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更新料をめぐるトラブル

森田雅也森田雅也

2022/12/16

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【はじめに】

 今回は、賃貸借契約において生じるトラブルのうち、更新料をめぐるトラブルについて説明します。更新料は、法律に規定されたものではなく、賃貸人が賃借人に対してどのような理由で請求できる金員であるかが明確ではありません。
そのため、更新料をめぐって賃借人との間でトラブルになることを防ぐために、更新料について理解を深めておくことが大切です。

【更新料について】

 まず、更新料とは何かから説明します。
 更新料とは、賃貸借契約の更新に際して、賃借人から賃貸人に支払われる金員のことをいいます。
更新料は、賃貸人が賃借人に対して請求する金員のうち、敷金や権利金、礼金と比べるとその沿革は新しく、昭和27年、28年頃に発生したものと言われています。この当時は地価が高騰しており、賃借期間が長期にわたる借地契約において、高騰した地価に対応した賃料を賃借人から補充したいといったニーズが賃貸人側にありました。このようなニーズから、賃貸人が賃借人に対して、契約の更新時に金員の支払いを求めるようになったことが、更新料の始まりと考えられています。
更新料は、東京周辺の地域から始まり、高度経済成長期以降、各地に広まっていったようです。また、借地契約だけではなく借家契約においても、更新料が次第に発生するようになりました。
もっとも、現在においても、更新料は地域的に見て、必ずしも一般的なものではありません。平成19年に国土交通省が発表した「民間賃貸住宅に係る実態調査」によれば、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・京都府では、更新料を請求している割合が50%を超えていた一方で、大阪府や兵庫県では更新料がありませんでした。

【賃貸借契約の更新について】

 更新料は、賃貸借契約の更新時に発生するものです。そのため、更新料は、賃貸借契約の更新と深く関わっています。そこで、更新料をめぐるトラブルについて理解を深めていただくために、賃貸借契約がどのような場合に更新されるのか、契約の更新について簡単に紹介します。
 契約の更新とは、期間の定めのある契約(例えば、契約書に「契約期間は〇年間とする」と記載があるもの)において、期間満了をもって契約が終了した後に、契約を継続させることをいいます。
そして、契約の更新には、合意更新と法定更新の2種類があります。
合意更新とは、賃貸人と賃借人が話し合い、双方が合意したうえで契約が更新される場合をいいます。
法定更新とは、借地借家法の規定に基づいて契約が更新される場合をいいます。借家の場合、法定更新後の契約は、賃貸期間の定めがないものとなります。

【更新料の法的性質について】

 先ほど、更新料を請求する地域もあることを紹介しました。それでは、更新料を請求する場合、その理由はどのように説明されるのでしょうか。更新料の法的性質について説明します。
 更新料の法的性質について、これまでの裁判例に現れたものを整理すると、大きく2つに分けることができます。1つは、賃料の補充です。もう1つは、異議権(更新拒絶権)放棄の対価です。
 賃料の補充という点は、更新料が発生した沿革もありますが、毎月の賃料を低く設定して不動産を借りやすくしている業界事情との関係もあります。毎回の更新の時点で、通常の賃料よりも低く設定された賃料との差額を補填するために、更新料の授受が行われると考えられます。
 また、異議権(更新拒絶権)放棄の対価という点は、賃貸借契約の更新と関係があります。賃借人が契約の更新を望んでいたとしても、賃貸人が更新について異議を述べると、契約が更新されない場合があります。そこで、賃貸人と賃借人との今後の契約関係を円滑にするために、賃貸人が契約更新に対して異議を述べない対価として、更新料の授受が行われると考えられます。

【更新料をめぐるトラブルについて】

 更新料について理解を深めていただいたところで、いよいよ本題となる、更新料をめぐるトラブルについて紹介します。
更新料をめぐるトラブルとしては、次のようなものがあります。
・賃借人がこれまでに支払った更新料の返還を求めてくるトラブル
・賃借人が更新料を支払わないトラブル
・賃借人が更新料を支払わないことを理由として賃貸借契約を解除するトラブル
 以下、それぞれのトラブルについて、注意するべきポイントを説明します。

①更新料の返還を求められるトラブル

 賃借人が賃貸人に対して、これまで契約更新のたびに支払っていた更新料について、更新料の支払いを定める賃貸借契約の条項(更新料条項)が無効であると主張し、その返還を求めてくるトラブルがあります。
 このトラブルでは、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする消費者契約法第10条や、建物の賃借人にとって不利な条項を無効とする借地借家法第30条に基づいて、更新料条項が無効となるかが争点になります。
 この点、過去の裁判所の判断は、更新料条項を無効とするか判断が分かれていました。 このような状況の中、最高裁判所は平成23年7月15日の判決で、更新料条項は消費者契約法第10条や借地借家法第30条に基づいて無効となるものではないとしました。そして、賃借人からの更新料の返還請求は認められないと判断しました。
 この最高裁判所の判断におけるポイントは以下の2点です。
 1点目は、更新料の法的性質を明らかにしたことです。裁判所は、更新料の法的性質につき、「一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するもの」としました。そして、更新料にこのような性質があるため、賃借人による「更新料の支払いにおよそ経済的合理性がないなどということはできない」と判断しました。
 2点目は、更新料条項が無効とならない場合を明らかにしたことです。最高裁判所は、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り」、無効とならないとの判断基準を示しました。そして、最高裁判所は、この事案において、更新料の額を賃料の2か月分とし、賃貸借契約が更新される期間を1年間とする更新料条項について、無効とならないと判断しました。
 上記判決の内容を踏まえて、更新料を返還しなければならないトラブルを防ぐために、次のことを心掛けてください。すなわち、更新料条項は、更新料の額を1年ごとに賃料の2か月分程度を限度として定めること、その内容を契約書に具体的に記載すること、また契約締結時にあらかじめ賃借人に対してその内容を説明することを心掛けましょう。

 

②更新料を支払わないトラブル

 賃借人が賃貸人に対して、更新料を支払わないトラブルもあります。
 更新料は、法律に規定されたものではないため、賃借人との間で更新料について合意して初めて請求できる金員です。
合意更新の場合、契約更新の合意のときに、更新料を支払うことについても賃借人との間で合意がなされていれば、問題なく賃借人に対して更新料を請求できます。
 一方で、法定更新の場合、賃借人に対して更新料を請求できるかは、裁判所の判断が分かれています。
 更新料が支払われないトラブルを防ぐために、賃貸借契約が法定更新とならないよう注意するべきです。対処法としては、契約書の中に「賃貸人と賃借人の双方から申し出がなかった場合には、本件賃貸借契約と同一条件及び同一期間にて自動的に更新されたものとみなす」という条項(自動更新条項)を盛り込むことが考えられます。自動更新条項を盛り込むことで、契約期間の満了後に、事前の合意に基づいて契約が更新されること(合意更新)になるため、更新料の請求ができなくなるリスクを防ぐことができます。

③更新料の未払いを理由とする契約解除によるトラブル

 更新料を支払わないトラブルに派生して、更新料を支払わないことを理由とした賃貸借契約の解除が認められるのかというトラブルがあります。
 賃貸人が賃借人に対して更新料を請求できる場合、賃借人が更新料を支払わないことは契約解除の原因になります。しかし、更新料の未払いだけを理由とした契約解除は認められない可能性が高いと考えられます。
賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を基礎とする継続的な契約です。そのため、契約を解除するためには、この信頼関係が破壊されたといえるかがポイントになります。
更新料の支払いがないだけで信頼関係が破壊されたといえるかは難しく、従前の賃借人の賃料等の支払い状況なども考慮して判断することになります。
更新料の未払いが生じた場合には、従前の賃料等の支払い状況などを確認したうえで、契約を解除できるか検討するよう注意するべきです。

【おわりに】

 以上、更新料をめぐるトラブルについて解説してきました。
 更新料は、法律に規定されたものではなく、地域的に見て必ずしも一般的なものではありません。そのため、更新料を請求するためには、契約の中に更新料条項を定めておくことが必要です。
 更新料の返還トラブルを未然に防ぐためにも、更新料条項を定めるときには、弁護士にその内容をチェックしてもらうことをおすすめします。
また、更新料を支払わないトラブルが生じたときには、法定更新の場合に裁判対応が必要となることも考えられますので、早めに弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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