同じ条件なのに周りの部屋の家賃が自分の部屋より安い…そんなときどうする?
賃貸幸せラボラトリー
2021/11/11
イメージ/©︎liza5450・123RF
私も家賃を下げてほしい
人生、つらいことや悔しいこと、ガッカリするようなことなど、いろいろと経験するものだが、特にお金が絡むとその度合いはひとしおだ。賃貸住宅に暮らす入居者の立場でも、そうしたことは当然起こる。以下のような例などもよく耳にするひとつだろう。
声の主を仮にAさんとしたい。いま住んでいる賃貸マンション・アパートの他の部屋の家賃が自分の部屋より安くてショック! 納得がいかない――の声だ。
「私の住んでいるマンションの別の部屋がいま空室になっていて、入居者を募集しています。そこで不動産ポータルサイトを開き、検索したところ、家賃が安いんです。私の部屋よりもかなり……」
「どのくらい安いんですか?」
「私は6万円、その部屋は5万1千円です。ですが、こんなに差がつくのは心外です。部屋のある階は同じで、間取りや仕様など、条件はまるで一緒の筈なんです」
「そうですか。9千円の差ですと年間で10万8千円。大きいですね。ちなみにAさんはそこに何年お住まいなんですか?」
「10年になります。多分その間、私の部屋を除いた周りの部屋は、入居者が変わるたびに家賃が下げられていたんです。なにしろ空室になると埋まるまで結構長引いてしまう、あまり人気のない物件みたいなので……」
「するとAさんはどうされたいと?」
「私の部屋の家賃も下げてほしい。募集中の部屋と同じ5万1千円にいますぐ下げてもらいたいです。とはいえ、現在の6万円という賃料は、私が10年前に納得して契約し、その後も契約更新を重ねてきたものです。なので、いまのタイミングでそんなことを頼んでも無理なのかなと……」
交渉は自由 法律もサポート
さて、上記の賃貸マンション、事情はおそらくAさんが推測するとおりだろう。
Aさんによると、確かな記憶として10年前は、問題の部屋もAさんの部屋と同じ6万円の家賃で募集がされていたそうだ。つまり、Aさんのみならず貸主(オーナー)も、両物件の商品価値についてはこれを同じ程度のものと当時は見ていたことになる。
しかし、件の部屋はAさんの部屋と違い、過去に入居者の入れ替わりが多かったらしい。そのたび募集に苦戦し、家賃も少しずつ下げられてきたようだ。
また、当該マンションの周辺における賃料相場をみても、ここ10年といえばざっと下落傾向だ。Aさんのいう「あまり人気のない物件みたい」との印象は、そうした背景があってのものといえるだろう。
そこで一気に結論だ。Aさんは、その希望が固いならば、すぐにでもオーナーに対し家賃の減額交渉を持ちかけてみるといい。次の契約更新を待つ必要もない。
「いまのタイミングでそんなことを頼んでも無理なのかな」との疑問についても問題ない。実は法律がそれをサポートしてくれている。
借地借家法第32条
客観的かつ確かな理由にもとづいて、「いま払っている家賃を下げてほしい」と求める入居者をサポートしてくれる法律が、借地借家法の第32条だ。抜粋してみよう。
(借地借家法第32条1項)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
ここでのポイントは「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは」のくだりだ。これがAさんのようなケースに当たることとなる。近傍同種の建物=近傍同種の部屋と考えればよい。
そのうえで、「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」のだ。
つまり、Aさんは以上にもとづいて、「今後の家賃は〇〇円に減額してほしい」と、オーナーに対し遠慮なく請求すればよい。直接、もしくは管理会社等を通じ、理由を添えたうえで堂々と申し出なさいということだ。
すると、こうしたケースでは、オーナーは「ついに来たか……!」と内心狼狽してしまうことも多いだろう。
「周りの部屋の家賃をどんどん下げていたことについて、わざわざAさんに打ち明ける義務はないので黙ってはいた。けれども、長く住んでくれているAさんに対して後ろめたいのはたしかだった。収支の悪化がますますキツいが、今度の要求は受け容れざるをえない……」
なんの支障もなく家賃が希望どおりに下がれば、Aさんにとってはいわゆる満額回答となる。
揉めたらどうなる?
しかしながら、なかなか思い通りにはならないことも多い。例えば……
「いやいやAさん。実は、例の部屋の家賃が大幅に安いのには別の理由もあるんです。6年前に隣にビルが建ったでしょう? そのせいであちらの部屋はすっかり日当たりが悪くなっちゃって……それも加味してのことなんです。なので、いかがでしょう。中間辺りの数字をとって、今後のAさんのお家賃は5万5千円では許していただけませんか」
要は、不動産は2つとして同じものがなく、すべてが唯一無二。価格や賃料がバラバラなのは当たり前の商品であるということだ。
よって、道理にもとづくこうした判断がオーナー側にもあったとすれば、入居者側も「ならば不満なので退去」といった判断をしない以上は、前向きに妥協点を見出していくべきだろう。
しかし、それでも決着がつかず、揉めることもある。当事者同士では解決に至らず、調停や裁判に話が進む場合、以降はしばらくの間混沌とした状況のまま時間が過ぎていくが、では、その間の家賃の支払いはどうすべきなのだろうか。
その答えも、さきほどの借地借家法第32条に記されている。
(借地借家法第32条3項)
建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
このとおり、「借賃の減額について当事者間に協議が調わないとき」は、その請求を受けた者(オーナー)が「相当と認める額」を請求できるのだ。要は、入居者はいままでの家賃をとりあえず払っておきなさいということだ。
そのうえで減額が正式に決まったあかつきには、入居者は減額分、すなわち過払い分をさかのぼって利息付きでオーナーから返してもらうかたちとなる。
そこで、その際、いつの時点にまで「さかのぼる」のかというと、それは賃料を減額してほしい旨の意思表示が相手方に到達した時点と解釈されている。
よって、この大事な“時点”を確定させるために、賃料減額請求を調停や裁判で扱おうとする場合、意思表示は通常、配達証明付き内容証明郵便で行うことになる。
すなわち、配達証明に記された日付が、あとでさかのぼりの対象となる「意思表示が相手方に達した時点」となる流れだ。
【この著者のほかの記事】
告知期間は賃貸でおおむね3年「人の死の告知に関するガイドライン」のポイント
掘り出し物の良質な物件も 定期借家の「いま」を借りる側も知っておこう
賃貸住宅でペット可にするなら「飼育細則」を決めること そのとき重要な2つのポイント
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室