新型コロナで変わった新しい葬儀のかたち――葬祭の基礎知識
Kanausha Picks
2021/09/29
イメージ/©︎thsk1344・123RF
最近多い葬祭CM――実は死者数は増えている?
人生最後のイベントは「お葬式」だ。家族や親族、友人、同僚たちが、故人を偲んで集まり、大勢の人が思い出を語り合う——。そんな光景が当たり前だった。
ところが、現在のテレビCMは、家族や少数の親族だけ集まる葬儀をやたらと宣伝している。つまり、簡略化された小規模のお葬式を推奨しているのだ。
背景にあるのは、新型コロナウイルスの影響だ。感染防止のため、数十人規模の葬儀は避ける傾向だという。参列者で三密を作ってしまい、感染者が出てしまっては元も子もない。
厚労省が発表した人口動態統計(速報)によれば、2020年に死亡したのは138万4544人。前年より9373人減っている。これは実に11年ぶりの数字だ。死亡数は毎年平均で約2万人前後。高齢化の影響である。
なぜ減ったのか――。
「新型コロナ感染予防の結果、インフルエンザで亡くなった人が約2000人も減った。肺炎などの呼吸器疾患で亡くなった人も減っており、こうしたことが影響している」(厚労省担当記者)
ところが、今年に入って死者が増えていることを示すデータがある。今年1~5月の死亡者を「超過死亡」という手法で分析したところ、直近5年で最多レベルとなった。
超過死亡とは、死者が平年に比べてどれくらい増えたかの指標で、平年から予測される死者数と実際の死者数を比較して算出するもの。
感染症疫学センターのデータによると、47都道府県の21年1~6月の超過死亡数は5676~3万93人。30都道府県おいて、直近5年間で最も多くなったという。
「半値、7掛け」低価格になる葬儀費用
「コロナ禍の影響で、今年の夏は葬儀が増えた」と葬儀社社長が次のようにその実態を明かす。
「今年の2月、3月はコロナに感染して亡くなった人も月に10件くらいありました。でも、高齢者のワクチン接種が開始された4月以降、葬儀自体も減少傾向にあったのです。でも、感染者が再び急増した7月からまた増えています。6月、7月は通常の葬儀だと、だいたい6割くらいの方が、家族葬で近親者や仲の良かった人をお呼びして葬儀をされていました。残りの3~4割が直葬など、火葬場へ直接いかれてお別れされる方です」
コロナ禍で、葬儀のかたちは家族葬や直葬へ変化していったというわけだ。家族葬は、家族や近親者など、親族が中心でおよそ20人以下の規模で行う葬儀が一般的だ。他にも通夜を省略して、1日で葬儀と火葬を行う「1日葬」も増えているという。
「家族葬の単価はここ数年下がっていますね。2日間で通夜・葬儀を行うと相場は120~130万円くらいですね。1日葬だと、仮にお料理や返礼品を入れても70~80万円くらいです」(前出・葬儀社社長)
こうしたこともあってか、ここへ来て、葬儀の価格競争も過熱している。株式会社ユニクエストが運営する「小さなお葬式」や株式会社「みんれび」の「よりそうお葬式:、大手スーパー・イオンの「イオンのお葬式」は、「家族葬」が40万円代、「一日葬」が30万円前後の低価格帯の需要が高まっているのだ。
「死亡届・死亡診断書」は10枚コピー
では、実際に家族が亡くなった場合、どのような手続きをして葬儀を行うのか。
親など家族が亡くなった後、7日以内に役所へ提出しなければならないのが、「死亡届」である。
それに先立って必要となる書類が「死亡診断書」。
これは病院で亡くなると、担当の医師から「死亡診断書」に死亡時刻や死因などを記載して遺族へ渡される書類である。
A3用紙の右側が「死亡診断書」で、左側が「死亡届」になっている。
法務省ホームページ「死亡届」/編集部撮影
厚生労働省によると、死亡場所の約8割が病院。次に老人ホームなどの介護施設、自宅と続く。
診断書発行の費用は、国立病院など公的な医療機関の場合、3000~5000円程度。私立の病院は発行費用を公表していないことが多く、数万円かかるところもある。
老人ホームなど、高齢者施設で亡くなった場合はどうか。
「老人ホームに入居されていた方の容態が急変して、病院へ運ばれて亡くなった場合、搬送先の医師が死亡診断書を書きます。ただし、看取りや老衰など、施設内で亡くなったときは、かかりつけの医師や提携先の医師に書いていただきます」(介護施設関係者)
自宅で亡くなった場合、主治医がいれば、連絡して発行を依頼する。突然死のような場合は警察に連絡し、監察医や検察官が検視をして特に事件性がないと判断されれば、すぐに死体検案書を発行してもらえる。犯罪性がなくても行政解剖が行われる場合もある。
「死亡診断書」は、年金の受給停止や生命保険の死亡保険金請求の手続きで複数必要となる。最低でも5枚、余裕を持って10枚程度はコピーしておくと困らない。
そのほかに必要な書類、携行しておくと便利なモノ
次に行うのが「遺体の移送」だ。
「通常、ご臨終の直後から看護師さんがエンゼルケア(死化粧)をしてくださいます。これは、ご遺体をキレイに拭いて、お化粧や着替えなど行う死後処置のこと。処置に一時間程度かかりますが、葬儀社が決まっているのであれば、できるだけ早めにご連絡いただき、ご遺体の移送と安置場所を決めたい。葬儀社の移送車が病院や施設や到着するまで、約1時間です。ご連絡をすぐいただければ、エンゼルケアが終わった後、お待たせせずにお迎えにあがれます。コロナなどの感染症で亡くなられた方以外は、24時間以上、遺体を安置しないと火葬できません。そう法律で定められています。今は葬儀社の遺体安置所をご利用される方が7~8割くらいです。以前はご自宅へ安置される方もいましたが、マンション暮らしの方も増えて、今は少なくなりました」(前出・葬儀社社長)
病院の遺体安置所は長時間使用できないので、迅速な対応が求められる。葬儀社が用意した移送用の寝台車が到着したら、すみやかに移動できるようにしたい。
安置所へ遺体の搬送が終わった際、「死亡届」の欄に親族の署名・捺印をしておけば、葬儀社が代行で提出してくれるという。
また、家族の臨終が間近にせまって病院へ行く場合、三文判でいいので判子を持っていくと便利だ。忘れても葬儀社が用意してくれる場合もある。
実は、印鑑をもっていると、届出には親族の署名・捺印が必要となるため、葬儀社が「死亡届」の提出を代行しやすくなる。他の必要事項などは、葬儀社が代筆してくれる。
葬儀の日程は、葬儀社が火葬場の予約状況を調べたうえで遺族と決定する。ここまで決めるのに、通常は1~2日間。日程が決まれば、葬儀社は「死亡届」を持って役所へ向かう。その際、「火葬許可証」が発行される。
「この書類がないとご遺体を火葬できません。火葬場の予約時間の関係があって、忘れてしまうと予定どおりに火葬できなくなるので、葬儀社に任せるのがいいと思います。代行の手数料も必要ありません」(前出・葬儀会社社長)
葬儀社へ代行を依頼すれば、最初の7日間は役所へ行かずに済む。葬儀を済ませ葬儀費用を支払えば、終了だ。ただ、故人の口座から預貯金を引き出す場合は、引き出す金額が決められているので、詳しくは口座のある金融機関に確認する必要がある。
もしものときはどうするか――。大まかなことは知っておけばそのときになって慌てずにすむはずだ。
この記事を書いた人
記者・ライター集団
政治、経済、ビジネス、マネーなどさまざまなジャンルを取材、執筆活動を行っているフリージャーナリスト、ライター、カメラマンなどによる叶舎LLC.の取材チーム。