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ゴタつく横浜IR誘致の影で東京・お台場がIR候補地に急浮上の事情

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乾坤一擲のタイミングで入った小池知事の応援

「勝者なき選挙」「自民敗北」……7月4日の東京都議会選挙のとらえ方はさまざまだが、自民党と公明党で過半数が取れなかったわけで、菅義偉首相にとっては厳しい結果になったことは間違いあるまい。

その大きな要因になったのは選挙戦の最終日に“過度の疲労”で静養していた小池百合子東京都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会(以下、都民ファ)の候補者の応援に参戦したこと。さらに激戦区の有権者に対しては、小池知事自らが候補者を応援する録音テープによる電話作戦を行うなど、ここしかないまさに乾坤一擲のタイミングでの応援は大きかった。

都民ファの31議席(その後、1人離党)という数字は、勝ちすぎず、負けすぎず。それでいて都議会第2党の立場というのは、小池知事にとっては絶妙な結果で、自民党の二階俊博幹事長との関係においても満点の出来だったはずだ。

一方、菅首相にとっては、これで小池都知事から煮え湯を飲まされたのは何度目になるのだろうか。当初は楽勝と思えたものが一転した結果に終わった。

それでもなんとか自民党が都議会第1党に返り咲けたことが唯一の救い。すぐに責任を問われることはなく、なんとか先の総選挙、自民党総裁選挙に向けた1つ目の大きなハードルは越えた。

負けられない選挙で「勝てる候補」の登場か

そんな菅首相にとっての次のハードルは、横浜市長選挙(8月8日告示、22日投開票)である。

横浜市長選挙では、横浜市西区・南区・港南区の神奈川県2区を選挙区とする菅首相が強力に後押しする横浜市のIR(カジノ)誘致が大きな争点だ。ここはなんとかIR推進の候補を立ててというところ。しかし、お隣の横浜市鶴見区・神奈川区の神奈川県3区を選挙区とし、自民党の総裁選挙では、菅首相の選対本部長を務めた小此木八郎氏が論功行賞の国務相を辞職して「IR反対」を掲げて立候補することを6月25日に明らかにした。

この小此木八郎氏は、菅首相にとって政治家の師でもあり、秘書を務めた小此木彦三郎元建設相の息子であるばかりか、河野太郎ワクチン相、小泉進次郎環境相と並ぶ“神奈川三郎”と頼りにしてきた側近の一人。その小此木八郎氏の突然の市長選出馬は反乱ともいえる。

とはいえ、小此木の出馬が菅首相に対しての反旗なのか、それとも市長選挙で勝てる候補が見当たらないなか、カジノに対しては反対でも菅首相にとっては「負けられない」選挙での「勝てる候補」としての戦略的な出馬なのか、市長選出馬にあたっての菅首相と小此木氏の間でどんなやりとりがあったのかは明確にはなっていない。


横浜のIR予定地 山下ふ頭/©︎dreamnikon・123RF

横浜のIR誘致については、菅首相が小此木彦三郎元建設相の秘書時代からよく知り、菅首相が横浜市議、衆院議員、大臣と政治家としてのキャリアを重ねるなかで後ろ盾でとなってきた、“ハマのドン”といわれる藤木幸夫氏が「山下ふ頭をばくち場にはしない」などと反対姿勢を示している。また、5月には「カジノに頼らぬ横浜」を目指すとした市民団体「横浜未来構想会議」を立ち上げ、菅首相が推すIR誘致に対して徹底抗戦をあらわにしている。

そんななかで大臣を辞してまで立候補する小此木氏は無所属として出馬。会見では「市民から治安が心配、賭けごとをやって負けたお金を街づくりに使うとは何事だという声があった」と話し、このハマのドン・藤木氏との主張と重なる内容で菅首相vsハマのドンとの代理戦争の構図になっているわけだ。

IR誘致で急浮上する東京・お台場

そんなIR誘致で菅首相とその地元の有力者が角を突き合わせ、揺れる横浜市の状況を横目で見ながらほくそ笑んでいるのが東京・お台場だ。

横浜のIR誘致が頓挫し、IR計画が東京にくるとすれば、その有力候補地はお台場で、その利益を受けるのは、政府や東京都にIR構想を伝達してきたフジテレビ(FMH)、三井不動産、鹿島建設、三井住友銀行といった面々なのである。

実は、フジテレビは2017年にIRの開発計画提案書を東京都に提出済み。この提案書はフジテレビのほか三井不動産、鹿島建設、日本財団の4社グループ代表が名を連ねる。

その内容は政府が主導する国家戦略特区ワーキンググループに「東京臨海副都心における国際観光拠点の整備」として13年に出したものと同じ。このほかにも東京・臨海副都心でのIR構想は、森ビル、三井住友銀行もカジノを中核とするIRを含む開発計画提案書を東京都に提出している。

しかし、これら東京の計画は政府のIR推進本部が発表している21年10月~22年4月までの第一次申請には間に合いそうもなく、実際には、申請期間の延長措置の特例措置、あるいは次の申請になる可能性もある。

東京・お台場へのIR誘致で泣く会社、笑う会社

IR誘致で勝ち組になりそうなのが大阪市(夢州)でIR建設に係ることがほぼ確実の竹中工務店と大林組の関西系の2つのスーパーゼネコンだ。この2社は、横浜でIRが決まれば受注が濃厚といわれる。

というのも、この2社は鹿島、セガサミーが主導するゲンティン・シンガポール・リミテッドのグループに入っているためだ。

しかし、IRの予定地がお台場となると、この2社の東京都への食い込みは足りない。このIR誘致でもっとも恩恵がありそうなのがセガサミーで、安倍前首相時代から政権と深いつながりがあるため、お台場シフトにも対応できる体制を整えているようだ。

一方、東京都都港湾局は、すでにIR誘致の候補地として10ヘクタール以上の未利用地3地区をリストアップし、選定評価している。

港湾局から委託受けた三菱総研による調査では、築地市場跡地(23ヘクタール)、臨海副都心・青海(お台場)地区(10~30ヘクタール)、品川・田町間(10~13ヘクタール)の3地域を候補地として比較検討。総合評価で青海(お台場)地区を最適地とした。

また、青海(お台場)において、カジノ付きと、カジノなしの案についても比較検討されたが、その結果は国際会議場も含めたMICE施設[Meeting(会議・研修)、Incentive travel(報奨旅行)、Convention(国際会議・学会)、ExhibitionまたはEvent(展示会・イベント)を備えた施設で、これにエンターテインメント性を加えたものが「IR」になる]として整備、運営は独立採算になるため「収益の源泉」としてカジノは必須とされた。


「収益の源泉」としてカジノは必須 イメージ/©︎tupungato・123RF

つまり、お台場にIRを作るのなら、カジノは必須の施設というわけなのだ。

そのうえでMICE施設としては、シンガポールのマリーナベイ・サンズと同等の国際会議場と展示場、ホテル、商業施設を想定。この場合、建設費は最大3600億円になると試算されている。

東京都は五輪終了後にもIR誘致に触れた「東京ベイエリアビジョン」計画をを発表する方針のようだ。

こうした動きに先んじるかたちで、21年2月の通常国会では「都議選後は東京都がカジノ誘致に動く」と立憲民主党の江田憲司代議士が国会で質問している。

新型コロナと米中対立で見えなくなったカジノ参入業者

インバウンド需要を目論むIR誘致だが、新型コロナと米中対立で、業者選定が見通せなくっている。

大阪のIRではオリックスと組むMGMリゾーツが、新型コロナによって経営難に直面。ラスベガスの主要資産をリースバックで売り、5000億円をねん出した。その資金は日本でのIR開発に使われる可能性があると考えられると大阪の関係者は期待を寄せた。しかし、実際にはさらなる業績悪化で資金が消えたという見方もある。

創業者がトランプ前大統領の選挙資金源だったカジノ大手のラスベガス・サンズは、創業者が亡くなり、ラスベガスで運営するカジノ事業の売却を発表。収益率の高いマカオやシンガポールに経営資源を集中させる方針を示し、横浜進出については撤退を表明している。

その横浜市は、6月までに審査に通過した2つのグループから、事業内容に関する提案を受け付け、有識者による委員会での議論を経て、夏ごろには1つのグループを選定するとしている。

その本命は前出のゲンティングループだ。同グループはシンガポールでカジノを運営し、横浜進出にあたっては鹿島、セガサミーホールディングス、竹中工務店、大林組、ALSOKの5社が構成員として参加する。

もう1グループについては、マカオでカジノを運営するメルコリゾーツ&エンターテインメント中心のグループである。

このメルコリゾーツ&エンターテインメントの詳細については、応募者が公表を希望していないため、横浜市は詳細を非公表としている。しかし、マカオの業者は、米中対立の関係もあって、参入させないといわれている。

視界不透明な横浜のIRと市長選挙の行方

そんな不確定な要素が山積するIR誘致をめぐる横浜市長選挙だが、自民党としてはIRに反対している小此木氏を党の公認はもとより、推薦も出しづらい状況だ。

小此木氏は自民党神奈川県連会長を務めていたが、横浜市長選出馬に合わせて辞任。後任の会長は置かず、無派閥で菅首相に近い坂井学官房副長官を会長代行に選出した。県連の役員名簿には、特別顧問として小此木氏の名前があり、自民党との関係が切れたわけではない。県連としては自民党の公認候補が出ないのなら無視するというわけにもいかず、その立場は微妙だ。

それでも小此木氏が当選すれば、来年の国へのIR申請が見送られ、市のIR組織の廃止なども行われると見られている。しかし「市の組織廃止で将来のIR立候補が不可能になるわけではなさそうだ」(内閣府関係者)という見方も残っており、前回の市長選挙では林文子市長が、選挙前は「IRは白紙」と言いながら、当選すると一転、IR推進を打ち出したように、大手企業が“いいとこ取り”する現状のIR誘致計画が見直されれば、IR推進になるのではと懐疑的な市民もいる。

それにつけても横浜市長選の動きはかまびすしい。

7月8日には、元長野県知事の田中康夫氏が出馬を正式に表明。選挙戦ではIR問題だけでなく「横浜の貧困」を訴えるとしている。そして前日の7日に「現職の林市長が立候補の意向を固めた」と報道されると、林市長は「熟慮中」と会見で応じ、12日現在、その態度を明確にしていない。

加えて、菅首相周辺では党の公認候補として三原じゅん子厚労副大臣の出馬の可能性も捨ててはいないようだ。

横浜市長選挙に立候補を明確にしている小此木氏、田中氏といった有力な候補者はIR反対を打ち出しており、結果「IR反対派の票が割れて、林市長が出馬すれば当選するのでは」という見方すら出ている。

菅首相のお膝元で起こった地元実力者と側近による反乱、自民党の候補者調整、乱立する立候補者……。新型コロナの第5波が押し寄せるなかでの東京五輪、その直後の横浜市長選挙の行方は五里霧中だ。

 

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