賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律について
森田雅也
2022/04/21
イメージ/©︎annlisa・123RF
今回は、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下「賃貸住宅管理業法」といいます。)についてご説明します。
この賃貸住宅管理業法ですが、実は令和2年に成立したばかりの比較的新しい法律です。
賃貸住宅管理業法は、主に、
・サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化にかかる措置
・賃貸住宅管理業にかかる登録制度の創設
を定める法律です。
サブリース業者に関する規制は令和2年12月15日に先行して施行され、賃貸住宅管理業に関する規制は令和3年6月15日に施行(登録については令和4年6月15日までの経過措置あり)されています。
また、この法律に関わる「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」というものが、令和4年6月に一部改正されます。
賃貸住宅管理業法
賃貸住宅管理業法は、賃貸住宅管理業を営む者に対する登録制度を創設し、重要事項の説明義務などを明文化することにより、管理業者の管理業務の適正な運営を確保して、管理業者と不動産オーナーとのトラブルを防止する法律です。主にオーナーの保護を目的としています。
具体的には、
・管理戸数が200戸以上の場合には国土交通大臣の登録を義務付け
・事業所ごとに、業務管理者(賃貸住宅管理の知識・経験等を有する者)を配置
・管理受託契約の内容及び履行に関する事項について書面交付又は電磁的方法での提供
・管理する家賃等について、自己の固有の財産等と分別して管理
・業務の実施状況等について、管理受託契約の相手方に対して定期的に報告
などがあります。
以下、主なものをピックアップしてご説明します。
管理戸数が200戸以上の場合には国土交通大臣の登録を義務付け
賃貸住宅管理業(賃貸住宅の維持保全についての委託、賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務についての委託)を行う場合には、賃貸住宅管理業法の対象となり、国土交通大臣の登録を受ける必要があります(賃貸住宅管理業法3条1項)。
ただし、管理戸数が200戸を超えない場合には、例外として国土交通大臣の登録は不要です。
なお、戸数の数え方については、入居者との間で締結されることが想定される賃貸借契約の数をベースとします。例えば、いわゆる「シェアハウス」を1棟管理するケースにおいて、当該シェアハウスが10部屋から構成されており、そのうち4部屋を入居者が使用し、残りの6部屋が空室になっている場合でも、当該シェアハウスを管理する賃貸住宅管理業者の管理戸数は10戸と数えることになります。
また登録を受けた場合には、5年ごとに更新をしなければならず、更新をしなければ登録の効力がなくなってしまい、賃貸管理業を行うことができなくなってしまいますので注意が必要です。
事業所ごとに業務管理者を配置
賃貸住宅管理業者は、営業所・事務所ごとに、一人以上の業務管理者を選任しなければなりません(賃貸住宅管理業法12条1項)。
この業務管理者は他の事業所・営業所との兼任が禁じられているため、ある営業所の業務管理者が一人しかおらず、その一人が業務管理者でなくなった場合には、営業所が次の業務管理者を選任するまで管理受託契約を締結することができなくなってしまいます(賃貸住宅管理業法12条2項、同条3項)。
業務管理者とは以下の要件に該当する者となります。
そこで今回は、賃貸住宅管理業法のうち、最近施行された賃貸住宅管理業に関する部分についてフォーカスを当ててみたいと思います。まず、賃貸管理業に関してどのような規制が行われているのかをお話しし、それに関連した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」の改正点をご説明します。
1.管理業務に関する2年以上の実務経験+登録試験に合格した者
2.管理業務に関する2年以上の実務経験+宅地建物取引士+指定講習を修了した者
このように実務経験と知識を持った人が営業所ごとに存在するので、オーナーがしっかりとしたサポートを受けられるように制度設計されています。
管理受託契約の内容及び履行に関する事項について書面交付又は電磁的方法での提供
賃貸住宅管理業者は、オーナーと管理受託契約を締結しようとするときは、管理受託契約を締結する前に重要事項を説明し、書面を交付するか、またはオーナーの同意を得て電磁的方法により重要事項を提供しなければなりません(賃貸住宅管理業法13条)。この重要事項説明については業務管理者以外の者でもすることができます。
ただし、重要事項説明については、賃貸人が契約内容を十分に理解したうえで契約を締結できるよう、説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいとされています。また、どうしても説明から契約期間までの期間を短くせざるを得ない場合には、事前に重要事項説明書を郵送で送付しておき、その送付から一定期間後に説明を実施するなどの配慮をすることが望ましいとされています。
オーナーに対する報告義務
賃貸受託管理業者は、管理業務の実施状況等について、定期的に、委託者に報告しなければなりません(賃貸住宅管理業法20条)。
また、新たに管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに報告を行う必要があります。加えて、期間満了の場合も同様に報告を行う必要があります。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方の改正ポイント
令和4年6月に改正される主なポイントは、契約期間中や契約更新時の内容変更に伴う重要事項説明等に関するものです。以下簡単に内容をまとめてみました。内容が大きく変わったというよりは、追記された部分が多いといえます。
まず、契約期間中又は契約更新時に、管理業務や報酬等の変更を内容とする契約(以下「変更契約」といいます)を締結しようとするときに、重要事項説明を行う場合にあっては、オーナーが承諾した場合に限り、説明から契約締結まで期間をおかないこととして差し支えないとされました。なお、こちらは変更契約の場合にのみ適用となり、新しく契約締結をした場合には適用されませんので注意が必要です。
また、賃貸住宅管理業法13条1項の「管理受託契約を締結するとき」の考え方について、新たに管理受託契約を締結しようとする場合のみでなく、変更契約を締結しようとする場合も該当しますが、変更のあった事項について、オーナーに書面交付を行ったうえで説明すれば足りるものとしました。
このように賃貸住宅管理業法は、管理受託契約に関して、オーナーがしっかり契約内容を理解して委託できるようにすることで、管理会社とのトラブルを未然に防ぐことができるようなルールを整備しています。
もし、管理会社との契約関係で不安なことがあるようでしたら、弁護士等の専門家に相談してみるとよいでしょう。
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この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。