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「店舗閉鎖が進む大手旅行代理店」から見えるDX革命がもたらすリアルビジネス不況

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旅行代理店のリアル店舗が消えていく…/©︎tktktk・123RF

2年間で全国500店舗の姿が消える旅行代理店

コロナ禍によって街角や駅のコンコースにあった旅行代理店が次々と消えている。2022年3月までの2年間で、全国で500店規模の旅行代理店の店舗が閉鎖される見込みだ。

緊急事態宣言が解除され、自粛が解除されたとはいえ、コロナ禍による飲食店はもとより、ビルオーナーにとっても、家賃などの支援金や給付金がなくなりコロナ後も試練は続く。むしろ、これから本当の生き残りをかけた戦いが始まるといってもいいのかもしれない。

これは店舗営業を展開していた旅行代理店業も無関係ではない。

実際、コロナ以前から、JTB、近畿日本ツーリストなど店舗営業が強かった旅行代理店は、楽天トラベル、エクスペディアなど国内外の「ネット旅行業者」(OTA=Online Travel Agent)に押されていた。それでも店舗営業の旅行代理店は、コストをかけて来店した顧客との対面相談(コンサルタント機能)を売り物にしてなんとか持ちこたえてきた。しかし、コロナ禍によってそうした営業スタイルも変化を余儀なくされ、今後はデジタルによるオンラインのリモート(在宅)接客に置き換わりそうなのだ。

こうした動きに影響を受けるのが、賃貸ビルのオーナーである。しかも、飲食店が店を閉めるなか、今度は旅行業種もとなってはまさに泣きっ面にハチだ。

帝国データバンクの調査では、今年1~5月までに判明した旅行会社や代理店の倒産・廃業は90件に達し、前年同期比で2倍、21年の倒産や廃業の累計は前年の20年の129件を大幅に上回る200件台に届きそうだという。20年度は旅行会社約1600社の9割超が前年度から減収となった。

就活生に大人気も今は昔――資産、人員削減で生き残り

東洋経済が行った「2万人の就活生が選んだ就職人気ランキング」(20年春卒業予定/調査は18年)を見ると旅行業界のガリバーといわれるJTBグループは、堂々のベスト10入りの第8位と就活生に大人気。しかし、そうした高評価をした学生が入社する21年3月期(20年4月1日〜21年3月31日)の最終損益が過去最大の1052億の赤字に落ち込んだ。

21年10月には福利厚生代行のJTBベネフィットをベネフィット・ワンに売却。ついには本社ビルなど2棟も300億円程度で処分し、加えてホテルチェーンのサンルートもすでに相鉄に売却済みだ。

また、同社の人員削減数は全体の4分の1に及ぶ7000人規模になっている。ここまでやっても同社のリストラは十分でない。1兆円企業であるJTBの売上高は3分の1に落ち込み、最終赤字は1000億円を突破し、借入も1000億円を超えているからだ。

21年には大幅な減資を断行し、資本金を約23億円から1億円にまで減らし、中小企業規模として税制などのメリットを受けた。また、社員のボーナスは22年夏までゼロとする方針。21年度末までには国内の約25%の120店舗程度を減らす予定だが、さらなる削減も必要になるのではないかとみられている。

というのも、JTBの売上の8割は旅行事業で、19年の個人向け旅行取扱高のうち、7割が店舗による販売が占めていた。このためコロナ後のビジネス環境はガラリと変わることが予想されるからだ。

しかも、アフターコロナではオンライン旅行業がさらに台頭することは間違いあるまい。すでにJTBは「じゃらん」や「楽天トラベル」に逆転を許し、収益力は低下している。

過去20年、JTBは店舗主体のビジネスからの転換を図ってきたが、思うようには進まずネット対応に出遅れた。すでに欧米では旧来型の旅行会社はオンラインに追い込まれて破綻する旅行会社は多い。

JTB総研の調べによると、スマートフォン経由で旅行商品を予約・購入した比率は19年時点で50%を突破し、7年前から2倍以上に増えている。つまり、明確にリアル店舗は逆風下にある。

日本観光振興協会の調査では、JTBは旅行取扱高でこそHISに次ぐ業界2位だが、ネットでの閲覧数上位は「じゃらんnet」がトップで続いて「楽天トラベル」などネット専業の旅行代理店が上位に並び、JTBは9位前後。取扱高の地位も安泰とはいえない。

芳しい成果が上がらない新規事業

こうした状況は店舗主体の旅行代理店は似たり寄ったりだ。

例えば、近畿日本ツーリストなどを抱えるKNT-CTホールディングスも21年3月期に96億円の債務超過となり、店舗を約3分の1に縮小する。しかも、看板企画旅行の「ホリデイ」(海外)と「メイト」(国内)を廃止する。債務超過対策で親会社の近鉄や銀行から400億円の資本支援を受けたばかりだ。

近ツリが背水の陣で進める新規事業もいばらの道が続く。同社では同じ趣味を持った人をつなぐオンライン上のコミュニティー事業(SNS)など新サービスを構築するが、その人たちが集まって旅行をするまでの規模には遠く及ばず、口さがない業界関係者は「気休め的、実験的な新規事業」と手厳しい。

JTBにしてもふるさと納税の商品開発、国際会議や見本市の誘致や自治体の観光課題解決などコンサル事業を育てる計画だが、規模や利益面は不透明だ。加えて「スマホでライブ中継」という海外オンライン視察事業など利益が出にくそうな事業もある。そのためか従来から手掛けてきた「修学旅行の企画や手配・引率の方がまだ手堅い」という冷めた声もあるほどだ。

そうしたなか21年10月、JTBがけん引してきた日本観光振興協会は政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の早期再開などを求める緊急要望書を国土交通省に提出した。

だが、過去に「Go To」でも、予約などはネット経由が優勢。「Go To」支援に関する事務作業を、苦境の旅行会社社員が請負ったが、「日給換算で数万円の事例もある」と批判され、「大手旅行会社の救済が目当てではないか」という声も出た。

強みのはずのきめ細かいサービスで収益悪化

そもそも町場の店舗旅行代理店では、顧客が旅行商品購入に至るまでの相談はコンサルといえるが、これが無料ということが経営の足を引っ張り、効率販売ができるネット販売に敗れた面がある。

有り体にいうと、ネット専業旅行代理店なら顧客の時間負担で勝手にやらせる旅行の選択を店舗旅行代理店ではそれを手伝う作業に、手間ヒマ、つまり、コストをかけてきた。

しかも、旅行代理店の弱点は飛行機や列車などの移動手段とホテル・旅館などの滞在先を組み合わせたパック商品などを売るだけで独自のコンテンツが乏しい点もある。加えて、商品の仕入れ先の鉄道や航空会社の系列旅行店との激しい競争もある。

これまで商店街で旅行代理店と仲良く軒を並べてきたはずの携帯電話ショップは、後期高齢者にもスマホへの乗り換えを推奨し、使い方を無料で教えている。その高齢者層は新聞の購読をやめ、ニュースはスマホ経由のみ。高齢者層の旅行もスマホ経由で予約してしまう時代になりつつある。

不動産を使った店舗ビジネスが厳しくなった今、旅行代理店や広告代理店も店舗(不動産)のリストラに走る――。

コロナ後のDX革命による不況の入り口が、まさに大きく開こうとしている。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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