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【家族信託活用事例】廃業時、借金等の債務があった場合も家族に迷惑をかけずに将来の相続に備える

谷口 亨谷口 亨

2019/12/22

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イメージ/©︎jat306・123RF

日本の企業の99%が中小企業で、そこで働く人の数は全従業員数の70%を占めています。2019年版中小企業白書及び小規模企業白書によると、中小企業数の減少傾向は進んでおり、2014年から16年の2年の間に中小企業数は約3万社減。安定した労働環境の維持の観点からも少子高齢化に起因する事業承継問題が大きいようです。

今回、ご相談いただいたのは、社員8人のリフォーム会社の社長さん。もしも、事業がまわらなくなった場合、事業以外の資産もなくなってしまうのかと心配されての相談でした。

相談者=鈴木弘さん(仮名)60歳
相続人は妻と長男、長女

<相談内容>
鈴木:リフォーム等の工事会社をしています。今のところ事業は順調にきていますが、体調を崩して1カ月入院したことをきっかけに事業の承継や相続のことを考え始めました。

谷口:事業承継と相続についてということですか。

鈴木:病気次第で廃業し会社をたたまなければならなくなるかもしれません。会社のことだけでなく、私個人が先祖から受け継いでいる土地のことについてもいろいろうかがえれば……。

谷口:事業を承継してもらいたいとお考えですか?

鈴木:長男がいますが、別の仕事をしています。当面、長男は今の仕事を辞める気はないようですし、無理に継いでもらいたいとは思っていません。ただ、社員もいますし、私が元気なうちは事業を継続して、いずれ会社をたたむにしても、事業に関しての面倒は、自分の代ですべて片付けたいのです。

谷口:もしも廃業した際に借金等の債務があった場合も、家族には迷惑がかからないようにしたいということですね。

鈴木:はい。個人保証で銀行に借りているお金はあります。返済が終わらないうちに廃業した場合はどうなるのか。自己破産になると事業資産以外の資産もなくなる可能性がありますよね?

谷口:そうですね。銀行と交渉して分割返済をする方法も残っていますが、自己破産をすれば、事業以外の個人資産の提供も必要になります。

鈴木:田舎なので、私には先祖から代々引き継いだ山や畑があります。もちろん自宅もですが、それだけは何があっても、きちんと長男に受け継いでもらいたいのです。

谷口:お子さんは長男さんだけですか。

鈴木:結婚して家を出ていますが、長女もいます。今どき、財産は子どもに均等に引き継ぐものだというのはわかっています。でもやはり先祖から譲り受けた土地なので分けずに、すべて長男や孫に受け継いでもらいたいと思っているのです。

谷口:民法では、子どもは平等です。

鈴木:もちろん、そのことは承知しているのですが、子どもたちが小さいころから「うちの土地、山や畑は先祖代々引き継いだものだから長男に継がせる」という話をしていたので、長女もそういうものだと納得しているはずです。

谷口:長女さんが、もし将来生活が苦しくなったりすると「少しはもらっておけばよかった」となるかもしれませんね。

鈴木:うーん、そうでしょうか。娘に嫌な思いはさせたくないですね。でも、田畑を分けるのだけは絶対にしたくありません

谷口:みんなが納得できる方法を考えましょう。

<相談の要点>
・会社を経営しているが、いずれ借金を残して廃業したときに、個人資産がなくなることは避けたい。
・家と土地は、確実に長男に引き継ぎたい。
・長女にも気持ちよく納得してもらいたい。

<提案>


・鈴木さんの名義になっている自宅と田畑を、長男に信託する。
・遺言で長女にある程度の金額を渡すことを明記する。

<提案のポイント>
1)信託には「倒産隔離機能」があります。倒産隔離機能とは信託財産が委託者の名義ではなく、受託者へと名義が変わることで、委託者が倒産した場合であっても影響を受けないということです。

2)信託財産が田畑の場合は、農地の譲渡になるため、農業委員会の許可(農地法)が必要になります。従って、信託しても土地は仮登記のままになりますが、相続が発生したときに本登記とすることができます。

3)鈴木さんが亡くなってから、長女さんが遺留分を請求することもできます。ただ、今から長男さんに信託しておけば、名義が長男のものになりますし、固定資産税も長男が払うわけですから、妹さんの心象を変えることができる。

<こんな結末が>
・実は信託手続き終了後に、長男には300万円の借金があることが発覚しました。長男は自己破産をしました。鈴木さんは土地や家が、長男の借金のかたとして取られるのではないかと心配されましたが、信託財産は、長男の財産ではないので取られることはありません。

一般に信託財産は、受託者の倒産・破綻等の影響も受けません。もしも受託者が倒産・破綻等になっても、信託財産を受託者の債権者が強制執行することは禁じられています。

・鈴木さんが会社を廃業した際、およそ500万円の借金が残ってしまいましたが、病気の悪化もなく、体をいたわりながら農業と仕事を兼業しながら自分で返済していく道を選びました。

・もし、相談をいただいた時に、長男の借金がわかっていたら、自己信託(受託者と受益者が一緒)を選択したかもしれません。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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