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「家族信託」が注目される理由――何よりも “残す人”の思い、希望を優先できる

谷口 亨谷口 亨

2019/08/14

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成年後見制度や遺言ではダメなの?

前回は、そもそも「家族信託とは」という点を書きました。家族信託は、子どもが親の財産管理等を行うために使われることが多いため、よく「成年後見制度でいいのではないか?」、また、「親の財産は遺言を書いてもらって、親が亡くなった後に円満に相続すればいい」という意見もいただきます。

まず、家族信託、成年後見制度、遺言の使える時期について見てみましょう。

① 委任契約は、本人が元気なうちに財産の管理や処分を自ら委任。ただし、老化等による認知能力の衰えが認められる時期までです。

② 成年後見制度は、本人の判断能力が低下した後に始まり、財産の管理や処分を託し、本人の死亡時まで続きます。

③ 遺言は、本人(遺言者)が亡くなった後の資産承継先を指定できます。本人の死亡により効力が発生します。

それぞれ、ご本人の身体的状態によってスタートと終点の期間が決まっているのです。

 

しかし、家族信託は信託契約により、すぐにスタートでき、終点も契約によって決めることができます。この①〜③をすべてひとつの信託契約で実現することができるのです。さらに、遺言では不可能だった④の二次相続以降の財産継承先まで指定した契約を結ぶことも可能です。

成年後見制度と家族信託の違いは?

まず、成年後見制度と比較してみましょう。

成年後見制度は、およそ21万人が利用しています。高齢者や知的障害者など、判断能力が不十分となった方のため、家庭裁判所の監督のもと、本人を代理して法律行為や財産管理を行う制度です。

業務は大きく分けてふたつ。本人に代わり財産や不動産を管理し、必要な生活費を払う「財産管理」と病院や福祉サービスなどの手続き、年金や介護保険の申請や更新手続きを本人に代わって行う「身上監護」です。

多くの場合は、子どもなどの親族が家庭裁判所に申し立て、これを受けて家庭裁判所が後見人を選ぶという仕組みです。最近のデータでは弁護士や司法書士といった「専門職」と呼ばれる人が後見人になるケースがおよそ7割になります。

「使い勝手が悪い」との声もあり、デメリットとして、財産管理・資金運用に対しての自由度が減ってしまうことが挙げられます。後見人が必要と認める費用以外は、家族であっても「〇〇のためにお金が必要」と裁判所や後見人にお伺いを立てて認めてもらわなければなりません。

 

たとえば遠方の子供が親の介護のために面会に出向くときなども、交通費や宿泊費も出してもらえず、面会の足が遠のいたという話も聞きました。成年後見制度を選ぶと、管理はできても財産を活用したり処理したりすることに大きな制限がかかるのです。

もうひとつは、この制度を利用すると、本人が亡くなるまで途中でやめることができないという点です。成年後見人、成年後見監督人には、被後見人の財産額によって、毎月2〜6万円程度の報酬を払わなければならず、たとえ預金が底をついた場合でも報酬を払う必要があります。

成年後見制度は、本人のために本人を守ることを前提にした制度なので、財産の現状維持が基本です。この点、家族信託は、成年後見制度より柔軟な財産管理・資金運用ができます。大きな違いは、認知症発症などで判断能力が不十分となったのちに、資産活用・相続税対策ができるか否かということになります。

遺言と家族信託の違いは?

遺言は、自分の死後、自分の財産の行き先や割合、分割方法を示したものです。民法で定められた法定相続分を、遺言によって変更できるということです。本人が亡くなった後に、遺言の内容に基づいて手続きが行われ、終了します。遺言書の存在をきちんと伝えておかないと発見してもらえないことも考えられます。本人が死亡する時まで効力が発生しないため、後継者には一抹の不安も残るかもしれません。

家族信託の場合は、契約をした時点で効力を発生させられます。親の財産を子どもへ信託すると、親の判断能力がなくなっても財産の管理・処分ができるため資産活用や相続税対策ができるということです。この点、遺言では、生前の財産管理には役に立ちません。

 

さらに大きな違いとして、通常の遺言は本人の次に財産を相続させる人しか指定できませんが、家族信託は二次相続以降、財産の受取人を指定することができるという点です。自分の直系血族以外に財産を流出させたくない場合などにも使うことができるのです。

ある方が「自分が死んだら財産を、とある財団法人に寄付したい」と考えたとします。今まででしたら一般的に遺言というカタチにしようと公証人のところ出向き、その思いを遺言書にしてもらい、実行を遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人)等に託すことになります。これは家族信託でも可能です。

契約いうカタチにしますから、当然、信じられる人と契約するという安心感もありますし、生前であればいつでも書き換えや再作成も可能です。

家族信託は、委任契約、成年後見制度、遺言のすべての機能、さらに数次相続までをひとつの契約書によって、一本化できるのです。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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