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大手不動産の実験場・南船橋で始める 「スポーツ・エンタメ不動産」事業とは?

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スポーツ・音楽と不動産のフュージョン

新型コロナウイルスの流行下、日本でもスポーツと不動産の融合が始まっている。

スポーツと不動産の融合とは、不動産会社がアリーナやスタジアムを保有・経営し、バスケットボールやバレーボールなど室内競技や、野球、サッカーといったフィールドのスポーツを開催する新型の総合施設ということである。

しかし、それだけではない。アリーナやスタジアムで試合がない日は、音楽のコンサートやイベントを開き、そのライブ配信も手がける。欧米では、アリーナなどのハコモノ(ハード)の所有に加え、サッカーなどプロスポーツ球団を所有し、さまざまなイベントを自社所有の会場で繰り広げるスポーツ・音楽と不動産のコングロマリット(複合事業者)が注目されている。

その最大手企業が、米国カリフォルニア州に本社をおくAEG(AnschutzEntertainment Group)社である。日本でも、ミクシィやメルカリ、DeNAといった新興IT企業群が、サッカー、野球、バスケットのプロスポーツ事業を傘下にし、その延長線上にはeスポーツの普及も視野に入れているが、不動産までは入らない。

そんななかでスポーツ・エンタメに、街づくりのノウハウを持ち込もうと、大手不動産会社が動き出している。

霞が関も動き出す総合エンタメ事業

日本ではAEGのようなビジネスモデルはもとより、こうしたアリーナ、スタジアムの複合施設は、民間投資で収益を見込むにはノウハウが必要だ。

これらの施設は、スポーツやライブに対応した多目的の「オンラインアリーナ」で、リアルスポーツはバスケットボール、バレーボールなどのアリーナスポーツ、ライブコンサートやイベント。そして、オンラインゲーム、eスポーツなどの舞台となることがポイントになる。

いま国内にある国際展示場や会議場、音楽ホール、スタジアム(球場・競技場)の弱点は、名前を冠する事業、例えば「国際会議場」なら「会議」での使用に絞られてしまう。しかし、会議が365日毎日開催されることはないので稼働率が低く、採算性の悪さがネックになる。

しかも、こうした施設を民間企業が自社物件として所有すれば、固定資産税などの税負担がのしかかる。そのため「ハコモノは赤字」というのが通り相場だった。

そのためこれらの施設は、国が自治体、あるいは自治体と民間が相乗りした第三セクターが土地を用意し、公共事業として建物を建設。運営は民間に任せるパターンや、役所が運営・管理事業者を募る「指定管理者制度」が一般的だ。

しかし、地方自治法の改正で、公共施設の民間による運営導入が進んだ。その結果、雨後の筍のように全国各地に同じような市民ホールや県立体育館が建設されてきた。そのなかには多目的に活用できる施設もあるが、スポーツや音楽、大型イベントを開催できる施設は非常に少ないのが現状だ。

そこで打ち出されたのが2025年までに全国20カ所を目標に公共施設などの設計、建設、維持・管理と運営に民間の資金とノウハウを活用するPFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)や、その代表的な手法である官民が連携して公共サービスの提供を行うPPP(パブリック・プライベイト・パートナーシップ)を用いたアリーナ建設である。

図:全国のスタジアム・アリーナ新設・リニューアル構想

出典/スポーツ庁web広報マガジン「DEPORTARE」

上図は、すでに運営、計画中の施設の一覧だが、これには内閣府、スポーツ庁、国交省・観光庁も整備に動き、補助金の配分も急ピッチに進められている。こうした国の事業のほか東京都や神奈川県といった自治体でも、独自のさまざまなプランが計画、建設されている。

南船橋が面白い その理由とは一体?

その動きが目に見えるようになってきたのが千葉県南船橋だ。

南船橋一帯の土地を持つ三井不動産は、かつて、千葉県の南船橋地区でららぽーとスキードーム「SSAWS(ザウス)」を1993年から2002年まで運営した経験がある。この南船橋は三井不動産にとって、壮大な“実験場”でもあるのだ。


1993年から2002年まで営業していた、ららぽーとスキードーム「SSAWS(ザウス)」/Morio via Wikimedia Commons

例えば、前出のSSAWSもそうだし、さらにさかのぼれば81年にオープンした「三井ショッピングパークららぽーとTOKYO-BAY」(当時の名称は「ららぽーと船橋ショッピングセンター」)も、この南船橋で三井不動産が初めて手がけた大規模ショッピングセンターだった。


いま南船橋が面白い。写真は「三井ショッピングパークららぽーとTOKYO-BAY」/©︎編集部

SSAWSはオープン当初から10年限定とされたため、すでにその姿はなく、脇にあった船橋オートレース場も読売ランドが事業をやめたため、いまは家具・雑貨の「IKEA」などが誘致され、スポーツ施設としては国際規格のスケート場がある「三井不動産アイスパーク船橋」がオープンしている。

さらに自社の物流基地「ロジスティクスパーク船橋」、三井不動産ブランドの高級マンション「パークホームズLaLa南船橋ステーションプレミア」の建設が進む。

この「三井村」の船橋市をホームタウンとするのが男子のプロバスケットチーム「千葉ジェッツふなばし」で、2019年にミクシィと業務・資本提携し、いまはミクシィがジェッツの株式の過半数を取得し、ジェッツはミクシィの連結子会社になっている。

そして、三井不動産は、ららぽーとTOKYO-BAYP10駐車場にミクシィと共同で、サブアリーナも併せ持つ新アリーナの建設を決め、すでに清水建設の受注が決まっている。


新アリーナ建設予定地のららぽーとTOKYO-BAY P10駐車場/©︎編集部

とはいえ、Bリーグ関連の試合数は、年間35試合前後しかない。このため三井不動産は、ジェッツの親会社のミクシィに協力を求める方向で、音楽のライブコンサートなど各種イベントを検討中だ。このように南船橋案件は、三井不動産が進める「スポーツ・エンタメ不動産」が着々と進んでいるのである。

これらはTOB(株式公開買い付け)で非上場子会社にした東京ドームなどを活用した、「スポーツ・エンタメ不動産」の試金石ともいえるだろう。

三井不動産が目指す世界トップクラス

三井不動産は、「スポーツ・エンタメ不動産」を進めるにあたって海外事業者、霞が関にも接近している。しかも、三井不動産が狙う「スポーツ・エンタメ不動産」は、当然のことながらいまの日本にない業態で、規模やレベルも世界標準より上の世界最先端のものを目指しているようだ。

米国にはメジャーリーグ球団の著名なボールパークが多数ある。これらの施設は単なる球場ではなく、エンターテインメントやレジャー、街づくりを施したスタジアムだ。こうした施設の設計やコンサルのノウハウは欧米・豪州に蓄積されており、三井はさまざまな計画のなかで、ノウハウを持つ企業に発注するなどして、海外の知恵や経験の移入にも取り組んでいる。

その手本の一つが前出のAEG社である。

AEGの事業は実に多岐にわたっているが、どれも世界トップクラスの収益をあげている。

具体的にはコンサート業界では、売上高は首位のLiveNationの半分程度だが、世界2位。しかも、欧米では値上がりが続く不動産のスポーツ転用が得意で、自社所有のためにどれも収益率が高い。同社は世界中で100以上のアリーナを所有しているが、売上高世界トップ100のうち20以上がAEGグループの保有するアリーナだ。

しかも、ただアリーナの所有、管理運営だけでなくバスケットボールの「ロサンゼルス・レイカーズ」、サッカーの「ロサンゼルス・ギャラクシー」などの数々のプロスポーツチームを傘下におさめる。それだけにとどまらず、一流ミュージシャンや歌手とも契約しており、その中にはポール・マッカートニー、ボン・ジョヴィ、ローリング・ストーンズなどの名前も並ぶ。こうしたソフトを活用し、スポーツイベントはもちろん、音楽のコンサート主催、そのチケットの流通販売までも手がける。しかも、グループにはテレビ局、シネコンなどエンタメ関係の多数の事業を持ち、アリーナをフル回転させている。これらのソフトが同社の武器になっている。

東京ドームをお得に買収できた理由

三井不動産は今後、読売側に東京ドームの株式の2割を譲渡し、東京ドーム(スタジアム)の建て替えを視野に三井、ドーム、読売、巨人軍の相互連携を深めようとしている。

実は三井不動産は社名から「不動産」を外す検討をしたこともあるほどで、エンタメなど音楽やスポーツ、ゲームなどを事業の柱の一つに育てようとしている。それにはプロ野球球団の「巨人軍」を持つ読売新聞やゲーム会社などの新興企業に近づく必要がある。

南船橋ですでに関係の構築ができているミクシィとは、代々木のNHK近くで、JリーグのFC東京のホームを想定した多目的スタジアムの設置の検討も進めている。

すでにソフトバンク、楽天、DeNAはプロ野球やJリーグのサッカーチームをグループに入れているが、これはスポーツのソフトパワーにいち早く目を付けたからだ。最近もメルカリがJリーグの鹿島アントラーズの大株主になるなどIT企業とスポーツのつながりは強い。

つまり、三井不動産は、通信、ゲーム、通販、デジタル事業、オンラインビジネス、DX(デジタルトランスフォーメーション)に強いIT企業が持つソフトとしてのスポーツビジネスとの協調と競争で、新たな不動産関連の事業領域で主導権を握ろうと考えている。

三井不動産が「読売、東京ドームの3社の強みを十分に発揮し、一致団結して施設の魅力度を高め、施設周辺を含めた魅力ある街づくりを進める」と言えば、読売新聞グループ本社の山口寿一社長は「三井、ドームと協力して、読売巨人軍とドームが一体となった運営により、来場者に満足いただける観戦体験と価値を提供する」と答える。

総額約1200億円で東京ドームを買収した際、債務状況が不安視された三井不動産だが、実はこの買収は“お得な買い物”だった。

20年4月28日に公表された東京ドームの有価証券報告書を見ると、主要な設備の簿価は、東京ドーム(多目的ドーム、事務所)699.3億円、ラクーア(複合型商業施設)235.9億円、ビッグエッグプラザ(コンベンションホール)281.7億円、東京ドームホテル(ホテル建物)278.1億円、レジャービル(場外馬券売り場、ボウリング場ほか)217.7億円、アトラクションズ(遊園地)91.1億円、ミーツポート(複合型商業施設、多目的イベントホール、庭園)87億円などとなっている。これらを足していくと、ドームとその周辺の複合施設「東京ドームシティ」だけでも、簿価は1900億円近くになり、時価にすれば2000億円を上回り、三井不動産のTOBの総額を大幅に超える計算だ。

また、三井不動産は今年、日比谷・銀座エリアの観劇の祭典「Hibiya Festival2021」を開催。新たに出資した日比谷松本楼が「まちなか劇場」の会場となった。加えて、オンライン会場「HIBIYA FES CHANNEL」で配信中の映像コンテンツでは、松本楼のテラスを舞台に日比谷公園を借景とした能楽・オペラのパフォーマンス映像を公開するなど、将来の「スポーツ・エンタメ不動産」を視野に入れ、着々とテストを行っている。それを総合的に俯瞰できる地が「南船橋」なのである。

 

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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