緊急事態宣言解除後の不動産収入対策
森田雅也
2020/06/05
先日、全国で緊急事態宣言が解除されました。これに伴い今まで休業していたお店が営業時間を短縮して再開するなど街にも経済の再開が見受けられるようになりました。しかし他方では、緊急事態宣言解除を待てず倒産した会社が全国で150社以上にも及び、倒産までいかずとも、閉店を決めたテナントチェーン店や個人経営店も多々あると日々報道されています。今後、賃貸人としてどのような対処方法があるか、以下段階的に「1.賃貸人全般について」、「2.個人事業主の賃貸人について」、「3.法人の賃貸人について」と順を追ってご紹介いたします。
1.賃貸人全般について
まず、賃貸人全般についてご紹介する際にも、居住用として利用しているのか、賃借人が事業用(飲食店や娯楽店など)として利用しているのかによっても変わってきます。
①居住用の不動産賃貸
不動産投資物件が居住用の場合では、さまざまな支援金や援助を賃借人に活用してもらい家賃を支払ってもらうよう交渉しましょう。以下が対象となると思われる支援金・給付金になります。
○特別定額給付金(国民全員に10万円の給付金を支給)
○住宅確保給付金(要件を満たせば原則3か月間家賃が支給される)
○緊急小口資金の貸付制度(主に休業された方向けの無利子での貸付金)
○総合支援資金の貸付制度(主に失業された方向けの無利子での貸付金)
日々状況が変化している昨今では、賃借人が制度自体を知らないということもありますので、賃貸人としてはこういった制度を紹介することによって、まずは契約通りの家賃を支払ってもらいましょう。それでも、支払えないという場合に前回のコラムで紹介したような敷金の充当、期間限定の家賃減額、場合によっては任意の退去などを含めて交渉をすることになります。
②テナントなどの事業用不動産賃貸
事業用においても支援金や給付金がありますので、まずはそちらを活用してもらい家賃を支払ってもらうよう交渉しましょう。①に記載したもの以外の支援金・給付金は以下のとおりです。
○家賃支援給付金
○持続化給付金
家賃支援給付金とは、休業を余儀なくされた事業者や売り上げの大幅減少に伴い、事業者を圧迫している家賃の支払い問題に対応するため新たに制度化される予定の支援金のことです。通常事業者の固定費は家賃や人件費となりますが、人件費は雇用調整助成金などで補填できたとしても家賃を補填する制度がなかったために新設されました。しかし、この家賃支援金は全額支給ではないことや、期間が6カ月と短期なため家賃に満たない場合には持続化給付金の給付金なども併せて家賃を支払ってもらうことになるでしょう。6カ月の対象期間は、今後のコロナによる第2波や経済の状況によって伸長されることもありますので、最新の情報をご確認していただくようお願いします。
2.個人事業主の賃貸人について
個人事業主として家賃収入を得ている場合に、家賃の減額や退去に伴い家賃収入が減少した場合には、持続化給付金が支給されます。
持続化給付金の要件(個人事業主の場合)は概ね以下のとおりです。
⑴ 2019年以前から事業により事業収入を得ており、今後も事業を継続する意思があること。
⑵ 2020年1月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響などにより、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月が存在すること。
コロナウイルスの影響で家賃減額に対応しなければならなかった場合や、閉店・倒産などで退去してしまったなどの場合などに要件を充足していれば支給されます。
また、家賃減額などに応じて家賃収入が減少した場合に、来年度における固定資産税・都市計画税の減免制度もあります。
3.法人の賃貸人について
家賃収入を法人として得ている場合にも、要件を充足する場合には持続化給付金の支給対象となります。要件は、個人事業主の要件に、以下の要件が加わります。
⑶ 2020年4月1日時点において次のいずれかを満たすこと。
①資本金の額又は出資の総額が10億円未満であること。
②資本金の額又は出資の総額が定められていない場合は、常時使用する従業員の数が2000人以下であること。
また、来年度における固定資産税・都市計画税の減免制度のほかにも、営業に被害が生じている取引先(飲食店など)の家賃を減免すると、通常時は、家賃の減免は寄付金扱いになりますが、災害時と同様にその免除による損失の額は、寄付金の額に該当せず、全額損金として計上することができることが明確化されました。税務上の損金として計上することができれば、その分の所得が減少する計算になるので、法人税の支払い額を抑えることができます。
以上のように、不動産投資を事業規模で行っているのか、個人事業主として行っているのか、法人化しているのか、賃借人はテナントなどの事業者なのか、居住用の個人なのかなどによってどのような対応がとれるのか、どの支援金・給付金が受給できるのかが変わってきます。今後、賃借人の対応などに迷われましたら弁護士に相談してみて一緒に解決策をみつけるのがよいでしょう。
この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。