国の豪雨災害対策・情報整備は急ピッチ 個人は「正常性バイアス」の罠をつぶせ
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/06/12
文/朝倉 継道 イメージ/©︎paylessimages
避難勧告が廃止 指示に一本化
今年に入り、国による豪雨災害対策の動きが急ピッチだ。
そのうち、もっとも大きなニュースとして人々の耳に届いているのが、自治体が発表する避難情報の改正だろう。5月20日から始まっている。
これは、4月に改正災害対策基本法が成立したことによるものだが、一番のポイントは、市町村長による「避難勧告」を廃止したことだ。従来からあった「避難指示」に、今回一本化されている。
国が定める大雨警戒レベルは、最高を「レベル5」とする5段階に分かれている。このうち、「危険な場所からの全員避難」が求められる上から2番目の段階が「レベル4」だ。
事態がレベル4に至った際、これまでは避難勧告あるいは指示が行われていたところ、今後は、避難指示のみが行われることとなった。
以前から指摘のあった「勧告」と「指示」の違いの分かりにくさや、それにともなう人々の避難の遅れなどを解消するための試みとなっている。
繰り返そう。
「レベル4」=「避難指示」=「危険な場所から全員避難せよ」だ。即、行動に移したい。
「政府広報オンライン 警戒レベル4で危険な場所から全員避難!5段階の警戒レベルを確認しましょう」
「線状降水帯」 語による注意喚起
さらに、気象庁および国土交通省は、今年から「線状降水帯」というキーワードを大雨災害に関する国民への注意喚起に役立てることとした。こちらは6月17日から運用開始される。
この言葉は、昨年九州などを襲った「令和2年7月豪雨」や、2018年の「西日本豪雨」などで、すでに多くの人が知るところとなっている。具体的には、発達した積乱雲が帯状に連なり、線状の降水域を作り出して、豪雨をもたらす現象のことだ。
とはいえ、線状降水帯については、現状、細かい部分で専門家によりさまざまな定義が存在する。そこで、今後は国が一定の基準にもとづき、発生を確認、発表することとなった。
報道機関などが「線状降水帯」の語を安心して使いやすくすることで、より的確かつ身に迫った情報を国民に伝えるねらいとなっている。
そのほか、3月には国交省がウェブサイト「川の防災情報」を全面リニューアルしている。
あまり知られていないが、全国の川の水位や洪水予報・警報、レーダー雨量、河川カメラの画像などをリアルタイムで提供している“川の防災ポータル”ともいえるサイトだ。
せっかくの情報を無意味にさせる「正常性バイアス」
ところで、以上に代表されるような、防災情報に関する制度がさまざまに整備されても、結局のところ、情報をキャッチした人が正しく行動し、被害を避けられなければ、その発信には意味がない。
身に危険が迫り、避難すべき状況にある人が、ついそれを怠ってしまう理由として、よく指摘されるのが「正常性バイアス」とよばれる心理状態の存在だ。
正常性バイアスとは、要は「大丈夫だろう」の思い込みといってよい。
たとえば、誰にでも経験があるだろう。自分のいる建物の中で、火災報知器が鳴るのを聞き、一瞬驚いたあと、次に思ったことは何だろうか?
「逃げよう」ではなく「多分誤作動だろう」ではなかったか?
人は、予期せぬ危険な事態に直面すると、それが大きな問題につながらず、結局日常と変わらない状態に落ち着くものと思いたがりやすい。
これは、日常生活においては、さまざまな出来事にいちいちメンタルを揺さぶられないための心の安全機能として働くが、災害時にはよく罠となる。
豪雨などにより、避難が指示されても、「今回も大丈夫だろう」「ウチは大丈夫だろう」と、自分を納得させながら構えているうちに、やがては取り返しのつかない行動の遅れにつながることがある。
訓練で正常性バイアスを防ぐ
正常性バイアスの発動をいざというとき防ぐためには、どうしたらよいだろうか?
まずは、もちろん、正常性バイアスが誰の心にも存在する事実を知ることだ。自分自身に言い聞かせるだけでなく、大事な家族らにも、ぜひこれを知らせておきたい。さらに、もっと重要で、効き目のたしかな対策がある。
答えは、「訓練」だ。
正常性バイアスが、非常時であるのに人間の行動を普段どおりに仕向けてしまうワナであるならば、訓練によって、非常時を先に経験してしまう。すなわち、避難行動自体を普段どおりのことにしてしまうのがよい。
逃げない理由をあれこれ探すのではなく、迅速に逃げることこそがスタンダードな行動となるよう、自らを慣らしてしまうのが、対正常性バイアス一番の決め手といっていいだろう。
自身が暮らす地域の避難場所や、自宅からそこへ向かう道筋、途中にある危険箇所などを普段から把握している人はどれくらいいるだろうか。
本格的な避難訓練の機会がつくれずとも、一度それらを確認しながら、時間を計りつつ歩いてみるだけでも、「避難行動を経験済みのことにする」のに近い効果は生まれるはずだ。
今度の休日、早速動き出してみてはどうだろう。
この記事を書いた人
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