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マイナンバーが実現するかもしれない、理想? の社会

朝倉 継道朝倉 継道

2023/08/16

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ボコボコのマイナンバー

マイナンバーの評判が悪い。いわゆるマスコミレベルでいえば、連日ボコボコにボコられっぱなしだ。理由はご存知のとおり、次々と世間を騒がすトラブルにある。

  • コンビニ交付で、他人の証明書が発行されてしまった。
  • マイナ保険証の利用で、他人のデータが引き出されてしまった。
  • 公金受取口座に本人以外の口座が登録されていた。
  • マイナポータルで、他人の年金記録が閲覧できてしまった。
  • マイナポイントの誤付与。

――など。これらが影響して、一部にはマイナンバーカードを自主返納する人も出て来ているという。

また、そうした行動をとらないまでも、この制度に漠然と不安を感じている人は、当然のこと少なくないはずだ。

マイナンバーは理想社会をひらくカギ?

さて、そんなマイナンバーカードであり、マイナンバー制度だが、筆者はこうしたシステムは、ある種の理想社会(=ユートピア)をひらくカギのひとつになるとも思っている。

それは、「国は国民の優秀な頭脳をムダな仕事に費やさせるべきではない」という、筆者が役所勤めしていた若い頃からいつも思っていることだ。

もっとも、実際の人間社会はそう甘くシンプルではない。この理想は、現実には絵に描いた餅であり、夢にすぎないものだろう。

なおかつ、筆者がいまから語ろうとする理想は、人によっては「それってユートピアじゃなく、ディストピア(暗黒の未来)じゃね?」――なのかも(笑)

とりあえず、話をひもといていこう。

「相続税」が存在する理由

20年くらい前のことになる。あるところで知り合った税理士に、筆者は「相続税が存在する理由は何でしょうか?」と、尋ねたことがある。

答えは「大きく2つある」と、いうことだった。

ひとつは、富の再分配のためだ。相続税によって、富の集中すなわち資産の固定化を防ぐ。具体的には、限られた一家・一族が資産を独占し、増やし続けるような状態をつくらないようにする。そのことで、貧富の格差の定着を抑え、社会構造に健全な流動性をもたらそうとするものだ。なお、以上は財務省が公表している一般向け質疑応答(身近な税・Q&A)においての、相続税の存在理由を語る唯一の答えともなっている。

2つ目は、意外なものだった。「相続税は所得税を補完するために存在する」という。こうした解釈、もしくは定義は一般には知られていないが、国税当局の職員などであれば誰でも承知している。税務大学校(税務にかかわる国の研修機関)の教科書となる「講本(相続税法)」の冒頭にも、さきほどの富の再分配とともに、相続税の存在理由としてこれが明記されている。ちなみに、何か意味が込められているのか、掲げられる順番はこちらの方が富の再分配よりも先になっている。

考え方としては、「国として、国民に対し、過去に捕捉・徴収しきれなかった所得税をあとから相続税のかたちで払わせる」と、いうものになる。

何となれば、さまざまな税制同様、所得税においても軽減措置や免除等が政策上の都合などによってたびたび生じうる。その結果、個々人において、本来納めるべき税の利得分が偏ったかたちで蓄積されたりもする。それをあとから相続税として、いわば清算させることで、税負担の均衡を図っていくというやり方だ。

つまり、ここで生ずる税の利得分については、消費に流れた分以外は、相続遺産に流れ込むだろうとの見立てがベースとして存在する。消費の分については、消費税が網をかける理屈となる。

なおかつ、こうした補完の意味にあっては、いわゆる節税や、作為、不作為によらず生じた申告漏れに対する後日清算があることも、すなわち明白といえるだろう。

所得が完全把握されれば相続税は要らない?

さて、以上の説明を聞いた当時、筆者が思ったことが今回の本題だ。

それは、いきなり突飛だが、「個人の所得の完全な把握さえできれば相続税など要らないのではないか」と、いうことだ。

もう少し丁寧にいおう。「要らない」とは「相続税という税項目・制度をわざわざ別建てでつくる必要がない」ということになる。なおかつ「そんなものに社会がコストをかける必要はない」と、いうことになる。

さきほど挙げた、相続税が存在する理由を振り返ろう。述べたとおり、これには大きく2つがあるということだが、とどのつまり、どちらも課税対象は「所得」であるにすぎない。

ひとつは、相続によって相続人に生じた遺産所得だ。現金であればその額がそのまま、不動産等であれば法令によって導き出される評価額が課税対象となる。(税制上は相続した財産を所得としては扱わないが、ここでは広義の意味で)

さらには、未捕捉となっていた過去の所得だ。前述のとおり、相続税はその補完機能によってこれらを捕捉する。ただし、そのやり方はいささか大雑把で、本来ならば過去の捕捉漏れなるものが存在しないことこそが理想のはずだ。

つまり、所得の捕捉が常時パーフェクトであれば、相続税という後追いの仕組みは必要がない。相続も含む随時の所得に対して、随時に所得課税が行われればよい話となるわけだ。

法人税も要らなくなる?

そのうえで、税の素人である筆者がさらに飛躍して思ったのは、「それならば法人税も要らなくなるじゃないか」と、いうことだ。

たとえば、企業の儲けというものは、その企業を構成する個々人が生み出した「価値の総和たる所得」の一部となる。そのうえで、個々人においての所得の把握が完璧に行われ、そこに国家が必要とするだけの課税が十分に行われる仮定にあっては、法人税なる制度を屋上屋に建て増しして、そこにコストをかけることには無駄が多い。それよりも、企業の儲けは人的・物的再投資に向け全力投入してもらう。その方が、国や社会の未来のためにはよりよいのではないか――と、そんな感想だ。(人的投資はのちに所得税として果実化する)

よって、諸々を端折った上で、究極的にはこうなるわけだ。

「税金は、個人所得の完全な把握が行われた場合の個人所得税とVAT(日本においては消費税)、このシンプルな2本立てで国はやっていけるのではないか?」(資産税については原則所得化したときに所得として捕捉する)

そうなれば、われわれは、現在社会に存在する有象無象の税制がもたらす膨大な人的、時間的コスト、併せて両者がおよぼす甚大なストレスからも解放されるわけだ。

ディストピアかユートピアか

さて、以上のように妄想したところで、筆者はその後、眠りから覚めた途端記憶から失われた夢のように、こうした考えを忘れてしまっていた。

それを久しぶりに思い起こさせてくれたのがマイナンバーだ。この制度は、もちろんあからさまにはそうアピールされていないが、誰もが理解していることとして、国民個々における所得と資産の完全把握こそがその将来目的の中心にある。それをテクノロジーがいよいよ可能にしようともしている。

よって、ディストピアなニオイをまさにそこに感じる人も多いものと思われるが、一方で、筆者はユートピアも感じているということだ。

それは、国民個々の所得、さらには資産の完全把握を目指すこのような制度が有効に機能すれば、税制はおそろしいほどシンプルになりうるという可能性を指す。なおかつ、それへの期待となる。もちろん、税制のみならず、社会保障制度等にあってもそれは然るべきこととなる。

13万を超える「税」にかかわる人々

税理士登録をしている人の数は、国税庁の公表によると、2021年度現在、全国で8万人を少し超えているそうだ。10年度は約7万2千人、00年度は約6万5千人だった。つまり、ここ20年ほどで2割を超える増加となっている。

一方、国税庁職員の数は、現在約5万6千人となっている。両方を合わせて13万人を超えている。国の税金を集めるという“単純”な仕事のために、ざっとこれだけの頭脳と労働力が費やされていることになる。ちなみに、海上保安庁職員の定員は1万5千に満たない。世界で6番目の広さをもつわが国の広大な海域を日夜守ってくれている人々の数だ。

筆者は、冒頭にも触れたが、昔役所の末端で働いていた。その経験上、いまも怨念に近い想いで憎んでいることがある。それは、制度が人材を食い潰すことだ。

その制度が、社会にとって必要かつ有用、併せて合理的なものならば問題はない。だが、そうでない制度や、いまは必要ではなくなった制度、あるいはいたずらに複雑化した制度、果ては既得権をのさばらせるためにのみ機能しているような制度が、本来優秀な人材をかっ攫い、余計な仕事に縛り付け、挙句の果てには腐らせる愚を公務の現場ではたびたび目にすることがある。

そのうえで、税理士や国の税務職員、あるいはそれを目指せるような優秀な人材は、おそらく他に臨んでも優秀なケースが多い。幾万人たる彼ら・彼女らは、より国の未来に向けて生産的な場で活躍した方がよいはずだ。

そうした意味で、筆者の想うところ、ボコボコのマイナンバー制度には実はユートピアの種もパッケージされている。

これを芽吹かせられるか否かは、われわれの関心の矛先次第となる。

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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