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「Zoom」「Clubhouse」に差す憂鬱な影…急成長の一方、はめられた重いくびき(1/2ページ)

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文/朝倉 継道 写真:中国政府の圧力を受けるズーム社 /©︎unitysphere・123RF

ズーム社・元幹部の刑事訴追

昨年の12月18日(米国時間)、あるニュースが世界をかけめぐったが、さほど話題にはのぼらなかった。

オンラインビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を運営するアメリカ企業、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの元幹部ジュリアン・ジン(金新江)氏が、アメリカ司法省により刑事訴追された件だ。

容疑はオンライン会議の妨害。1989年の天安門事件をめぐって、Zoom上で開かれた人権活動家の会合を少なくとも4回にわたり中断。2020年5月から6月にかけてのことだった。ジン氏はズーム社における対中国政府窓口を担っていた。そのため、当然ながらその行動の背景には、中国政府の意向と圧力があったとみられている。

ズーム社の創業は2011年。創業者エリック・ユアン(袁征)氏は、中国・山東省の生まれ。なお、現在はアメリカの市民権を持つとされている。同社は、本社をカリフォルニア州・サンノゼに置くアメリカ企業だ。しかしながら、開発拠点を中国に展開、これにより技術者の人件費を抑えるなどの手法で成長してきた。すなわち、企業としての重要な足場を創業者のふるさとに置いたかたちとなったが、これが重いくびきとなった。

フィナンシャル・タイムズ(英)のコラムによると、今回刑事訴追されたジン氏が、ズーム社における中国政府との窓口役となったきっかけは、19年の9月に起きたトラブルに遡る。中国国内で、Zoomのオンラインサービスが、政府の治安維持システムによって突然遮断されたのだ。これによりズーム社は、中国国内外をまたいでのコミュニケーションを図りたいクライアントにサービスを提供できなくなり、窮地に陥る。そこで、この状態を解消するため、政府との交渉役を担ったのが、16年に入社していたジン氏だったようだ。

ジン氏はその後、ズーム社の事業と、さらには自らの身も守るため、中国政府からの度重なる要求に従い、これを忠実に実行し続けてきた。

その内容とは、Zoomを利用して行われる会議の情報等についての中国政府との共有、ユーザーのIPアドレスや氏名、メールアドレス等の中国政府への提供、中国政府が違法とみなす内容を話題にするZoom上の会議への監視、同じく会話の検出、などである。

そして、おそらくはこれらと引き換えに、Zoomへの通信の遮断は、その翌々月の19年11月に早くも解除されている。なお、このような協力が始まったのは、19年9月のトラブル以前からだったとも伝えられている。

しかしながら、その後まもなく、世界を巻き込む大事件が発生。新型コロナウイルスの感染拡大による「コロナ禍」だ。これが、光とともに、またも影をZoomにもたらす。

ズーム社はコロナ禍によって大きく飛躍し、世界レベルで激増したオンラインビデオ会議の中心的なプラットフォームとして、急成長を果たす。ところが、今度はアメリカをはじめとする多くの国々から、システムの脆弱性や、中国政府との関連性などを厳しく警戒されるようになる。その流れの中、20年4月には、カナダ・トロント大学の研究組織「Citizen Lab」が、Zoomでの会議の内容が中国当局に漏れてしまう可能性を指摘。警戒感が一気に高まっていた中で行われたのが、上記ジュリアン・ジン氏による一連の会議妨害だった。

対して、ズーム社はこれを過ちであったとし、改善を示唆。8月には、事実上中国マーケットからの撤退を開始するともとれる方針を明らかにしている。

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