金融業界を揺るがす「太陽光ベンチャー」の倒産 ソーシャルレンディングの行く末はいかに
東洋経済オンライン
2021/07/08
順風満帆に成長していた太陽光ベンチャーに何があったのか 写真はイメージ/©︎hying51・123RF
神奈川のあるベンチャー企業の倒産が、金融業界を揺るがしている。
その企業は、金融機関から融資金11億円超を詐取したとして、代表・役員ら3人が逮捕された「テクノシステム」(以下テクノ社)。同社はこの件とは別に、金融大手・SBIホールディングス傘下のSBIソーシャルレンディング(以下、SBISL)を介し個人投資家からも300億円以上を調達しており、その資金を本来の借入目的以外に使っていた疑いも持たれている。
現在テクノ社は事後処理を弁護士に一任し、倒産処理に向けた法的申請の準備に入っている。一方のSBIはソーシャルレンディング事業からの撤退を決定、6月には「事実と異なる説明で投資家を勧誘していた」として金融庁からSBISLの業務停止命令を受けている。
信頼性揺らぐソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングとは、「融資(貸付)型」のクラウドファンディングとして位置づけられ、インターネット上で資金を借りたい個人や法人と投資家を仲介する金融サービス。国内では中小・中堅企業の新たな資金調達手段として活用が広がってきた。投資家にとっては、少額から投資可能で、銀行より高い利回りを受け取れるメリットがあった。
しかしこの一件によって、ソーシャルレンディングという新たな金融手法の信頼性は大きく揺らいでいる。SBIのような金融大手を巻きこんで、なぜこのような事態が起きてしまったのか。テクノ社の倒産までの顛末を追った。
テクノ社は2009年12月、代表の生田尚之氏によって設立された。軟水製造装置、超小型浄水装置、海水淡水化浄水装置を扱うほか、食品関連の特許技術をヒントに、ボタンひとつで様々な食材を調理して提供できる「デリシャスサーバー」を販売。
第1期決算で2億円超の売上高を確保し、地元のテレビ番組で取扱製品が紹介されるなど、新興のベンチャー企業として注目を集めた。
2012年12月には、テクノ社の環境事業が神奈川県の経営革新計画の承認を受けたほか、同じ頃には、東日本大震災後の市場拡大を背景として太陽光発電事業に本格参入。年売上高は設立4期目の2013年11月期には10億円台に乗せ、2年後の2015年11月期には100億円を突破した。メガワットクラスの太陽光発電設備の販売が業績を大きく押し上げた。
業容拡大にあわせ、2015年には本社を横浜ランドマークタワー19階に移転した。管理体制強化を目的に外部から経験豊富な役員を招聘し、2017年には「2018年中の東証マザーズ上場」を目標に監査法人・幹事証券会社を決定。
地銀系ベンチャーキャピタルや上場会社、神奈川県の第三セクターが増資を引き受けた。全国紙やテレビもテクノ社の取り組みをたびたび取り上げるなど、株式上場は現実味を帯びつつあった。
そして、2018年11月期の年売上高は前期比37%増の約160億円にまで伸ばしていた。
囁かれていた資金繰りの厳しさ
このように書くと、ここまで順風満帆に成長し、何ら問題がなかった会社のように映るかもしれない。だが、資金繰りの厳しさ、それに伴う取引先に対する支払いぶりの悪さはこの間も業界内で囁かれ続けた。
当時、筆者が同社に取材したところ、そうした噂を否定していたものの、この頃のテクノ社は「人材面の補充・教育が追いついておらず、取引先の与信管理も甘い印象があった」(取引先)という。成長スピードに体制整備が追いついていなかったと見られる。
結局、上場計画は進展しないまま時は過ぎた。そして2020年8月には取締役2名が同時に辞任した。辞任理由は判然としないが、「このうち1名は主要株主の1人だったこともあり、経営内部が相当混乱していると捉えざるを得なかった」(取引先)。そしてこの頃を境に、綱渡りの資金調達はさらに厳しくなっていった。
ただ、どんなに赤字が続いても、どんなに信用不安が流れても、企業は資金繰りさえつけば倒産することはない。企業にとって「金融機関との関係が生命線」といわれる所以である。
テクノ社の資金調達を支えた「銀行取引状況」の変遷を見ると、極端な「多行取引」状態に陥っていた。発電事業で地域密着型のプロジェクトが多く、地域振興に絡めて各地の地銀から資金調達したことで、取引行の数は優に30を超えた。
しかしその顔ぶれはといえば、確たる「メインバンク」がおらず、融資取引のあったメガバンクも早々に撤退。ついには、他地域の信金・信組が融資残高上位に名を連ねた。
信用失墜 絶たれた資金調達
それでも資金調達が難しくなったとき、藁をも掴む思いで頼ったのがSBISLだった。
SBISLは2011年3月、ソーシャルレンディングサービスの提供を開始した。少ない金利負担で資金を借りられる場所を求める「借り手」と、リスクを取る分利回りの良い資産運用ができる場所を求める「投資家」双方にとって、最も必要とされる金融サービスの提供を目指してきた。
株式上場も準備し、後発だったため融資実績を伸ばしたいSBISLは、既存金融機関に代わる新たな調達先を探していたテクノ社にとって、まさに「渡りに船」の存在だった。
こうしてテクノ社は2017年5月から2020年10月までに、バイオマス発電所・太陽光発電所・不動産案件などの名目で計383億円もの資金調達に成功。しかし、テクノ社が本来の借入使途以外に資金を使っていた疑いが今年2月までに発覚し、ついには資金調達の道をすべて絶たれた。
この間、取引先や金融機関への返済が滞り続け、テクノ社の信用は失墜。さらに5月末には、静岡県や福島県内での発電事業への融資名目で、地元信金や地銀から虚偽の書類を提出し、計11億円を詐取したとして生田社長ら3名が東京地検特捜部に逮捕されるに至った。
事業性や担保価値が見えにくい案件には特に注意が必要
株式上場目前だった「急成長ベンチャー」で起きた今回の転落劇は、図らずもソーシャルレンディングというビジネスモデルそのものの難しさを世に知らしめた。ソーシャルレンディングは、少額投資・高利回りだが、元本保証ではない。融資先の情報開示も限定的なものにとどまる。
投資家は、高利回りにつられて高額な投資を募る大型プロジェクトや、事業性や担保価値が見づらい太陽光や再生可能エネルギーなどのハイリスク・ハイリターン案件に投資する場合、特に注意が必要だ。
そのため、信頼性が高い運営会社の利用が不可欠と言われてきたが、SBISLのような国内最大手かつ大手金融グループの子会社でこのようなことが起きてしまった。
今後、ソーシャルレンディングそのものへの信頼は回復することができるのか。投資家・金融機関双方で今回の事件を教訓にする必要があるだろう。
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