ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

掘り出し物の良質な物件も 定期借家の「いま」を借りる側も知っておこう

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

イメージ/©︎torianime・123RF

部屋探しに定期借家を含める? 含めない?

2000年に法律が施行。もうすぐ四半世紀を迎えようとしている「定期借家」。

貸主からの更新拒絶が困難な「普通借家」に対し、契約で定められた期間の満了をもって、建物の賃貸借関係を確実に終わらせることができる制度だ。ただし、この定期借家、当初の予想に反して(予想どおり?)賃貸住宅市場への広がりはかなり限定的だ。賃貸物件を探す多くの人にとって、「定期借家? 名前だけは聞いたことがあるけれど……」が、いまだ実情といったところだろう。

一方、制度をよく知っている人にとっては、定期借家イコール、何やら重苦しいプレッシャーとなる。

「この物件に入居しても、〇年後には追い出される。そのとき都合悪く引っ越しがしにくい状況だったりしたら……」

部屋探しの際、定期借家を初めから除外する人も実際少なくない。そのためか、例えば不動産ポータルサイトのひとつ「SUUMO」では、検索条件の上位メニューのひとつに「定期借家を含まない」が用意されている。ユーザーがこれを簡単に選べる仕組みとなっているわけだ。

さて、そんなイマイチ人気のない定期借家だが、では、逆にどんな物件がこの制度をあえて利用しているのだろう?

主な4つのケースを挙げていこう。

1.ハイグレードなマンション物件

定期借家は、家賃が高く、床面積も広い、立地も良好なハイグレード賃貸マンション物件に、実は採用されやすい。

参考になるよい数字がある。不動産ポータルサイト「at home」を運営するアットホームが、今年の5月に公表している「定期借家物件の募集家賃動向(2020年度)」にあるデータだ。

東京23区の賃貸マンションにおける「定期借家と普通借家の平均募集家賃」を見ると、このようになっている。

一目瞭然、平米数が増えるほど、定期借家の平均家賃は高い上昇率で上がっていく。普通借家との差がグングン開いていくのがよくわかるだろう。

さらに、以下の数字だ。東京23区の賃貸マンションに占める定期借家物件の割合となる。

50~70㎡では約11件に1件、70㎡超では、実に約4件に1件が定借物件となっている。よって、こうした物件をさきほどのSUUMOで仮に探す場合、「定期借家を含まない」にチェックを入れてしまうと、見逃される物件の数はエリアによっては相当な割合に及んでしまう。

例えば、以下は10月上旬某日に行った実際の検索結果だ。

・「東京都港区」「駅徒歩5分以内」「賃料20万円以上」「マンション」の条件で検索
……定期借家も含んだ物件数として約11,000件がヒット

・上記から定期借家を除くと、ヒット数は約9,000件に下がる
……18%ほどの脱落が発生

5件に1件近くが視界から外れたことになるわけだ。

では、なぜこのように、高賃料で面積も広いハイグレード物件で、定期借家は選ばれることが多いのだろうか?

答えのひとつが、いわゆる「転勤大家さん」や「持ち家相続大家さん」の存在だ。住んでいるマンションを転勤の間だけ他人に貸すケースや、親から相続した物件をとりあえず賃貸で運用するケースがこれにあたる。この場合、あとでオーナー自らがそこに住む予定があったり、その可能性があったりすることで、契約期間を限定できる定期借家はもってこいの仕組みとなる。

併せて、物件がそもそも持ち家であることから、その品質や仕様は一般的な賃貸向けのマンションよりも、レベルがかなり高いものになっていることが多い。すなわち、結果として、ハイグレード物件=定期借家の採用が多い、との流れが成立しやすくなるわけだ。

なおかつ、上記の場合も含め、ハイグレードな物件を他人に貸すにおいては、オーナーは、物件の資産価値の保護につき、とりわけこれを気にしやすくなる。要は、あまり汚されたり、傷つけられたりしたくない。加えて、家賃が高額であること自体も実はリスクを孕んでいる。滞納が起きた際のダメージが大きいのだ。よって、これらに不安をおよぼす「望まぬ入居者」との縁を切りやすい定期借家は、リスクヘッジの面でも重宝されることになるわけだ。

2.一戸建て賃貸

一戸建て賃貸でも定期借家は採用されやすいが、その理由はハイグレードなマンションの場合とほぼ同じといっていい。

すなわち、転勤大家さんや持ち家相続大家さんが多いこと、併せて、前述のリスクヘッジが大きな要因だ。これらの条件やニーズに、定期借家はかなりの程度応えてくれるものとなっている。そのうえで、一戸建て賃貸では、定期借家へのオーナーの期待が、マンションよりもさらに増える様子も窺える。

例えば、さきほどのSUUMOで、「東京都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)」「駅徒歩10分以内」「賃料20万円以上」「一戸建て・その他(マンション・アパートは除かれる)」を検索してみよう。

すると、定期借家を含んでのヒットは約840件。対して、含まない結果は約510件となった。ざっと4割が定借物件ということになる(10月上旬某日のSUUMOでの検索結果)。

3.ローグレード物件

1や2とは逆に、低家賃で部屋が狭いなど、いわばローグレードな物件でも、定期借家は採用されやすい。

理由は、あからさまな話となるが、いわゆる不良入居者が集まりやすいゾーンの物件にあっては、ハイグレード物件とは似て非なる意味で、入居者との縁を断ちやすい定期借家が、オーナーにとって助け舟となるからだ。

それを示すデータをさきほど紹介したアットホーム社のレポートの別の部分から拾ってみよう。東京23区における「賃貸アパートに占める定期借家物件の割合」だ。

30㎡以下 …5.2%
30~50㎡ …4.2%
50~70㎡ …2.9%

このとおり、マンションの場合とはまったく逆に、部屋が狭くなるほど定借物件の割合が上がるデータが示されている。

4.気概あふれるオーナーの物件

最後に、少ない事例だが伝えておこう。賃貸経営に真剣なやる気のあるオーナーが、募集の際のアピール面で不利なはずの定期借家をあえて選んでいることがある。

ある街での例だ。駅周辺に集まる賃貸仲介会社の多くがイチオシに挙げるある単身用マンションが、実は定期借家だ。

さほど新しい物件ではなく、家賃は比較的安い。オートロックも導入されていない。それでも掃除が細かいところまでつねに行き届くなど、管理がよく、入居者は女性が多い。エントランスは、帰宅する人の目を癒すため、オーナーが飾る絵や置物によるちょっとしたギャラリーになっている。

管理会社もそんなオーナーの気持ちに応え、キビキビとよく動く。そのため、入居者の定着率も高い。賃貸経営へのあふれる気概が、見る者にもグイグイと伝わってくる“熱い”物件だ。

オーナーは、そんな物件での良好なコミュニティを維持するための、いわば枠組みとして、定期借家を利用している。つまり、この物件での定期借家は、あくまで期間満了後の再契約が前提のものだ。実質、普通借家における更新と変わらない。

ただし、万が一方向性にそぐわない行動をとる入居者が現れた場合は、長居することなく立ち去ってもらえる仕組みが、ここには用意されている。そのことを入居者それぞれも、よい意味での緊張感を保ちつつ認識し合っている雰囲気が、このマンションからは大いに感じられるといったところだ。

定期借家をハナから除いた部屋探しをすると、こうした物件が目に入らなくなることもあるわけだ。ぜひ知っておこう。 

【この著者のほかの記事】
賃貸住宅でペット可にするなら「飼育細則」を決めること そのとき重要な2つのポイント
借りようとしている物件に「抵当権」 入居して問題はない?
「昭和の大家」から学ぶ——いまどきオーナーが見逃しやすい入居者募集のキホン

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

ページのトップへ

ウチコミ!