていたコンビニが姿を消していた。そんな状況からAさんは「嫌な予感」を禁じ得なかった。

とはいえ、このエリアの基準地価の平均は1㎡あたり2万円。公示地価は1㎡=2万7500円程度。いずれもバブル期のピークだった1991年の4割程度。今も年1~2%前後ずつ下落しており、全国の1500余りの市区町村の地価ランキングでは1000位前後の地域である。

Aさんが相続した土地はJRの最寄り駅から7分ほどの宅地で、広さは500坪あまり。

その周辺の土地価格の相場を調べてみると、同じJRの最寄り駅の周辺で、広さ90坪の土地が坪単価6万円ほどということが分かった。また、地元不動産業者に相談してみると、敷地に畑地が入っているため、自己負担で家を解体、整地して売れば2000万円近くで売れそうだという。

残置物処理を含む古家の解体と整地の費用は200万~500万円近くかかりそうなことも分かり、「それなら現状のまま不動産業者に売却しても、手元に1500万円ほど残りそうだ」と最初Aさんは思った。

坪単価6万円の査定が結局3分の1程度に

Aさんが相続した物件は、市町村合併前の旧町役場の近くにある県道に面した宅地ということもあって「需要があるから、時間をかければ高く売れる」と助言してくれた人もいた。また、別の不動産業者によると「駅から数分だし、県道に面しているので坪10万円以上で売れるのでは?」とも言われた。

そこでAさんは「売り地」という看板を出す方法もあると思ったものの、病弱な叔母がひとりで暮らす家もある。今後、その家も相続するとなると、兄が相続した父方の実家もあって、兄弟で3つの空き家を持つ可能性もあり、処分できるうちに売却しようと決心した。

しかし、実際に売却しようと動き出すと、「査定額=売却額ではない」というこれまでの不動産業者の話はあくまでも仮定の話で、現実はそんな簡単なものではないことを思い知らされることになる。

というのも、地元不動産業者の話の前提は、土地の広さが100坪以下の話だった。Aさんが相続した家は、500坪あまりの広さがある土地だ。しかも、江戸時代の母屋や蔵、門などは取り壊したが、建売業者らの話では「それだけの広い土地を一括で売ろうとすると、かなり減額されますよ」ということだったのだ。

実際、不動産業者が現地の確認などを行ったところ、大きく値引きされ、古家解体費を差し引いた売価は1000万円を大きく割り込んだ。やむなくAさんはそれで手を打った。結局、最も高い価格の公示地価の3分の1前後の価格になってしまったのである。

この業者は、買い取り後は複数区画に分けて、分譲住宅地にする可能性があるという。その場合、土地を買い取った業者が利益を十分に確保できる最低ラインの価格を打診してくる。

もちろん、土地の売却実績が豊富な不動産業者であれば、高めの査定額になる。業者の実力相応な金額になるため、金額に差が出てきてしまう。高く売りたいと思っても、見知らぬ地方でいい値を付けてくれる不動産業者を探すのは、時間的にも労力的にも一苦労だ。

都会より田舎のほうが高くなった固定資産税

また、こうした地方の土地が売りづらい理由にはもう1つ大きな理由がある。最近、家を持つ人は土地が安くても、固定資産税をしっかりと見極める。

「直感的に、実際に売買する土地の金額に比べて、固定資産税のほうが負担感が重いと分かっているのだろう」と話すのは都心の不動産会社の営業社員だ。

バブル経済の頃は、地方の固定資産税の負担感は軽く都会は重かったが、今はその反対になっている。もはや田舎の土地の「固定資産税は高すぎる」というのは、常識になりつつあるらしい。

固定資産税路線価は、道路に対する1㎡あたりの土地の価格。この固定資産税路線価をもとにしてそれぞれの土地の固定資産税評価額が計算される。

固定資産税と都市計画税は、固定資産税が固定資産税評価額×1.4%。都市計画税は固定資産税評価額×0.3%で、マイホームであれば、課税額は6分の1に減額される。

例えば、件の500坪の古家付きの土地だと自費で更地にしてしまうと、仮に固定資産税評価額を3000万円とした場合の税額は、42万円程度になる。所有しているだけで、毎年これだけの出費をしなくてはならないので相当な痛手だ。

相続などでその土地の所有者になった人のなかにはこうした地方の固定資産税が、「高すぎる」との不満を持つ人が増えており、行政とのトラブルにもなっている。

コロナ禍によって、地方に家を買う「田舎暮らし」が注目されている。だが、地方では取引事例は極端に少なく、固定資産税が想像以上に高いところが多い。この税負担が生活費を押し上げ、「田舎暮らし」の足を引っ張るということも起こっている。

これは固定資産税の評価が、実勢の取引価格をベースにせず、実際の税負担も消費者の実感よりも10倍、なかには50倍の税額になるという極端な事例もあるというのだ。

税金を下げられない地方自治体の事情

この背景には、固定資産税、都市計画税が市町村の財源の柱になっており、国や自治体の税収確保の思惑から、安易に下げられないという実態がある。とくに面積が広い自治体、地価が安い自治体、給与所得者や事業所が少ない自治体ほど固定資産税に頼らざるを得ない。

「地方の不動産鑑定士の中には、地元自治体の苦しい財政事情を忖度した鑑定をするため、高めの税額につながっているのではないかと」と話す不動産鑑定士もいる。

そこで「固定資産税の算定がおかしい」と裁判を起こす人もいる。しかし、過去の判例では司法はほぼ行政側の理論に従い、勝ち目はほとんどないと言われる。つまり、司法の側も、市町村の「不動産鑑定士による評価額をもとに、国の基準にもとづいて今回も適正に評価した」という意見を追認してしまいがちなのだろう。

結果、固定資産税の高い土地を、路線価など公的地価を圧倒的に下回る金額で安く購入、あるいは相続した人が、実際の売買事例を元に「これが現実の価値ですよ」と、役所に不満を持ち込んでも、「それは事例の一部です。適正な価格を反映するものではないですね」と門前払いされてしまうというわけ。

しかも、自治体などのサイトで売り出される「空き家バンク」の中古物件は、建物の固定資産税評価額を下回ることが多い。しかし、買った後の税金の水準は買った額とは連動せず、「バブル時代」もビックリの高止まりのままであることがほとんど。これではキャッチのぼったくりバーのようだ。

税金ばかりでない。実際に草取りを頼めば、1日2万円近く、時給換算すれば、最低賃金が高い都会より高いのはよくあること。業者間の競争がないため、「それが相場です」と言われ、年10万円以上の草刈り費が必要な空き家もある。田舎はサービスも税金も意外に高いのだ。

それなのに、少子高齢によって人口減少が進む地方では売るに売れない空き家が増え、タダでも手放したい所有者が珍しくない。そんな物件でも市町村は周辺の売買事例が極端に少ないことをよいことに、「それなり」の価格の評価額をつける。加えて、この高めの評価額は固定資産税のほか、不動産の登記の際の登録免許税、不動産取得税の計算にも使われるので、購入者にとってはトリプルパンチにもなりうる。


日銀の金融緩和も全国津々の公的地価に影響はない/©︎Stepen Finn・123RF

その一方で、地価が大きく下がり、評価額が課税対象にならない土地を抱える自治体も増えている。自治体は3年に1度、地域の道路沿いの地点に路線価をつける。固定資産税を集めるため、個々の土地の評価額を算定するために鑑定費用などに多額の税金を費やすわけだ。

そうしたなかで、実勢価格以上に評価しても課税ラインに届かない土地が増え、固定資産税頼みの自治体の財政は危機的な状況になっているという側面もある。

日銀が超金融緩和の政策を続けたところで、全国津々浦々の公的地価に影響はない。「税額評価が高い」という土地に朽ち果てた空き家が増えていく――。その様は、衰退国家の日本に対する警告のように見えてならない。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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