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私論――住みたい街の理想形は埼玉県の川越市 住みたい街を創り出す「ブランド」の価値

朝倉 継道朝倉 継道

2022/11/20

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知事を怒らせたランキング

いわゆる「住みたい街」論議は、時折世間の話題を沸騰させる。

最近の例では――住みたい街とは若干テーマが違うが――「地域ブランド調査2021」というのが大いに物議を醸した。昨年10月のことだ。

この中にある「都道府県魅力度ランキング」において、44位(最下位は47位)という残念な結果に了(おわ)った群馬県の知事が、法的措置も含めた対応も検討する旨、会見で怒りを露わにしたことを覚えている人も多いだろう。

筆者が長年関わっている不動産関連業界には、よくメディアに採り上げられる有名な調査がある。株式会社リクルートの「SUUMO住みたい街ランキング」というものだ。

もっとも、この歴史あるランキングは、筆者の知る限りいわゆる業界のプロからは評判がよくない。というよりも、かなり軽んじられている。

「毎年々々、横浜と吉祥寺と恵比寿で相も変わらずトップ争い。あれは住みたい街ではなく、単に遊びに行きたい街の人気投票だ」

――これがよく聞かれる声だが、今年は3位に埼玉県の大宮が入るというトピックが生じた。TOP3は以下のとおりとなった。(発表3月・首都圏版)

1位 横浜
2位 吉祥寺
3位 大宮

その結果、前回2位の恵比寿が4位に蹴落とされている。

人気投票型ランキングへのアンチテーゼ

「SUUMO住みたい街ランキング」は、街への順位付けがアンケートによって行われるものだ。つまり人気投票型のランキングということになる。

一方、こうしたかたちのランキングに対しては、そのアンチテーゼといえるものもいくつか存在する。

たとえば、SUUMOのライバル・大手不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」が公表している「LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング」は、順位付けの根拠をこのように謳っている。

「実際の検索・問合せ数から算出した“実際に探されている街・駅”のランキング結果です」

今年はこのようになっている。(発表2月・首都圏版)

借りて住みたい街・駅
 1位 本厚木
 2位 大宮
 3位 柏

買って住みたい街・駅
 1位 勝どき
 2位 白金高輪
 3位 横浜

なお、このうち本厚木、勝どき、白金高輪は、SUUMOのランキングではTOP10どころか50位以内にも見当たらない。やっと柏が21位に顔を出しているといった状況だ。

一方、SUUMOで2位の吉祥寺は、LIFULL HOME’Sの方では「借りて住みたい」の16位に甘んじている。これより上位には、西川口(5位)、蕨(8位)といったディープな(?)面々の名前も見えている。吉祥寺はこれらの後塵を拝する結果となっている。

つまりこの辺り、SUUMOのランキングにおける「住みたい」と、LIFULL HOME’Sにおけるそれとの切り取られ方の違いがよく表れているものといえるだろう。

こうした“街くらべ”には、さらに緻密なものもある。

人口当たり病床数や自治体の財政力指数など、さまざまな都市の成績=スコアを一堂に集めて指標化し、そのうえで順位付けする東洋経済の「住みよさランキング」など、その代表といっていい。

これらは、LIFULL HOME’Sのものも併せて、人気投票型に対する「エビデンス型」の住みたい街ランキングと呼んでいいだろう。要は、こっちがいわゆる玄人好みだ。

街のブランドに対して返される「愛」

そこで筆者だが、筆者はLIFULL HOME’Sなどのようなエビデンス型ではなく、SUUMOのような人気投票型こそが、実は住みたい街・住むべき街の本質を穿っていると見ている。つまり、玄人好みを愛さない素人っぽいスタンスだ。

理由はこの言葉にある。「ブランド」だ。

単純、かつあからさまな話となるが、人気投票型ランキングにおける票をたくさん集める街というのは、要するに有名だったり、人々から憧れられていたりする街だ。すなわち、ブランドを保持している。

筆者は、下世話ながら日本人にはその多くが欲しがる3つの基本的ブランドがあると思っており、それは「出身大学」「勤務先」「居住地」となる。

つまり、人気投票型の住みたい街ランキングとは、日頃われわれが求めるところの居住地ブランドを豊富に与えてくれそうな街が、自然と上位に入りやすいランキングということになる。

なお、このことは嫌味でなく、重要といっていい。なぜならこれらのブランドは、ときにそれを自負する者の生き方を律し、努力のよすがとなるものでもあるからだ。

そのうえで、こうした「居住地ブランド」に浴する人が多い街においては、街が住む人々に価値を与える分、住人からは愛を返されやすい。

愛のかたちにはさまざまあって、住民活動・福祉等への積極的な参加から、公共物への大小の愛情、街の名を挙げての事業起こし、あるいは学校での成績など、個々人によって多様となる。

ともあれ、いえるのは、そうした住人による愛は、往々にしてその街のブランドをさらに高めることにつながっていくということだ。

すなわち、そうした意味合いから、人気投票型の住みたい街ランキングというのは単なる人気比べではない。実は、真を穿った意味での魅力ある街のランキングになっている、またはなりやすいというのが、筆者の見方となる。

街のブランドをつくる「非日常性」

では、そうした街の「ブランド」はどのように出来上がるのか。あるいは、どのようにしてつくればよいのか。

答えから言おう。「非日常性」だ。

筆者は、非日常性と、高度な利便性にあふれる日常性が、交錯しつつ上手くまとまっている街こそが、街のブランドを生み出し、周囲からは「住みたい」と言われ、住む人からは「住み続けたい」といわれる魅力にある街になるものと思っている。

横浜(前述のとおりSUUMOのランキング1位)は、そのよい例となる。また、同じ神奈川県の鎌倉もほぼこれに当たっている(同10位)。

両者ともに、歴史の大舞台であったことによる遺構、文化、ストーリーといったものが、非日常性の魅力としてあふれるほどに積み上がっている。

加えて、これらを土壌とすることで、新たな非日常性も積み上がっていく。ドラマの舞台となり、歌の背景となり、漫画・アニメに描かれることで、日本中・世界中に知られる存在となっていく。

吉祥寺の人気も、ご存じだろうか。発端はほぼテレビドラマだ。それをいまではほとんどの人が知らないくらいに、その後の“積み上がり”が分厚くなっている。

中目黒(同12位)は、芸能界という非日常性が、閑静な住民生活とごく日常に交差するある種の異界(?)にほかならない。

また、サッカーが街の名前を全国区にした浦和(同5位)は、そのことで試合の日には街が熱い祭典のるつぼに変わるという非日常性も手に入れた。それが、もともとこの地が持っていた高い教育水準や利便性と溶け合うことで、近年、いよいよ街がブランド化してきている。

なので、あちこちのまちが模索する街づくり・町おこしにおいて、自らのまちを人々の「住みたい街」にするためには、まちのスコアを意識する以上に、まちに非日常性を生み出すことをそれらの担い手は考えた方がよい。

これは、浮かれたちゃらんぽらんなアドバイスではない。単に観光興しのためでもない。非日常性は、街のブランドという、街が住人に与える形なくして最大のものを創り上げるための欠かせない土台となるものだ。それがひいては、税収や人材の集積・輩出といったまちの基礎になり、やがてはスコアにも結び付いていくことになる。

横浜や鎌倉のようなきらびやかな歴史がない街ならば、その街は、成功するまで幾度でも、ドラマやアニメや漫画を誘致し、イベントを繰り返し企画し、スポーツクラブを立ち上げるべきだ。

著名で真面目な文化人や知識人と縁があれば、こっそり「わがまちに住みませんか」と誘うべきだ。

結局のところ、他人に「住みたい」と思われるほどのブランドをもつ街に、人々は「住みたい」のだ。

私論――住みたい街の全国1位はわが川越

今年、筆者の住む埼玉県の川越市では、新型コロナウイルスによる「コロナ禍」によって2年連続で中止を余儀なくされていた大きな祭りが3年ぶりに開催されている。「川越まつり」だ。先月のこととなる。

この祭りは、いわゆる山車祭りとしては全国有数の規模のものとなる。のみならず、江戸の天下祭りを東京に代わって引き継ぐものとして、西の祇園祭とはいわば“対”の存在といっていい。今年は市政施行100周年とも重なり、全29基の山車が揃って街に繰り出す壮麗なものとなった。

しかしながら、その反面、コロナ禍により来場者は少なかった。(57万4千人で前回より約31万人減)

そのため、今年の川越まつりはかえって市民の祭礼である雰囲気が色濃くなり、自動車の通行が規制された街の中心部どこを歩いても、市民の声や息遣いが間近に迫るものとなった。江戸の北の守り・最大17万石の大藩を支えた人々の末裔を含む市民である。

川越は、「住みたい街」として、おそらく最もバランスがとれた筆頭だろう。

ただし、SUUMOのランキングでは、地元埼玉県内の票が大宮、浦和、さいたま新都心という、ブーム(?)のさいたま市勢に大きく流れるためか、30位となっている。

とはいえ、筆者の評価だけでいえば、川越は首都圏1位で、かつ全国1位の「住みたい街」となる。

理由を挙げよう。まず利便性がよい。身も蓋もない話だが、要するに川越は東京の通勤圏にあり、すぐそばにある街だということだ。つまり、川越は巨大な東京を便利に使える幸運なまちのひとつということになる。ちなみに、川越―東京間の連絡といえば、古くは舟運が全国に名を馳せた。いまは会社の違う3つの鉄道路線が、両都市を馬の手綱のように結んでいる。

そのうえで、川越は自らもそれなりの大人口を抱えた(約35万人)繁華な市街地をかたちづくっている。

なおかつ、いまの時代に貴重なこととして、川越の繁華街はまるで昭和の都市のようにまちの中心に固まっている。要は、子どもから老人まで、あらゆる世代が徒歩でほとんどの消費活動をこなせる環境だ。そのうえで、恵まれたことに川越を潤すマーケットはこのまちの人口までにとどまらない。川越はいまや関東屈指の観光地となっている。休日ともなれば、近隣や遠方から人々が大挙して訪れる。

彼ら観光客は、まさに非日常を求めて川越にやって来る。それを迎えるのは首都圏にあって奇跡のように残った川越の古い町並みであり、数多くの神社仏閣であり、近世の城郭遺構だったりする。あるいは、江戸期以来の名産であるサツマイモから作る多様な“スイーツ”だったりもする。すなわち、これらは全て川越の歴史が積み上げてきた貴重な非日常性だ。

加えて、観光客はさらなる非日常を楽しむため、川越を訪れると和装に着替えたりもする。すると、街ではそうした彼らの非日常と、市民の日常とがそこかしこで交錯する。そのたび市民は誇りをくすぐられることになる。首都圏中、日本中、さらには世界中から人々が集まってくる美しい街に住んでいるという誇りだ。あるいは、そのための厳しい自戒となる。祭りの翌日も、連休明けの朝も、川越の主だった路上は、昨夜まで何ごともなかったかのように住人の手で美しくリセットされる。

なお、観光客に愛される川越の町並みや、神社仏閣、城郭などの遺構は、もちろん多くの市民にとっても非日常のものとなる。これらは、平日は市民の心を癒すオアシスとなってくれる。さらには、子どもたちにまちの歴史への自信を与え、学びを重ねていく礎ともなっていくわけだ。

どうだろう。そんなわけで最後はわが街自慢が過ぎた。この辺りでやめておこうと思う(笑)

(文/朝倉継道)

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「SUUMO住みたい街ランキング 2022首都圏版」
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20220303_housing_01.pdf

「2022年 LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング」
https://www.homes.co.jp/cont/s_ranking/
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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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