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伝説よ、再び――「トキワ荘」から始まった、いま、未来へと続く日本の“まんが道”

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文/向園智子 写真/編集部

日本のマンガ・アニメの源流 豊島区

スマートフォンやSNS、動画配信サービスのプラットフォームが爆発的に普及している現在、日本のマンガ、アニメ、ゲームといったさまざまなコンテンツが世界中で拡散されている。その結果、これまで日本のマンガやアニメについて知ってはいるが観たことはないという人たちが気軽に視聴できる機会が格段に増えた。

経済産業省が発表した「平成29年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業におけるコンテンツ分野の海外市場規模調査」によると、2016年の日本由来のコンテンツの海外市場規模は260億ドル(約2.8兆円)であったとし、22年には349億ドル(約3.7兆円)に拡大すると想定している。

さらにマンガ、アニメの内訳を見ると、マンガは16年で11億2900万ドル(約1197億円)、22年の想定は14億4100万ドル(約1527億円)となり、アニメでは16年で87億3600万ドル(約9260億円)、22年の想定は101億1100万ドル(約1兆718億円)となっている。このことからも日本のマンガ、アニメは海外市場でも今後も大きな成長が見込めそうだ。

19年11月には「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(IMART)」が豊島区で開催された。それは、マンガ・アニメの未来を作り出すため、次代を担う日中韓を中心とした海外と日本の企業・作家との交流を育むために開催された国際フェスティバルであった。

このように世界的にも注目産業である日本のマンガ・アニメであるが、その源流は豊島区であることに異論を挟む者はいないだろう。

そして今年、この豊島区に日本のマンガ・アニメの伝説と呼ばれる建物が再現されたのである。

伝説のアパート 復活

マンガやアニメに詳しくない人でもご存知であろう、手塚(塚は旧字・以下同)治虫や赤塚不二夫ら日本を代表する数々のマンガ家たちが若手時代に暮らした木造2階建てのアパート「トキワ荘」。このトキワ荘から流れ出した“マンガ”の源流は、いまの日本のマンガ・アニメ文化につながっている。

椎名町(現南長崎)にあった木造アパート トキワ荘は1952年12月6日に棟上げされた。2階建てのごく普通の木造アパートで、トイレと炊事場は共同、風呂はなかった。手塚治虫が入居したのは53年。きっかけは、雑誌『漫画少年』を発行していた学童社がトキワ荘を紹介したことだったそうだ。翌年、手塚治虫は区内の雑司が谷の並木ハウスへ転居し、『ジャングル大帝』をはじめ、『鉄腕アトム』『リボンの騎士』などの名作を生み出した。

トキワ荘には手塚治虫をはじめ、寺田ヒロオ、藤子不二雄(藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ)、石森章太郎、赤塚不二夫など、のちのマンガ界をけん引する数多くの巨匠たちが入居した。その青春時代をトキワ荘で過ごし、互いに切磋琢磨しながら、“マンガ”という新たな表現文化を切り拓いていったのだ。

その後は部屋が空くたびに『漫画少年』の投稿欄で、優秀な成績だった投稿者に声をかけたり、誘い合って入居し、トキワ荘には若手マンガ家が増えていったという。

このトキワ荘は1982年に解体され、跡地には記念のモニュメントが建てられた。いまなお多くのファンが「マンガの聖地」として訪れている。



トキワ荘跡地にある「日本加除出版株式会社」の社屋(上)とモニュメント(下)


南長崎花咲公園内にある“トキワ荘のヒーローたち”のモニュメント

そして時は流れ、今年の7月7日、トキワ荘のあった南長崎地域の“マンガによるまちづくりの発信拠点”として「トキワ荘マンガミュージアム」がオープンしたのだ。

トキワ荘マンガミュージアムを運営する公益財団法人としま未来文化財団の北山奏子さんが開設までの経緯を次のように話す。

「1999年に区民から、豊島区にトキワ荘を再現させてほしいと要望があったのが始まりといわれています。ただ、すぐに再現するというわけにはいかず、まずは、要望から10年後にはなるのですが、2009年に南長崎花咲公園に記念碑「トキワ荘のヒーローたち」のモニュメントができました。その後、各所にキャラクターのモニュメントなどが作られ、トキワ荘マンガミュージアム検討委員会ができたのが16年。そこで再現するための調査や情報集めが始まり19年に着工、20年の3月にオープンする予定でしたが、コロナの影響で7月7日のオープンとなりました。トキワ荘マンガミュージアムはマンガを通じて昭和30年代にタイムスリップすることができると思います」


再現されたトキワ荘マンガミュージアムの外観

忠実に再現された「トキワ荘」

ミュージアムでは、多くのマンガ家が生活していた空間が忠実に再現されている。「ギシッ、ギシッ」ときしむ音が再現された2階へ続く階段を上がると、トイレと共同炊事場がある。



当時の様子が細かく再現されている 上:トイレ 下:共同炊事場

建物や部屋にはエイジング処理が施され、当時の生活の息吹が感じられる。もちろん本物のトキワ荘を見たことはないが、『まんが道』で読んだトキワ荘のイメージそのものだ。


18号室 山内ジョージの部屋

「当時の図面があったわけではないので、住まわれていた先生方への聞き取りや資料を元に再現しました。新聞社さんが持っていた写真が再現するのに役立ったと聞いています。細かいところでは、当時の天井の板が残っていたので、板の幅を元に4畳半の部屋の広さを採寸したりしたそうです」(北山さん)

図面がない中での再現は、かなりの難易度だったに違いない。

また、他の部屋では、マンガ家たちの生活や文化、当時の物価などが分かるパネルも多数展示されており、その生活をイメージすることができる。さらにマンガができるまでの工程や、実際にマンガを描く体験ができるのも嬉しい(コロナの影響で当面の間中止)。

そして1階は、さまざまな角度からマンガを楽しめるエリアになっている。企画展示室では、現在、開館記念企画「漫画少年とトキワ荘」を行なっている(2020年9月30日で終了)。

この企画展示室には、『漫画少年』が多数展示されている。同誌の特色は、投稿欄が充実していたことだ。そこで、マンガ家を志す者は『漫画少年』に競って作品を投稿し、多くのマンガ家が育ったとされている。そして、このトキワ荘にマンガ家たちが集まるきっかけにもなった重要な雑誌である。眺めているだけで、その時代を知る人にとっては、そのころの思い出を懐かしむことができるし、そうでない人にとっても日本のマンガの歴史を追体験することができるだろう。

この開館記念企画「漫画少年とトキワ荘」は9月で終了するが、企画展示室では20年10月30日から「トキワ荘のアニキ 寺田ヒロオ展」が始まる。トキワ荘に住んでいたマンガ家たちのアニキ分的な存在として知られる寺田ヒロオ。その人柄や、マンガにかけた思いを直筆原稿や貴重な資料と共に紹介されるとのこと。こちらもぜひ観覧したい企画展だ。

子どもから大人まではもちろん、さらに海外からも注目されている日本のマンガ・アニメ。豊島区では、マンガとアニメの聖地として、トキワ荘以外にもさまざまな取り組みを行なっている。ミュージアムは現在、コロナの影響で予約制での利用となるが、ぜひ足を運んでみてほしい。

楽しみはミュージアムだけではない マンガの聖地を堪能

そして楽しみはミュージアムだけではない。ミュージアムで配布されている「トキワ荘ゆかりの地 散策マップ」を手に、マンガの聖地を散策することも楽しみの一つである。


トキワ荘ゆかりの地散策マップ案内板。パンフレットもあるので、それを手に散策するのも一興

目白通りから北西にのびる「トキワ荘通り」には、ミュージアムのある南長崎花咲公園や、トキワ荘跡地、マンガ家たちが足繁く通ったラーメン屋「松葉」がある。松葉で「ンマーイ!」と叫びたかったが、取材当日、残念ながら休みだった。

また、通り周辺にはトキワ荘にまつわるモニュメントや、マンガ家たちが通ったであろう鶴の湯跡地や、マーケット跡地も。最寄り駅の西武池袋線「東長崎駅」、「椎名町駅」や、都営大江戸線「落合南長崎駅」にも懐かしいマンガキャラクターのモニュメントの展示や壁画、ミニギャラリーなどがあり、聖地に集まるマンガファンだけでなく、仕事で近隣に立ち寄った人も、住人も楽しめるといったテーマパークのようになっている。


ファンは必ず立ち寄るというラーメン店「松葉」。取材当日は残念ながら休みだった


トキワ荘関連の貴重なマンガが読める施設「トキワ荘マンガステーション」


「トキワ荘のあったまち」の魅力を発信。散策拠点「トキワ荘通りお休み処」

トキワ荘マンガミュージアム、そしてトキワ荘通りを体感することは、過去から未来へと続く日本の“まんが道”そのものの歴史を歩むことにほかならない。偉大なるマンガ家たちのその情熱は、時代を超え、いまもこの地に宿っている。

豊島区立トキワ荘マンガミュージアム
〒171-0052 東京都豊島区南長崎3-9-22
TEL:03-6912-7706
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この記事を書いた人

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