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省エネ性能表示制度について

森田雅也森田雅也

2024/08/22

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2024年4月から、省エネ性能表示制度が始まりました。この制度は、賃貸事業者や販売事業者も義務を負うこととなる制度です。そして、省エネ表示をすることによって、貸主や販売業者にとってメリットのある制度でもあります。今回は、この省エネ表示に関する制度について、ご説明致します。

省エネ性能表示制度とは、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」の改正により導入された制度です。

この法律は、建築物におけるエネルギー消費性能の向上や再生エネルギー利用設備の設置の促進により、国民経済の発展や生活の安定向上を図ろうということを目的としています。

そして、省エネ性能表示制度とは、販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告などに表示することで、消費者が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにするという制度です。持続可能な社会が注目される現代では、省エネという観点は関心が高まっています。省エネ性能の高さが魅力となり、省エネ性能の高い住宅・建築物の供給が促進される市場環境を整備して、省エネが促進されることを目的としているのです。

省エネ性能への関心が高まる中、賃借人などの立場からも、賃貸物件を選ぶ理由の一つに省エネ性能の高さを考える人もいます。省エネ性能の表示は、そういう賃借人などへ向けて省エネ性能をアピール手段となるのです。

2種類の発行物

省エネ性能表示制度には、2種類の発行物があります。省エネ性能ラベルと、エネルギー消費性能の評価書です。省エネ性能ラベルとは、ポータルサイトやチラシなどの広告に使用するラベルの画像です。エネルギー消費性能の評価書とは、建築物の概要と省エネ性能評価の記載された保管用の証明書です。

省エネ性能ラベル、証明書の発行は、次のような流れです。まず、省エネ性能の評価をします。その評価に基づき、自己評価又は第三者評価のいずれかの方法によりラベル・評価書を取得します。自己評価とは、自らで国が指定するWEBプログラム若しくは仕様基準に沿って建築物の省エネ性能を評価する方法です。第三者評価とは、第三者の評価機関に依頼することをいい、第三者評価制度であるBELS(ベルス)により、ラベルにBELSマークを表示できます。これにより、省エネ性能ラベルが発行されます。

自己評価と第三者評価のどちらがより良いのでしょうか。BELSによる場合、第三者の評価機関が評価するため、中立的な判断をしてもらえるということです。賃借人などの立場からも、基本的には、中立的な評価がされた省エネ性能表示の方が信頼できると考えるでしょう。また、第三者評価の場合には、補助金の制度を利用することもできるようになる場合があります。

省エネ性能表示の活用方法

では、このような省エネ性能ラベルや評価書はどのように使われて、賃借人などの顧客に情報が届くのでしょうか。省エネ性能ラベルや評価書は、仲介業者に対してBtoBのインターネットサイトなどに掲載を依頼したり、自らで掲載したりします。そして、省エネ性能ラベルがインターネット広告や新聞、パンフレットなどに掲載されることになります。

そして、顧客が、入居の申し込みなどで来店した際などに、評価書を使用して、省エネ性能を説明することができます。建物の賃貸や売買の際には省エネ性能に関心がなかった人でも、省エネ性能に関する説明をすることで、賃貸や売買の場でも省エネ性能に関心を持つようになることがあります。顧客にとっては、新たな軸で物件を選ぶことにもなり、省エネ性能ラベルや評価書によりメリットを提示することができるようになります。

省エネ性能ラベルの記載内容

省エネ性能ラベルに記載される情報は、建築物の種類によって異なります。

住宅については、①エネルギー消費性能、②断熱性能、③目安の光熱費、④自己評価で発行されたのか第三者評価で発行されたのか、④建物の名称、⑤再生エネルギー設備の有無、⑥ZEH水準、⑦ネットゼロエネルギー、⑧評価日、これらが記載されています。ここでいう住宅とは、分譲一戸建て、分譲マンション、賃貸住宅、買取再販住宅などです。

⑥のZEH水準とは、エネルギー性能及び断熱性能が一定以上でなければ満たされない基準です。この基準を達成することで、省エネ性能ラベルにある⑥の欄にチェックがつくことになります。

⑦のネットゼロエネルギーは、⑥の基準を達成しつつ、さらに太陽光発電の売電分も含め、年間のエネルギー収支がゼロ以下になると、省エネ性能ラベルの⑦の欄にチェックがつきます。この情報は、第三者評価の方法により発行した場合にのみ表示されるものです。

非住宅である場合には、ⓐエネルギー消費性能、ⓑZEB水準、©自己評価で発行されたのか第三者評価で発行されたのか、ⓔ再生エネルギー設備の有無、ⓕネットゼロエネルギー、ⓖ評価日、これらが記載されています。ここでいう非住宅とは、貸事務所ビルや貸しテントビルなどをいいます。

ⓑのZEB水準とは、ZEH基準とは異なる基準を超えている場合に記載が認められます。しかし、非住宅の用途によって、基準が変動するので、気を付けましょう。

省エネ性能ラベルを使用する場合の注意点

省エネ性能ラベルの使用方法については、気を付ける点がいくつかあります。第一は、実際のものよりも優良であると誤認されるような表示の仕方です。第二は、特定の住宅や住戸のみに該当する内容が、すべての物件に該当すると誤認される表示の仕方です。

たとえば、①複数の住戸(住棟)を一つの広告で販売・賃貸するケース、②表示後に省エネ性能の変更・最終的な販売仕様の省エネ性能に差異が発生するケース、③新築時に取得したラベルを再販時・再賃貸時に使用するケースがあります。

 (1) ①複数の住戸(住棟)を一つの広告で販売・賃貸するケース

複数の住戸(住棟)というのは、共同住宅や、一戸建ての複数棟現場のことです。この複数の住戸(住棟)を一つの広告で販売・賃貸するにあたっての対策としては、住棟のラベルを表示する際に、「共同住宅全体の性能を示すものではあり、各住戸の性能を示すものではありません。」という注記をすることが考えられます。また、代表住戸のラベルを表示する際に、「特定の住戸の性能を示すものであり、全ての住戸の性能を示すものではありません。」という注記をすることが考えられます。いずれかの対応をしましょう。

 (2) ②表示後に省エネ性能の変更・最終的な販売仕様の省エネ性能に差異が発生するケース

このケースとしては、計画変更等により省エネ性能の変更が生じた場合と、最終的な販売仕様と省エネ性能の差異が発生する場合があります。計画変更等があった場合に、性能の低下がある場合には、速やかに変更後の使用に基づいたラベルへ修正する必要があります。最終的な販売仕様と差異が生じる場合とは、追加オプション等がある場合であり、それによって変更が生まれる場合には、そのことを顧客に対し説明することが望ましいです。

 (3) ③新築時に取得したラベルを再販時・再賃貸時に使用するケース 

新築時のラベルを再販売・再賃貸時に使用できるのは、次の場合です。一つは、ラベル発行時から使用が変更されていない場合です。もう一つは、使用が変更されても、その仕様が同等以上と確認できる場合です。

まとめ

省エネ性能表示の義務については、2024年4月以降に建築確認申請を行った新築建築物が対象となります。

そして、省エネ性能表示をする義務は、努力義務です。つまり、やらなければならないわけではないけれども、やるように努めなければならない、という義務です。自分が省エネ性能表示をすれば、競争相手に対して優位に立てる場合もあれば、自分が省エネ性能表示をしていないために競争相手が優位に立つ、という場合もあるかもしれません。また、国土交通大臣は、販売・賃貸事業者が告示に従って表示していないと認めるときは、勧告・公表・ 命令をすることができます。これらの措置については、制度の施行後当面は、事業者の取組状況による社会的な影響が大きい場合を対象に運用することとされています。しかし、公表などの措置を考えると、努力義務の実質は強制に近いものといえます。

省エネ性能表示に取り組むかどうか、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。法制度の点などについて、迷うことがあれば弁護士などの専門家に一度相談してみてください。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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