特例承継税制について
野田洋介
2018/11/11
〇はじめに
賃貸用不動産を所有されている方には、不動産を会社で所有されたり、不動産の所有が個人でもその不動産の管理会社が自分がオーナーである会社であることが多くあると思います。そのような不動産会社のみならず中小企業において会社及びその自社株式の承継について準備や相続発生時に相続税の資金確保がうまくいっていない方が多く見受けられます。
今後10年間に、70歳を超える中小企業等の経営者は約245万人になりますが、その半数以上は事業承継の準備ができていないと言われています。後継者への引継を支援するために、平成30年度税制改正では、「特例事業承継税制」が10年間の期間限定の措置として創設されました。
〇後継者の自社株式の税負担がゼロに
先代の経営者が後継者に非上場株式等を贈与・相続した場合に、その納税の猶予を受けることができる従来の事業承継税制では、納税猶予の対象となる株式数、評価額の割合、雇用要件の確保などに様々なリスクや不便さがあり、適用を見合わせる例もありました。
新たに創設された「特例事業承継税制」では、従来の税制の要件を大幅に見直して、不便さの解消を図り、大変利用しやすくなっています。
特に、対象株式数の上限撤廃(従来は3分の2まで)と、猶予対象の評価割合が100%(従来は贈与100%、相続80%)になったことで、後継者が取得する自社株式への贈与税・相続税の負担がゼロにできることが、大きなメリットとなりました。
以下に税制の改正による相違点をまとめます。
〇納税猶予を受けるための手続きの流れ
特例税制の提要を受けるためには、「都道府県知事の認定」「税務署への申告」の手続きなどが必要です。
① 承継計画の策定
はじめに「承継計画」を策定します。この計画は、2018年4月1日から2023年3月31日までの間に、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作成したものでなければなりません。その「承継計画」は、都道府県への提出が必要になります。
② 贈与又は相続の実行
平成39年12月31日までに、実際に相続又は贈与を行います。
③ 適用要件を満たしていることの認定を受ける
相続・贈与後は、都道府県に申請し、認定を受けます(承継計画を添付します)。
[申請期限]
贈与税の納税猶予:贈与翌年の1月15日まで
相続税の納税猶予:相続開始日後8か月以内
④ 税務署への申告
認定書の写しと共に、贈与税又は相続税の申告書を提出します。
⑤ 申告後も届出等が必要
申告後についても、5年間は、毎年、都道府県への報告と税務署への届出など所定の手続きが必要になります。
下記に特例税制を適用した場合としない場合の相続税額や猶予税額の違いについて確認します。
設例:遺産総額3億円(うち現預金2億円・自社株評価額1億円)
相続人 子供2人(長男・二男)
相続財産 長男→自社株1億円及び現預金1億円
二男→現預金1億円
1.事業承継税制の適用がないものとして、相続税の総額約6920万円と、各相続人の相続税額を計算します。
2.長男の相続分が自社株1億円のみとした場合の相続税額を計算し、長男の相続税の猶予税額約1670万円を求めます。
3.上記1で計算した長男の相続税額4614万円から猶予税額約1670万円を差し引いた約2944万円が長男の実際の納税額になります。
〇おわりに
特例事業承継税制の創設により手続きがある程度簡略化され自社株式の引継や税負担が大きく軽減されるようになりました。10年間の期間限定とはいえ計画をたて順次進めることにより円滑な事業承継税制を適用できるようになるかと思います。
しかしながら、事業承継税制にはほかに経営者、後継者、会社について適用要件もございますのでそちらについてのポイントを次回書かせていただきたいと思います。
この記事を書いた人
税理士
昭和58年8月石川県金沢市生まれ。 平成18年3月法政大学工学部を卒業しその後会計事務所に就職。 平成24年12月に税理士試験を合格し平成25年4月税理士登録。 平成29年7月に株式会社アグラデッソ会計事務所、野田洋介税理士事務所開業。 開業後も法人・個人事業者の会計、税務顧問によりタックスプランニングや資金繰りコンサルティングを行う。その他、相続対策・事業承継・組織再編・IPO支援等中小企業や個人のコンサルティングを行っている。