国民生活基礎調査 6割が生活「苦しい」 年間所得200万円未満が2割超
朝倉 継道
2024/07/24
2023年国民生活基礎調査が公表
この7月5日、厚生労働省が2023(令和5)年「国民生活基礎調査」の結果を公表している。厳しい内容となっている。いくつか目立ったところをピックアップしていきたい。
生活が「苦しい」が約6割
まずは、「生活意識の状況」だ。約4,700の調査対象世帯から回答を得ている。(23年7月13日現在の意識)
生活が大変苦しい | 26.5%(前年20.2%) |
生活がやや苦しい | 33.1%(同 31.0%) |
普通 | 35.8%(同 42.1%) |
ややゆとりがある | 3.9%(同 5.5%) |
大変ゆとりがある | 0.7%(同 1.1%) |
生活が「大変苦しい」と感じている世帯は前年比で6.3ポイントの増加。「やや苦しい」は2.1ポイントの増加。以上を合わせた割合は59.6%、ほぼ6割となった。
対して、「普通」「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」世帯は、前年に比べいずれも割合を下げる結果となっている。
「生活が苦しい」―――児童のいる世帯で特に高い割合
厳しい答えの割合がとりわけ高いのが「児童のいる世帯」だ(18歳未満の未婚の者がいる世帯)。数字は以下のとおりとなる。「大変苦しい」と「やや苦しい」を合わせた割合は、65.0%に達している。
生活が大変苦しい | 28.5%(前年 22.9%) |
生活がやや苦しい | 36.5%(同 31.7%) |
普通 | 31.5%(同 39.0%) |
ややゆとりがある | 3.1%(同 5.4%) |
大変ゆとりがある | 0.4%(同 0.9%) |
なお、この「児童のいる世帯」だが、22年1年間の平均所得は812.6万円となっている。これは、実は高い数字だ。過去10年で最も低い13年や、2番目に低い15年に比べると、実に100万円以上増加している。つまり、近年「児童のいる世帯」の所得は、平均して大きく伸びている。
「児童のいる世帯の1世帯当たり平均所得金額:過去10年」
2013年 | 696.3万円(最も低い) |
2014年 | 712.9万円 |
2015年 | 707.6万円(2番目に低い) |
2016年 | 739.8万円 |
2017年 | 743.6万円 |
2018年 | 745.9万円 |
2019年 | ―――調査実施されず――― |
2020年 | 813.5万円(最も高い) |
2021年 | 785.0万円 |
2022年 | 812.6万円(2番目に高い) |
ところが、上記に「生活が苦しい」を訴える割合(生活が「大変苦しい」と「やや苦しい」を合わせた割合)を並べてみると、以下のとおりとなる。
年 | 平均所得 | 「大変苦しい」と「やや苦しい」の合計割合 |
2013年 | 696.3万円 | 67.4% |
2014年 | 712.9万円 | 63.5% |
2015年 | 707.6万円 | 62.0% |
2016年 | 739.8万円 | 58.7% |
2017年 | 743.6万円 | 62.1% |
2018年 | 745.9万円 | 60.4% |
2019年 | ―――調査実施されず――― | |
2020年 | 813.5万円 | 59.2% |
2021年 | 785.0万円 | 54.7% |
2022年 | 812.6万円 | 65.0% |
このとおり、22年における(22年の所得を受けての翌23年の意識としての)「生活が苦しい」割合65.0%は、平均所得がこの年より約116万円低かった13年の数字に迫るものとなっている。さらには、約100万円低かった14年や、105万円低い15年を超えている。
この“おかしな”結果の理由は何か。答えは、当然ながら、間もなく3年を超えて続こうとしている近年の物価高、生活費の増加というほかないだろう。何かと支出がかさむ子どもがいる世帯への影響が、如実に示されているこれらの数字といえそうだ。
年間所得200万円に満たない世帯が5世帯に1世帯超
「児童のいる世帯」での所得の増加―――ただし生活意識の改善には結びついていないようだ―――については、以上に触れたとおりだが、一方で、1世帯当たりの年間所得の全体平均は、ここ10年を見ると最低に落ち込んでいる(実はそれどころではなく87年―――昭和62年の513.2万円以来の低さだ)。主には、高齢者世帯、さらに独居世帯の増加が背景となっている。
2013年 | 528.9万円 |
2014年 | 541.9万円 |
2015年 | 545.4万円 |
2016年 | 560.2万円 |
2017年 | 551.6万円 |
2018年 | 552.3万円 |
2019年 | ―――調査実施されず――― |
2020年 | 564.3万円 |
2021年 | 545.7万円 |
2022年 | 524.2万円(87年以来の低い数字) |
そのうえで、この「平均524.2万円」の中身に注目してみたい。100万円単位ごとに数字を区切ったかたちでの世帯数の割合を見ていこう。
100万円未満 | 6.9%(最も所得の低い層) |
100~200万円未満 | 14.6%(最も割合が大きな層) |
200~300万円未満 | 14.5% |
300~400万円未満 | 12.9% |
400~500万円未満 | 10.7% |
500~600万円未満 | 8.5% |
600~700万円未満 | 6.4% |
700~800万円未満 | 5.8% |
800~900万円未満 | 4.6% |
900~1000万円未満 | 3.7% |
(1000万円以上は略)
見てのとおり、最も割合が大きいのは2番目に所得が少ない100万円以上~200万円未満の層となる(14.6%)。そこで、これに最も所得の低い層の割合(100万円未満 6.9%)を足してみる。すると、合計は21.5%になり、年間所得200万円に満たない世帯が5世帯に1世帯を超える状況が見てとれる。
次いで、この世帯層(年間所得200万円未満)の割合を過去5年分並べてみる。
2018年 | 19.0% |
2019年 | ―――調査実施されず――― |
2020年 | 18.5% |
2021年 | 19.7% |
2022年 | 21.5% |
20~22年と、数字が増してきているのが分かる。このあと23年、そして今年と、物価が上がる一方で“超”低所得世帯(失礼な表現だが)がじりじりと増加する憂慮すべき状態が続いている可能性がある。
経済的危機感の高まりのあとに起きたこと
以上、厳しい内容となっている23年分の「国民生活基礎調査」の一部をひもといてみた。
なお、先日、東京では知事選挙が行われたが、その結果や前後の騒ぎはともかく、街角やSNSに見られる景色からは、人々の心を覆う重い閉塞感が、筆者には色濃く感じられた。
一方、国内上場企業の今年3月期の純利益は過去最高を更新している。すなわち、企業業績はよく、株価も高い。なおかつ失業率も昨今は低い水準での横ばいだ。
しかしながら、それでもどこかでちゃんと動いていない「何か」の存在をわれわれはどうやら日々重たく感じている。それを探しあぐねては疲れ、苛立つ毎日を過ごしているといった雰囲気がある。
93年の政権交代と(細川連立政権)、09年のそれは(民主党政権)、いずれも国民における経済的消耗や疲労、あるいは危機感が、他の時期に増して高まったのちに起こっている。前者はバブル崩壊、後者はリーマン・ショックだ。
現状、日本はかつてのオイルショック以来のスタグフレーションの状態にあるのではないかとする意見も目にするなか、国民の多くは、見かけ以上の憂鬱と鬱屈を抱えながら、暑いこの夏を過ごしている可能性がある。
紹介した調査結果については、下記リンク先でご確認いただける。
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。