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改修工事により居住不能となった賃借人との法律問題

森田雅也森田雅也

2024/12/17

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賃貸物件を経営していると特定の部屋について改修工事をする必要が発生することは珍しいことではありません。改修工事が複数日に及ぶ場合や何週間と長期に及ぶことになった場合には、当該部屋を借りている賃借人は、改修工事期間中に、当該部屋に住むことはできなくなってしまいます。そのような賃借人は、改修工事期間中にホテルに泊まる等の対応をしてもらうこともあるかと思います。その場合、改修工事期間中には、賃借人は当該部屋には住んでいないのだから、賃料を請求することができないのでしょうか。また、改修工事が原因となり、ホテルに泊まっているのだからといって宿泊費を請求されてしまった場合、宿泊費を支払わなければいけないでしょうか。今回は、賃貸人と改修工事により居住不能となった賃借人との法律関係についてご説明します。

1 賃借人の改修工事の受忍義務

まず、賃借人は、自身が借りている部屋に改修工事の必要が生じた場合でも、改修工事を拒否することができるのでしょうか、
民法606条1項は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りではない。」と規定しており、賃貸人が賃貸物の使用及び収益に必要な修繕義務負うことを定めています。また、同条2項は、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。」と規定しており、賃貸人が賃貸物の保存行為を行う権利を有すること及び賃借人は賃貸人保存行為を認容する義務を負うことを定めています。したがって、賃借人は、自身が借りている部屋に改修工事の必要が生じた場合でも、改修工事を拒否することができず、改修工事の受忍義務があるといえます。なお、賃借人がこれを拒んだ場合には、契約解除原因となるという裁判例も存在します(横浜地裁昭和33年11月27日下民集9巻11号2332号)。

2 改修工事期間中の賃料を請求することができるか

それでは、賃借人の改修工事の受忍義務があるとはいえ、改修工事により居住不能となった賃借人に対して賃料を請求することができるでしょうか。

この点、賃借人が目的物の使用収益を全くできなかった事例の裁判例(東京地裁昭和54年2月20日判タ389号117号)は、賃料は使用収益の対価として月末に支払われるもので、民法533条の同時履行の抗弁権が厳格に適用される場面とはいえないが、公平の観点からその趣旨を拡張して支払拒絶が認められるとして、賃借人は使用収益できなかった期間の賃料支払義務を免れると判断しました。

また、他の裁判例(東京地裁平成26年8月5日判例集未搭載)は、改正前民法536条1項が「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」と定めていたところ、「賃貸借契約の対象不動産につき、賃借人の責めによらない原因により、賃貸借の対象物が滅失するに至らなくても、客観的にみてその使用収益ができず、賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になった場合は、公平の見地から、民法536条1項を類推適用して、賃借人は賃借物を使用収益できなくなったときから賃料の支払義務を負わないものと解する」と判断し、賃借物が使用収益をできなかった場合、危険負担を用いて賃借人の賃料支払義務を否定する余地があると認めています。

これらの裁判例から分かることは、賃借物の使用収益と賃料の支払いが対価関係に立つということです。そうだとすると、改修工事により、その期間中に居住不能な賃借人には、部屋を改修工事より使うことができなくなってしまっていることから、客観的に目的物の使用収益することができなくなっているということができる以上、その範囲で賃料の支払いを免れるという裁判例の理論が当てはまるといえます。

したがって、改修工事により居住不能となった賃借人に対して、居住不能であった期間の賃料を請求することはできません。なお、民法611条1項は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と定めています。そのため、部屋の一部が使用不能になっているが、改修工事をしている部分以外は使用をすることができる場合には、当該使用できない状態が生じたことにつき賃借人に帰責事由がない限り、その割合に応じて賃料は当然に減額され、賃借人は、賃料の一部を支払う必要があります。

3 ホテルの宿泊代金の支払い義務があるか

次に、賃借人が改修工事期間中にホテルで宿泊を強いられたとして、ホテル宿泊代金を請求された場合、賃貸人はこれを支払う必要があるのでしょうか。

まず、賃借人が上記の請求をする場合には、賃貸人には目的物を賃借人に対して使用収益をさせる義務があるにもかかわらず、当該部屋に居住させることができなくなったという義務違反があり、当該義務違反のためホテル宿泊代金を支出せざるを得なくなったとして、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。

もっとも、前述のとおり、賃貸人は、賃貸物の保存行為を行う権利を有しているうえに、賃貸人の行う保存行為を受忍する義務を負います。そのため、改修工事はあくまで賃貸人の権利に基づいて行われているものであり、工事の間、賃借人が部屋の使用収益が妨げられたとした場合でも、これをもって賃貸人の責めに帰すべき事由によるものとはいえず、一般的には賃貸人の債務不履行を観念することができません。

したがって、賃借人が賃貸人に対して、ホテルの宿泊代金を請求することは困難であるといえます。なお、同様の理由で賃借人からの当該賃貸借契約の解除も認められることは難しいといえます。

4 まとめ

以上のように、改修工事により居住不能となった賃借人との間では様々な法律関係が生じます。実際の事例では、賃貸人の行う改修工事が保存行為に該当するかという点や、改修工事期間中に本当に居住不能となっているかという点など、争いとなる箇所が多くあり、これらは簡単な問題ではありません。このような紛争を防止するためには、賃貸借契約を締結する時点で、賃貸人及び賃借人の間で改修工事の必要性や改修工事を行う予定がある場合にはその時期等について、共有することも重要となります。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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