映画館でこそ堪能できる 伝説のバンド〈クイーン〉の名曲とフレディ・マーキューの生き様
兵頭頼明
2018/10/30
(c) 2018 Twentieth Century Fox
イギリスが生んだ伝説のロックバンド〈クイーン〉。そのリード・ボーカルであったフレディ・マーキュリーの生涯を描いた音楽伝記映画である。
物語は1970年のロンドンから始まる。現在のタンザニアにあるザンジバル島出身の若者ファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は、複雑な生い立ちとともに、上顎の歯が通常よりも4本多いという容姿のコンプレックスを抱えていた。しかし、ファルークは通常よりも歯が多いことがボーカリストを目指す上でプラスに働くはずだと信じており、昼間は空港で荷物係として働きながら夜毎ライブハウスに入り浸っていた。
ある日ファルークは、ギタリストのブライアン・メイ(グウィリム・リー)とドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)が率いるバンドのボーカリストが脱退したことを知り、自分を後任にと売り込む。最初二人は相手にしなかったが、突然歌いだしたファルークの声を聴き、一瞬にして心を奪われてしまう。1年後にはベーシストのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)が加入。ファルークはフレディ・マーキュリーと名乗り、バンド名〈クイーン〉としてアルバムの制作に取り組んでゆく。
本作はシングル「キラー・クイーン」が大ヒットし、メンバーの個性がぶつかり合うことでロックというジャンルを超えた数々の名曲が産み出されてゆく過程を描くとともに、これまであまり語られることのなかったフレディの生き様を綴ってゆく。ロックミュージックとオペラを融合させたシングル「ボヘミアン・ラプソディ」の誕生が最初のハイライト・シーンであり、徐々に形になってゆく行程が実にスリリングだ。
彼らの音楽を全く理解できないEMIレコード社長の反対を押し切ってレコーディングした同曲の演奏時間は、何と5分55秒。この長さではラジオでのオンエアも期待できず、プロモーションが困難だ。しかし、シングルとしての理想的な演奏時間である3分程度にカットしろという会社の命令を無視してリリースされた「ボヘミアン・ラプソディ」は、英国史上最高の売上を記録することになる。
〈クイーン〉は一躍世界的なスターとなり、フレディは史上最高のボーカリストとして称賛されるが、その栄光の影でフレディと他のメンバーは対立を深め、メディアからはスキャンダルを書き立てられる。取り巻きの裏切りにも遭い、ますます孤独を深めてゆくフレディであったが、そんな彼をかつての恋人メアリー(ルーシー・ボイントン)が支えてゆく。そして物語は、1985年に開催された20世紀最大の音楽イベント「ライブ・エイド」での21分に及ぶパフォーマンスへと流れ込んでゆくのである。
監督は『ユージュアル・サスペクツ』(95)で注目され、『X-MEN』(00)でヒットメイカーの仲間入りを果たしたブライアン・シンガー。緻密な構成と手堅い演出でラストまで駆け抜けてゆく。フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックの演技も特筆ものだ。まるでフレディの魂が乗り移ったかのような名演である。出演者はすべて好演しているが、メンバーと対立するEMIレコード社長を『オースティン・パワーズ』(97)で知られる人気コメディアンのマイク・マイヤーズが演じるというサプライズも嬉しい。
本作はミュージカルではないが、既存の楽曲を使って構成するジュークボックス・ミュージカルの代表作『マンマ・ミーア!』(08)同様、お馴染みのヒット曲満載である。28曲にも及ぶ〈クイーン〉とフレディ・マーキュリーの名曲が、観客の心を掴んで離さない。改めて楽曲の力、そしてフレディ・マーキュリーという不世出のボーカリストの力を思い知らされた作品であるが、本作はその力に依存したのではなく、その力を最大限に生かした作品であることを強調しておきたい。〈クイーン〉の音楽を知る同世代のファンには堪えられない作品であり、彼らの音楽を知らない若い世代には新鮮な驚きと感動を与えてくれるはずだ。
クライマックスのライブシーンを堪能していただくためにも、大音量と巨大なスクリーンでの鑑賞をお薦めする。
『ボヘミアン・ラプソディ』
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレック/ルーシー・ボイントン/グウィリム・リー/ベン・ハーディ/ジョー・マッゼロ
配給:20世紀フォックス映画
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。